好きな子ほど、なんとやら
今日の天気は快晴だ。そんな日は白ひげ海賊団の音楽家ナナシは甲板で歌をうたう。
ナナシのキレイな歌声は遠くまでよく響く。今日はビンクスの酒を歌っているようだ。
その歌をBGMに白ひげ海賊団の船員たちは、つい先ほどまで停泊していた島での買い出しの整理や掃除など、各々仕事をしていた。
でも一人仕事をサボって遠くからナナシを見ている者がいた。
この船の末っ子のエースだ。
エースは数回深呼吸をすると、よし!と顔を叩いてナナシの方へと歩きだした。
「よ、よよよ、よう、ナナシ!」
話し掛けられたナナシは歌う事をやめてエースの方を見た。
「やあ、エース。もう仕事は終わったのかい?」
「い、今、ほら、休憩中!」
「コラコラ。またマルコ辺りに叱られるぞ?」
「だ、大丈夫だって!」
へへっと笑いながらエースは背中に何か隠しながらそわそわと落ち着きがない。
それに気付いたナナシがやれやれと思いながら自分の隣をポンポンと叩いてやった。そうするとエースは嬉しそうに隣に座る。
「な、なあナナシ?」
「んー?」
「さ、さっきさ、島でなんか買ったのか?」
「いや、さっきの島は買い出しのために寄っただけだろう?だから楽器を眺めてたらいつの間にか出航時間になっていてね、何も買えなかった」
「そ、そうか!お、お前さ!前に帽子が欲しいって言ってたよな!?」
「ああ。よく覚えていたねエース」
「へ、へへ。おれ、おれさ!さっきの島でナナシに似合いそうな帽子見付けたんだ!」
じゃん!と言いながらエースは隠していた帽子をナナシの前に出した。
「お?なんだくれるのか?」
「お、おう!!」
「そうか。ありがとうなエース」
そう言いながらナナシが笑うとエースの顔が赤くなっていき、そしてボッと一瞬で体が燃え上がってしまった。
そんなエースからナナシは、おっと危ないと言いながら少し離れる。
「わ、わりィナナシ………あっ!!」
エースの持っていた帽子は跡形もなく燃え尽きていた。
「相変わらず能力のコントロールが下手だなエースは……気持ちだけもらっておくな」
ほら仕事に戻りなとナナシに言われてエースはとぼとぼと船内に戻っていった。
その夜エースは泣きながら酒を飲んでいた。
「うっ、うう、おれは、おれはァ、好きな女に、うっプレゼントの一つも、ま、まともに送れねェ、う、うァ、ダメな男だァ!」
そう、この船の末っ子エースはナナシの事がずっと前から好きなのだ。
どうすればナナシも自分の事を好きになってくれるのかと皆に相談すると、最初はとにかく話し掛けて相手を褒めろと言われた。だが、好きな相手の前だとエースは会話がとんでもなく下手だった。
だからその後はプレゼント作戦が選ばれたのだが、今回のように毎度失敗している。
楽器、アクセサリー、花、服……全部燃やしてダメにした。
皆そんなエースを見て溜め息をついている。お手上げのようだ。
「なんで、燃えちまうかねお前は……」
「ナナシ、が、うっ、笑うと、照れて、うゥ、コントロールできねェ」
「我慢だ!我慢しろエース!」
「もういっそ渡すまでナナシの顔見るな!」
「嫌だァ、ナナシの、うあ、笑った顔が、うゥ、見てェ」
「まったく……こんなんじゃあ、一生好きにはなってもらえねェよい?」
「うっ、う!い、イヤだァ!!!」
その言葉を聞いたエースは本格的に泣き出した。
次の日。甲板で歌をうたっているナナシの側に誰かがやって来た。
「よう」
「やあ、マルコ」
ナナシの前に現れたのはマルコだった。
「お前エースの事わかってんだろい?」
「おや?何の事かな?」
とぼけているナナシを見てマルコは溜め息をついた。
「お前は酷い女だな」
「え?どこがだい?エースは私の笑顔が好きなようだから、わざわざ笑ってあげてるんだが……」
「やっぱわかってんじゃねェかよい!」
「おっと」
「ったく、普段あんま笑わねェくせに、エースからプレゼントもらう時だけはしっかり笑うから、おかしいと思ってたんだよい」
「いやー、エースの奴毎回物凄く落ち込むだろう?」
「え?ああ、そうだな」
「面白いと思わないか?」
「鬼かお前は!」
「鬼だなんて酷いな、ほら、好きな子ほど苛めたくなると言うだろう?」
「まったく……え?お前今なんて……」
「一生懸命で可愛い男だよあいつは」
そう言いながらナナシはふんわりと笑った。マルコはナナシのそんな顔を初めて見た。
「……あんまり苛めてやるなよい?」
「んーそうだな……あ、ほらマルコ見てみろ。末っ子が物陰からこちらの様子を見ているぞ」
「え?」
ナナシが言った方を見てみれば確かにそこにはエースがいて、不安そうな顔でこちらを見ていた。
後で弁解が面倒だと思ったマルコはすぐにこの場を離れようとしたのだが、ナナシが立ち上がり肩に手を回してきたので動けなくなった。
「ちょっ、おい!」
「あ、見てみろマルコ。エースが泣きそうだ」
「お、お前なァ!!」
ナナシはニヤニヤと楽しそうに笑っている。その顔もマルコは初めて見る。
どうやら末っ子はとんでもない奴を好きになってしまったようだとマルコは溜め息をついた。
その夜もエースは泣きながら酒を飲んでいた。
「うっ、うゥ」
「だ、だからなエース、おれとあいつは普通に仲間で……」
「ひでェなマルコ!エースの気持ちを知っていて!」
「末っ子を苛めるなよ!」
「ち、ちがっ!苛めてるのはおれじゃねェよい!」
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エースの笑った顔が好きだけど、泣きそうな顔の方がもっと好きなヒロイン。マルコはきっと苦労人(笑)