これは恋ではありません | ナノ
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 15:見た目の話ではない

「そもそも、なんであいつに可愛いって言われたんだよ?」

殴られた頬を擦りながらオーブンはカタクリに尋ねる。
カタクリはよくぞ聞いてくれたと言うような顔でナナシの話を始めたのだが、まずはと遠征に行く時にもらったドーナツの話を始めた。オーブンがいなかった時の話なので自慢したいのだろう。ダイフクは知っている話を聞く気がないのか、話そっちのけでお菓子をもしゃもしゃと食べている。
ナナシさんが、ナナシさんは、ナナシさんと……嬉しそうに話しているカタクリを見て、長くなりそうだなと思いながらオーブンも目の前のお菓子を食べ始めた。

そして脱線しながらもなんとか可愛いと言われた時の話まで終わった。

「と、言うわけだ」
「その流れで、可愛いって言われたのか?」
「ああ」
「……わかんねェな」

やっぱりわからないオーブン。

「カタクリよォ」

後半からは話をちゃんと聞いていたダイフクが口を開いた。

「可愛いって、嫌味だったんじゃねェかァ?」

ダイフクがそう言うとカタクリがピクリと反応する。

「ど、どういう事だ?」
「だってお前びちょびちょで、しかも閉店ギリギリに行ったんだろう?」
「で、でもナナシさんが良いと……」
「いや、島の大臣だぞ?見て見ぬふりなんて出来ねェだろうが」
「確かに!それならカタクリを可愛いなんて言ったの納得出来るな!」

ダイフクとオーブンはそう言いながら笑った。
もちろんナナシが嫌味なんて言うような奴ではないとわかっている。でも二人はカタクリに殴られたので、ちょっとした仕返しのつもりで少し不安にさせてやろうとこう言った。

ひとしきり笑った後、冗談だと言おうと二人はカタクリの方を見て、げっ!と声を上げた。

カタクリが地面に手と膝をつき、ズーンと落ち込んでいたからだ。

「カ、カタクリー?」
「……おれは、調子に乗っていた」
「え?」
「ナナシさんが最近前よりも、おれに優しいと思ってしまい、その優しさに勝手に甘え、結果おれはとんでもない迷惑を……嫌味を言われて当然だ!おれは、おれはなんて愚かなんだ!!!」

そう言いながら床をダンダンと叩くカタクリ。屋敷が壊れると思ったダイフクとオーブンは慌ててカタクリの腕を掴んでなんとか動きを止める。

「じ、冗談!冗談だから!」
「あいつがお前に嫌味なんて言わねェよ!」
「う、うう、穴があったら、入りたい」

カタクリは小さな声で庭に掘ってくれと言う。ダメだこりゃと思いながら二人はなんとかカタクリを立たせて、ほら行くぞ!と腕を掴んで歩き出した。

「穴を掘ってくれるのか?」
「掘らねェよ!」
「喫茶店行くんだよ!喫茶店!」
「ダ、ダメだ!!!」

カタクリは二人の腕を振りほどき、ストールをぎゅっと掴むと頭まで持ち上げ座り込んでしまった。

「も、もうナナシさんに、あ、合わせる顔がねェ」
「大丈夫、大丈夫だから!」
「あいつに会って、どこが可愛いのか聞いてみようぜ?そしたらカッコ良くする方法もわかんだろォ?」
「……さ、先にナナシさんがおれの事を迷惑な男だと思っていないか確認してくれるか?」
「するする!」
「いくらでもしてやるよ!」

二人がそう言えばカタクリはゆっくりと立ち上がったので、よし行くぞー!とダイフクがカタクリの腕を掴み、オーブンは背を押してやった。結局二人はカタクリに優しい。





カタクリはナナシがどう思っているかわかるまでは喫茶店には入らないと駄々をこねたので、先に二人が中に入りカタクリをどう思っているか聞く事になった。
カタクリはそわそわとしながら喫茶店から少し離れた場所を歩き回っている。

