これは恋ではありません | ナノ
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 05:休みの日にする事

カタクリは昨日のように邪魔が入るのはもう嫌だったので、朝早くに屋敷を出て隠れて喫茶店の開店時間まで待つことにした。
開店時間10分前になりカタクリは喫茶店の入口をチラリと見て首を傾げる。いつもなら何人か開店前に並んでいるのに今日は一人も並んでいないのだ。でもこのまま誰も来なければナナシさんのサービスを独り占め出来るのかとカタクリはにやけてしまう。

そして喫茶店の開店時間になったのだが何故かナナシは外に出て来なかった。ドアにかかっている看板をいつもopenに変えるはずなのに可笑しいと思いながらカタクリは喫茶店の前まで移動し、絶望した。

「定休日……!!」

そう今日は喫茶店の定休日だった。いつもなら覚えているのだが、コーヒーを飲む事しか考えていなかったカタクリはすっかりその事を忘れていた。
膝をつき少し項垂れていたのだが、しばらくすると立ち上がった。カタクリは喫茶店の定休日には決まってやる事がある。

それはナナシと偶然会うために町を歩き回る事。

もちろんカタクリはナナシがどこに住んでいるのか知っているので会おうと思えばすぐに会えるだろう。でも家に押し掛けるなんて恥ずかしくて出来ないし、行ったとしても自分からは何を話せばいいかわからない。
でも町で偶然会ったのなら島の大臣であり店の常連客でもあるのでナナシの方からカタクリに近付き色々話してくれるのだ。運が良ければ試作のお菓子をもらえる事もある。
カタクリは先週のこの時間はたしか花屋の側にいたなと考えながらスタスタと歩き出した。





町をうろつき始めてから二時間はたったが、まだナナシを発見できていなかった。ナナシさんはいったいどこにと思いながらカタクリは辺りを注意深く見回す。
町の人達に聞いて回ればきっともう見つかっているかもしれないが、カタクリはナナシに探している事がバレたら恥ずかしいのでそんな事は絶対にしない。だからたまに会えないで一日が終わってしまう日もある。
今日は会えないのだろうかとカタクリが少し諦めかけていた時、前方で花を抱えて歩いているナナシを発見した。
一気にカタクリの心臓が早くなる。落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせ平常心を保ちナナシには気付いていないふりをしながら真っ直ぐに歩いていった。

「あ、カタクリ様」

ナナシはすぐにカタクリに気付いた。よしっ!とカタクリは心の中でガッツポーズをする。

「こんにちは。見回りですか?」

店にいる時とは違い少しラフな格好をしているナナシがにっこりと笑いながら首を傾げる。
私服のナナシさんもやっぱりカッコイイと思いながらカタクリは頷いた。

「お疲れ様です」
「ああ」

ナナシさんとお話し出来た!とカタクリが幸せを噛みしめていた時後ろの方からナナシを呼ぶ声が聞こえてきた。
ナナシはそれに気付くと笑顔で手を振ったのでカタクリは振り返る。いつも喫茶店で見掛ける女性二人がこっちに駆け寄ってきていた。

「カタクリ様、ナナシさんこんにちはー」

女性達は少しきゃーきゃー騒ぎながらカタクリとナナシの前で足を止めた。ナナシはもちろん笑顔であいさつを返すのだが、カタクリは邪魔しやがってと思いながらナナシにバレないように舌打ちをした。

「お店の定休日にナナシさんに会えるなんて嬉しいです!」
「定休日の日はナナシさんに会えないから寂しくて……本当毎日営業して欲しいっていつも思ってます!」
「あはは、ありがとうございます」

バカ野郎!休みなく毎日営業なんてナナシさんが体調でも崩したらどうするんだ!と思いながらカタクリは女性達を睨み付けた。
女性達はそれに気付いたのか少し顔を青くして私達もう行きますねとすぐに立ち去ろうとしたのだが、ナナシがちょっとお待ちをとそれを止めた。そして持っていた花から二本選んで女性達の前に差し出す。

「どうぞ」
「え?いいんですか?」
「はい。可愛らしい女性にはお花が似合いますからね。よろしければもらってください」

そう言いながらにっこりと笑うナナシを見て、顔を赤くし女性達はきゃーと叫びながら花を受け取った。

「あ、ありがとうございます!」
「あ、明日もお茶しに行きますね!」
「はい。お待ちしております」

手を振り立ち去る女性達に頭を下げているナナシを見て、自分も女だったら花をプレゼントしてもらえたのだろうかとカタクリは少し羨ましそうにそれを見ていた。

ナナシは女性達が見えなくなるとカタクリを見上げた。

「私もそろそろ行きますね」
「………ああ」
「あ、そうだ」

ナナシは花を一本差し出した。カタクリの目はキラキラと輝く。

「もしご迷惑でなければ……」
「迷惑だなんて思わない」

カタクリは花をそっと受け取り潰さないように優しく握った。
花とカタクリなんてちょっとミスマッチな組み合わせだが、なんだかそれが逆に可愛く見えてナナシは少し笑った。















「明日また店に行く」
「はい、お待ちしております。コーヒーの準備をして」
「た、頼む」
「フフ。それではまた明日」
颯爽と去っていくナナシの後ろ姿を見てカタクリはいい日だったと思いながら屋敷へと戻っていった。










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カタクリさんは自分が一番のファンだと思っているから、自分と同じ常連客を勝手にライバル視してると思う。

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