これは恋ではありません | ナノ
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 17:女らしく

今日は解体業者が夜まで作業予定なのでナナシは特にやる事がなかった。でも明日、明後日はオープンの準備で忙しくなるので、ちょうどいいかと思いながらナナシはゆっくりと朝食を食べていた。

ナナシが食後のコーヒーを飲んでいる途中で父親がおはよーと起きてきた。

「僕もコーヒー飲みたい」
「そこにあるから自分でやって」
「冷たいなァ」

父親はぶーぶー文句を言いながらも自分でコーヒーを入れ始めた。

「ところでナナシさー」
「何?」
「それ、どうしたの?」

コーヒーを飲みながら父親が指差したのはカタクリからもらったジュエリーボックスだった。

「……カ、カタクリ様からいただいた物だけど」

少し顔を赤くしながらナナシは答えた。

「ふーん……それさァ、いくらか聞いてる?」
「え?いや、高いか聞いたら、そうでもないって言ってたけど……も、もしかして、やっぱり凄く高い物なの!?」

どうしようと慌てているナナシを見て父親は笑った。

「僕もわからないよ。ちょっと気になって聞いただけ。でもカタクリ様がそうでもないって言ってるなら、きっとそうでもないんだよ」
「そ、そう」

人からの贈り物の値段を調べるなんて失礼だと思いナナシはしなかったが、父に聞かれた事でやっぱりとんでもない値段の物を受け取ってしまったのではと不安になる。

「……ちょっといくらか鑑定してもらおうかな」
「ダメだよナナシー!男からの贈り物の値段を調べるなんて野暮な事したら!めっ!」

そう言って笑いながら父親はナナシのおでこをコツンと叩いた。

「……わかった」
「それよりも僕としては……」

父親は話を変えようと思ったのか、ジュエリーボックスの前まで移動し蓋を開けた。

「これが空っぽなのが気になるんだよねー」
「だって、アクセサリーとか持ってないし……」
「じゃあ、今日はアクセサリーを買いに行こー!ついでに女の子らしい洋服もだー!」
「は?いらないよ。仕事中はつけないし」
「休みの日はつけたっていいじゃん!それに僕はナナシがちょっとは可愛くなってるかなァと期待して来たのに何も変わってないんだもん!いい加減女の子らしくしなさーい!」
「い、いいよ。柄じゃないし……」
「もー!そんなんじゃカタクリ様に好きになってもらえないぞー?」
「ちょっ、はァ!?な、何言ってるの!?」

ナナシはガタンと立ち上がった。顔は真っ赤になっている。

「カタクリ様の話をしている時のナナシはねェ、まさに!恋する乙女〜って感じだった!」
「ち、ちがっ」
「いいんだよ、いいんだよ!相手が誰であっても好きになるのは自由さ!ほら、恋はいつでもハリケーンって言うでしょ?」
「……」

顔を真っ赤にしたまま固まっているナナシの肩に父親は腕を回した。

「ナナシはどちらかと言えば僕に似てるけど、お母さんにも似て可愛い所もあるからさ!可愛い物だってきっと似合うよ!」
「……まあ、見るくらいなら」
「よーし、そうと決まれば急いで支度だー!」

そう言いながら父親がイスに座ったのでナナシは首を傾げた。

「支度は?」
「先に朝ごはんだよ!僕スクランブルエッグー!」

早く早くー!と足をばたつかせている父親を見て溜め息をつきながらナナシは朝食の準備を始めたのだった。





朝食を済ませるとナナシたちは家を出てジュエリーショップを目指した。
何件かあるショップの中で父親が選んだのは、若い女性に人気のある可愛いアクセサリーの多い店だったのでナナシの足は止まった。

「ナナシどうしたの?」
「いや、ここは……ちょっと恥ずかしい」
「大丈夫だよ!ナナシは若いんだからー!」
「いや、年齢の問題ではなく……」

「あ!ナナシさーん!」
「お父様もーおはようございますー!」

よく店に来てくれる常連の女性二人が駆け寄ってきた。前に花をあげた事がある二人だ。
ナナシはにっこりと微笑みながら会釈し挨拶をした。父親の方も手を振りながらおはよーと言っている。

「お店が三日間お休みで会えないと思ってたから凄く嬉しいです!」
「朝から幸せー!」
「ハハ、光栄です」
「お二人はお店の方に行かれるんですか?」
「いえ、今日は業者が夜まで作業予定なので、その、私たちは、えっと……」
「僕たちこれからここでお買い物ー!」
「ちょっ!」

父親は目の前のジュエリーショップを指差してしまったので、この店で買い物をしたいというのを隠そうとしていたナナシは顔を少し赤くしながら父親の手を叩いた。

「え?ここですか?」
「ナナシさん、が?」

女性二人は凄く驚いた顔をしていた。
それに気付いたナナシはなんだか悲しくなってきて下を向いてしまったが、すぐに笑顔を貼り付けて女性二人に話し掛けた。

「父が勝手に言っているだけなので!私のような女がこんな可愛い店のアクセサリーなんて変ですよね!ちゃんとわかってます!家で作業がありますのでそろそろ失礼しますね」

ナナシは会釈すると駆け出してしまった。
女性二人がナナシさん!と叫んでいたようだがナナシには聞こえていなかった。

すぐ父親も駆け出してナナシを追い掛けた。

「ナナシ!ナナシってば!」

父親が何度名前を呼んでもナナシは走る事をやめず、追い付いてナナシの肩を掴む事でやっと止める事が出来た。

「あの子たちは別に変なんて言ってないよ?」
「……でもきっと思ってたよ」
「そんな事ないよ。買い物しよう?」
「……もういい」
「良くないよォ!他のお店でも……」
「帰る」
「ねェナナシー!」
「……」

ナナシは黙って家の方へ歩いて行くので父親は溜め息をつきながら黙って後ろを歩き出した。





夜になるとナナシが店の方に行ってしまったので暇な父親はある所に向かった。

「やあ!」
「……なんの用だ?」

父親が向かった先はカタクリの屋敷だった。
ナナシさんの父親がいらしていますと部下に言われた時正直カタクリは出るか迷った。だってナナシの父親だとわかっても馴れ馴れしい態度を思い出すとあまり好きだとは思えなかったのだ。
だけど、それでもナナシの父親だからと我慢して出る事にした。

「えー?なんか冷たくなーい?」

ヘラヘラと笑いながら馴れ馴れしく話し掛けてくるナナシの父親を見るとやっぱりカタクリはイラッとする。

「用がないなら帰れ」
「本当冷たいなァ!ナナシに教えてもらってドーナツ作って持ってきたのにィ!」
「何!?」

ドーナツと聞いてカタクリの目の色は変わる。それに気付いたナナシの父親は楽しそうに笑った。

「本当にドーナツ好きなんだねー!よしよし、立ち話もなんだしお茶でも飲みながら話そうよ!」

おじゃましまーすとナナシの父親は勝手に屋敷の中へと入ってきた。
なんて図々しい奴だとカタクリはまたイラッとしたのだが、ナナシに教えてもらって作ったドーナツならさぞかしうまかろうと思い仕方なくゲストルームへと案内した。















出された物はとてもドーナツとは言えないものだった。
「……なんだこれは」
「失敗しちゃったんだ!エヘ」
「……」
「でもちょっと食べてみてよ!凄いんだよ!」
「…………!ま、不味い!!」
「でしょー!凄くないこの不味さ!!」
楽しそうに笑っているナナシの父親を見てカタクリは殺意が湧いた。










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女性たちは驚いただけで本当に変なんて思ってなかったです。あと、父親は料理センス皆無。

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