しばらくするとダイフクとオーブンが中から出てきたので、カタクリは急いで二人に駆け寄った。

「ナナシさんは、な、なんて……」
「別にお前の見た目は可愛くねェとよ」
「……!」

カタクリの頭の中でさっきの『嫌味』と言う言葉が浮かんだ。

「あ、穴を掘ってくれ!!!」

そう言いながらカタクリはまたストールを頭まで持ち上げて座り込んでしまった。

「いや、だから掘らねェよ!」
「別にカタクリの事迷惑だなんて思ってなさそうだったから。大丈夫だ!」
「思ってなさそうってなんだ!?ちゃ、ちゃんと聞いてきてくれ!」

「……あの」

ビクリとカタクリの体が反応する。ナナシが外に出てきたのだ。
コツコツと足音が近付いてきてカタクリはブルブルと震えながら小さな声で話し出した。

「き、昨日は、迷惑をかけて、本当にすまなかった」
「え!?迷惑だなんてそんな!むしろカタクリ様にケーキをたくさん食べていただけて本当に助かりました!ありがとうございます!」
「ほ、本当か?」
「はい!」

ナナシのその言葉を聞いてカタクリは少しストールを下げてチラリとナナシの事を見た。
地面に座り込んでいるのでいつもよりも近い距離でにっこりと微笑むナナシを見たカタクリは眩しいと思いながらぎゅっと目を瞑り、そしてスッと立ち上がった。

「そ、そうか。よかった……あ、その、席は空いているだろうか?」
「はい。空いていますよ!どうぞお入りください」

ナナシは軽く会釈をしながらドアを開けた。
もうすっかり元気なカタクリはカッコイイ!と思いながら喫茶店の中へと入り後ろを振り返る。

「おい、いつまでも店の前にいるのは邪魔だ。お前たちも早く入れ」
「いや、お前なァ……」
「まあまあ、いいじゃねェか。落ち込んでるよりはよ!」
「………けどよォ」

ブツブツと文句を言っているダイフクの背を押しながらオーブンも喫茶店の中へと入った。

そしていつもの席に座ると、あ!とオーブンが声を上げた。

「で、結局カタクリの何を可愛いと思ってんだ?」
「あ、えっと……」

どう答えるべきかナナシは少し困ったが、カタクリへ恋心を抱く前から可愛いと思う事があったので、ここで黙っても仕方ないかと素直に答える事にした。

「反応です、かね……」
「お、おれの反応が可愛いのか?」

やっぱりよくわからないカタクリは首を傾げる。
ダイフクとオーブンもカタクリの事を見ながら首を傾げている。

「うーん、そうですね……皆さんは見た目は関係なく、弟さんや妹さんが楽しそうにしてたり、嬉しそうにしてると可愛いと思いませんか?」

ああ、と三人は頷く。

「そういう感じの可愛い、です……男性が可愛いなんて言われるのは嫌ですよね。本当に失礼しました!」

前と違い今のナナシはカタクリに恋心を抱いているので本当は少し違うのだが、でも伝えるつもりはないのでこう言うしかなかった。

「も、問題ない!大丈夫だ!」
「あ、ありがとうございます!では、ご注文が決まりましたらまたお呼びください」

ナナシは頭を下げるとカウンターの中へと戻っていった。

「やっぱカタクリの見た目が可愛いとかおかしいと思ったんだよ」
「だよなァ。反応だってんなら……まあ、あんまわかんねェが、見た目よりはまだ納得出来る」
「……ナナシさんは、おれの事を弟のように思ってくれているという事なのか?」
「そうなんじゃねェか?」
「まあ、あいつ年上なんだもんな」
「………」
「ん?どうした?」
「……なんでもない」

憧れているナナシにそんな風に思われるのは嫌ではない。むしろ嬉しい。でも何故か少しだけカタクリの胸はもやもやしていた。















その頃港では一人の男が船から降りていた。
「いやー助かっちゃった!ありがとう!」
「いえいえ!」
「えっと、それで店はどこにあるんだっけ?」
「この道を真っ直ぐに行った所ですよ!おしゃれなお店なのですぐにわかるかと」
「OK!ありがとう!」
男はチェス戎兵に頭を下げると歩き出した。
「少しは可愛くなってるかなァ……ナナシ」
男は楽しそうに笑っていた。










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カタクリさんの今の気持ちはどうなっているのか。
次回からオリキャラがでしゃばります。

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