04:店内喧嘩禁止
カタクリは朝からずっとそわそわと落ち着かない。ナナシに『カタクリ様にだけ特別に』と昨日言われたからだ。
本当は朝から店の前で待っていようかなんて考えたりもしたのだが、ナナシに気を使わせたらいけないと思い耐えた。
そうなると何時に行くのがちょうどいいのかと考えているうちに時計の針はお昼を過ぎていた。
自分の腹が鳴る音でそれに気付いたカタクリは今から行って昼飯を食べようという考えで落ち着いた。
あまり混んでないといいがと考えながら立ち上がろうとした時、部屋のドアがノックされてダイフクとオーブンがよっ!と言いながら入ってきた。
「………なんの用だ?」
カタクリはあからさまに不機嫌な顔をして答える。
「なんだよ!お前が遠征から帰ったって聞いたからわざわざ来たのによォ!」
「そうだそうだ!」
「頼んでない。用がないならさっさと帰れ」
「なんだ?今日はやけに冷てェじゃねェか」
「一緒に喫茶店で飯でも食おうぜって誘いに来たのによォ」
「なっ!?」
今日はカタクリにだけ"特別"にコーヒーが用意される予定だが、でも親切なナナシならきっと一緒に来た人の分のコーヒーも気を使って用意してくれるだろう。
でもそれではせっかくの自分だけの特別が特別ではなくなってしまうと思った。
「断る!!!」
だからカタクリは大声で叫んだ。
「なんでだよ!?」
「どうせお前今日も行くんだろ!?」
「今日は!一人で!行くんだ!」
カタクリは自分の島に帰れと二人を部屋から無理矢理追い出す。
屋敷の窓から二人が帰っていくのを確認し、しばらくしてからカタクリは喫茶店に向かった。
カタクリが喫茶店に入ればすぐにナナシが笑顔で出迎えてくれた。
「カタクリ様いらっしゃいませ」
「今日は昼食を……」
「お二人がお待ちですよ」
「…………ふ、二人?」
ナナシがあちらですと手をやった方にカタクリがゆっくりと視線を向けると、笑顔で手を振るダイフクとオーブンが目に入った。
「お!やっぱり来たなカタクリ!」
「早くなんか食おうぜー!」
「フフ。お二人ともカタクリ様がきっとすぐ来るからとお腹が空いたと言いながらも注文もせずに待っていたんですよ。本当に仲良しなんですね」
そう言いながらにっこりと笑うナナシ。いつもなら今日もカッコイイとカタクリは思うところなのだが、今は二人への怒りしかなかった。
カタクリは二人に近付き胸ぐらを掴んだ。
「自分の島に帰れって言っただろうが!!」
カタクリがこんなに怒ると思っていなかった二人はとても驚いた。
「な、なんでそんな怒るんだよォ!?」
「カ、カタクリ今日はどうしたんだ!?」
店内の客は怯えながらその様子を見ている。
これはいけないと思ったナナシはカタクリの腕の上に申し訳ありませんと手を置いた。
カタクリはナナシに腕を触られた瞬間ビクッと跳ね上がり固まる。
「カタクリ様落ち着いてください。他のお客様のご迷惑になりますので店内で喧嘩はお止めください……どうしても続きがしたいのであれば、外でお願い致します」
いつもの穏やかな表情とは全く違うナナシの顔。
ピリッとした空気が流れてダイフクとオーブンはとっさに構えたのだが、カタクリは大人しく二人から手を離しすまないと言いながら座った。
すると空気も、ナナシの表情もいつも通りの穏やかなものに戻った。
「ありがとうございます。それでは皆様ご注文はお決まりですか?」
「え?あ、えっと……これ?」
「あ、おれも」
「おれもそれで」
「かしこまりました」
ナナシは何事もなかったかのようににっこりと微笑んでカウンターの中へと戻った。
ダイフクとオーブンはナナシの事をじっと見ている。
「今……覇気だったか?」
「ああ。一瞬だったが、あれはたぶん……なァカタクリどう思う?」
「すごくカッコイイ」
「は?」
二人がさっきのあれは覇気だったのかと真面目に考えているのに、カタクリは両手で顔を覆い足を軽くばたつかせながら悶えていた。
「いつもの穏やかな表情のナナシさんもカッコイイが、今の凛とした表情も最高に素敵だった……!新たな発見だ、ありがとう!お前達を許す!!今のあの顔……もう一度見たい。しかしナナシさんに注意されるのは……くっおれはどうすれば!!」
「あ、ダメだこいつ全然話聞いてねェ」
「まあ、あいつが覇気使えても使えなくても問題ないか?」
二人は訳のわからないままぶっ飛ばされるのが嫌だったので、カタクリの機嫌が直ったならそれでいいかと思うことにした。
「……そうだ!お前らちょっとナナシさんの前で喧嘩してきてくれ。おれここで見てるから」
「いや、ふざけんな」
しばらくして三人のテーブルに注文した料理が運ばれてきた。
ナナシはテーブルに料理を並べながら兄弟喧嘩の原因はなんだったんですか?と尋ねた。
カタクリは黙ったまま何も言わないのでダイフクとオーブンはぶーぶー言っている。
「カタクリちゃんと理由言えよ!」
「そうだそうだ!おれ達訳もわからずぶっ飛ばされるなんてごめんだぞ!」
「だ、だから自分の島に帰れって言ったのに……」
「まずそこだ!なんでいつも一緒に来てるのに今日はダメなんだよ?」
「その理由を聞かないと納得出来ないぞおれ達は!」
「…………」
カタクリは口元のストールをぎゅっと掴んで聞き取れないほどの小さな声で何か言っている。
なんだよ!と言いながら二人はカタクリに迫った。
「だって、昨日、おれにだけって……」
その言葉を聞いてナナシはコーヒーの事だとわかりクスクスと笑った。
カタクリは笑われている事に気付くとストールを掴んだまま黙って下を向いてしまう。
ナナシはすみませんと言いながらカタクリに耳打ちした。
「コーヒーはまた今度カタクリ様がお一人の時にでもいいですか?」
そう言ってにっこりと微笑むナナシを見てカタクリは大声でもちろんだ!と叫んでしまった。
思ったよりも大きな声が出たので、またやってしまったと恥ずかしさでカタクリは顔を真っ赤に染めて下を向いた。
それを見てナナシはカタクリ様は見た目と違って本当に可愛らしいと思いながらまたクスクスと笑っていた。
ダイフクとオーブンはニヤニヤしながらカタクリの事を見ていた。なんとなく二人が何か約束をしていたのだろうと察したようだ。
「なんだ?何がもちろんなんだ?」
「兄弟に秘密なんて水臭いぞー?」
「………」
「私とカタクリ様だけの秘密なんですよ。ね?」
カタクリは顔を真っ赤にしてコクコクと頷いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
実は夢主けっこう強い設定だったりします。もちろんシャーロット家には全然敵いませんけどね。