短いお話 | ナノ
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 世界一鬱陶しい奴

カタクリはママに頼まれた仕事をするために屋敷を出ようとドアノブに手をかけたのだが、見聞色の覇気で少し先の未来を見て溜め息をついた。
凄く外に出たくなかったが、仕事には行かないといけないのでカタクリは仕方なくドアを開けた。

「ひゃあああああああ!!カタクリ様おはようございますゥゥゥゥゥ!!!」
「……」
「ふぁー!カタクリ様が今日も息してる!動いてる!素敵!!今日も最高に素敵!!!」
「……」
「いやァァァ!!その冷たい目!カッコイイィィィィ!!愛してるゥゥゥ!!」

カタクリは溜め息をつきながら目の前に立っている女の事を見ていた。

この女の名前はナナシ。ある日突然コムギ島にやってきて、貴方のファンです!と宣言すると毎日こうやって屋敷の前で出待ちするようになったのだ。
すぐに飽きるだろうと適当にあしらっていたカタクリだったが、ナナシは飽きる事はなくむしろウザさが増していき、今ではカタクリに世界一鬱陶しい奴だと思われるほどになっていた。

一度殺してしまおうとカタクリは土竜を構えた事もあったのだが、見聞色で見た未来で土竜に刺されめちゃくちゃ喜んでいるナナシの姿を見てしまい、こいつが喜ぶ事はしたくないと思ったカタクリは殺す事をやめた。

だから今のカタクリはとにかくナナシを無視していて、島から追い出すしかないなと考えていた。

「はー凄い…今日もカタクリ様と同じ島で生きてる…同じ空気吸ってる…凄い…ヤバイ」

うっとりしながらナナシはカタクリの事を見詰めていた。
カタクリは無視して港の方へと早足で歩いていくのだが、ナナシは走って追い掛けてくるし、話し続ける。

「今日から遠征なんですよね?どのくらいで戻ってきますか?」
「……」
「部下の方は一ヶ月って言ってましたね!一ヶ月もお会いできないなんて寂しいです!」
「……」
「あ、そうだ!一緒に行ってもいいですか!?私毎日肩お揉みしますよ!?あ、うへへ!お背中お流ししたりとかも……」
「黙れ」
「ひ、ひえェェェェ!!カタクリ様がしゃべったァァァァァ!!声もカッコイイィィィィ!!!」
「……」

本当に鬱陶しいと思いながらカタクリは更に早く歩きだした。ナナシは待ってくださいよー!と諦める事なく後を追い掛ける。

あっという間に港に到着しカタクリは船に乗り込もうとしたのだが、ピタリと止まりナナシの事を見た。

「ぎゃっ!!カタクリ様が私の事見て……」
「それを寄越せ」
「あ、はーい!喜んでー!!」

ナナシは笑顔でずっと手に持っていた箱をカタクリに差し出した。

「今日はーモチモチ食感が楽しいドーナツ&ナナシちゃんスペシャル配合のチョコをたっぷり使ったドーナツです!!遠征に行ってしまうカタクリ様のために今日はいっぱい作ってきました!!」

ナナシは毎日差し入れですと手作りのドーナツを持ってきているのだ。ナナシからの差し入れなど本当は絶対に受け取りたくないカタクリなのだが、ドーナツとなれば話は別なので必ず受け取っていた。

「いってらっしゃいませ世界一カッコイイカタクリ様!!早く帰って来てくださいねェ!!」

さっさと船に乗り込み姿の見えなくなったカタクリに向かってナナシはずっと叫び続けていた。





カタクリは何かあったら呼べと部下に伝えると船室に鍵をかけソファーに寝転びナナシの作ったドーナツを一口食べた。

「うまし」

カタクリは島からナナシを追い出すと考えながらも、手作りのドーナツを食べるたび結局まだいいかと思ってしまっていた。

「……あいつのドーナツに飽きるまでだ」

カタクリはぼそりと呟きドーナツを一つ食べきると、遠征は長いからなと残りは棚へとしまったのだった。










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胃袋掴まれちゃってるカタクリさん。
これ長いお話になる予定でしたが、続けるのは難しいなと思い諦めて短編にしました。

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