ちゃんと知ってる
ナナシはビッグ・マム海賊団のパティシエの娘だ。ペロスペローと同い年で、子供の頃はよく皆と一緒に遊んだりしていた。
でも大きくなるにつれてただのパティシエの娘のナナシは自然と遊ぶ事は少なくなっていった。
そして大人になったナナシは今ペロスペローの屋敷で働いている。パティシエの娘であるナナシだが、ナナシ自身はどちらかといえば不器用で、作るお菓子は不味くはないが美味くもないというような微妙な物。だからそんなナナシの屋敷での主な仕事は掃除などの雑用だけだった。
でも一つだけそんなナナシに任されている大切な仕事があった。それはペロスペローにメリエンダのおやつとお茶を運ぶ事だ。
今日もいつも通りおやつとお茶を持ってペロスペローの部屋のドアをノックした。
「おやつをお持ちしました」
ナナシがそう言えばペロスペローは笑顔で部屋のドアを開けてくれる。
「自分の分もちゃーんと持ってきたか?」
「も、持ってきました」
「よしよし」
さあ、どうぞとペロスペローの部屋に招き入れられるとナナシの休憩も始まる。
ナナシがテーブルにおやつを置いていると、ペロスペローがティーカップにお茶を注ぎ始めたのでナナシは慌てて止めた。
「わ、私やります!」
「お前昨日溢して火傷しそうになっただろ?」
「で、でも……」
「お前に火傷なんてされたら困るんだ。だから紅茶を入れるのはこれからは私がやるよ。ペロリン♪」
「も、申し訳ありません」
「別にいいさ……ところでそれやめねェか?」
「それとは?」
「敬語」
「ふ、普段うっかり皆さんの前で敬語を忘れてしまうと困りますし、やっぱりずっとこのままの方が……」
「別に普段から敬語なんていらねェんだけどな。私とお前は同い年だし」
「……わ、わかった。今だけ敬語やめる」
「よしよし、良い子だ。ペロリン♪」
ペロスペローはナナシの頭を撫でるとティーカップをテーブルの上に置いてソファーに座ったので、ナナシも隣に座った。そして気が抜けたのかナナシからはふぅーと大きな溜め息がもれた。
「なんだ?お疲れか?」
「全然……ただ今日もいっぱい失敗しちゃった」
そう言いながらナナシはカップを持ってちびちびと紅茶を飲み始めた。
「今日はね、私が紅茶の用意したの」
「おお!この紅茶をお前が……」
「でも途中でティーポット落としちゃって、だから結局パティシエさんが新しく……」
「ケガはしなかったか!?」
ペロスペローはナナシが持っているカップを奪いテーブルの上に置くと、ナナシの手を取りケガをしてないか確認を始めた。
「し、してないよ。大丈夫」
「そうか、よかった」
「危ないから片付けますからって皆がやってくれたの。パティシエさんが新しく紅茶も用意してくれて、私は見てただけで……本当に役立たず」
話していたら思い出して悲しくなってきたのかナナシが下を向いてしまったので、ペロスペローはやれやれと苦笑いした。
「確かにお前は昔から失敗ばかりだったな」
「……」
「でもどれも全部お前なりに一生懸命やっているのを私は知ってる。ガキの頃からずっとな!」
そう言いながらペロスペローはキャンディを一つ作ってナナシに差し出した。
「ほら!お前の大好きな味のキャンディだ!」
ナナシが少し顔を上げると笑顔のペロスペローと目が合って、なんだかナナシは嬉しくなり笑顔でキャンディを受け取った。
「ありがとう」
「どういたしまして!ペロリン♪」
「いつも私の愚痴ばっかり聞かせてごめんね?」
「お前が笑顔になってくれるならいいんだ。ペロリン♪」
「……ペロスペローは本当に優しいね。私もそんな風になりたいなァ」
「いやいや、ナナシはそのままでいい」
ペロスペローはナナシの頬にそっと手を添えた。
「そのままのナナシが、私は好きだ」
ペロスペローがジッと見詰めてくるものだからナナシは照れくさくなって顔を赤くしながら頭をかいた。
「エヘヘ、ありがとう!私も好きだよ。ペロスペローと幼馴染みでよかったなー」
「うーん……やっぱり伝わらねェか」
「え、何?」
「いや、いいんだ。私とお前はこれからもずっと一緒だ。焦る必要はないな」
くくくくと楽しそうに笑っているペロスペローを見てナナシは首を傾げるのだった。
「あ、ペロスペロー?」
「んー?」
「割っちゃったティーポットなんだけど……可愛くて気に入ってた奴でね、だから、あの、あ、新しく可愛いのを一緒に、選びに行きたいなって……あ、忙しかったら別にいいから!」
「いやいや!もちろん行くさ!滅多にないナナシからの貴重な誘いだ!たとえどんなに忙しくても絶対に行くさ!ペロリン♪」
「あ、ありがとうー!」
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ペロスペローはとにかく優しいと思ってる。