短いお話 | ナノ
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 ギリギリの来店理由

ナナシはローグタウンにある飲食店で働いていた。それなりに繁盛している店なのだが、ラストオーダーの時間の頃には客がいることはほとんどなかったので、ナナシはすぐに帰ることが出来ていた。だが最近ラストオーダー五分前になると来店してくる客がいた。
そして今日もラストオーダー五分前に店のドアが開いた。

「いらっしゃいませー」
「いつもの頼む」
「かしこまりました」

ナナシは小さく溜め息をつきながらキッチンへと入っていった。

「店長いつもの!!」
「おいおい……お前態度悪いぞ?」
「お客様の前ではちゃんとしてます!!」

そう言ってコップに氷を乱暴に入れながら水の用意をしているナナシを見て店長は苦笑いを浮かべた。

「今日も時間は過ぎてないだろ?」
「オーダーの時間はね!」

ラストオーダー五分前に来店する客とはこの町の海軍大佐スモーカーだった。
最初の頃は昼間に来る事が多くナナシだって海軍本部の大佐なんて凄いなーと思っていたので、いつもお疲れ様ですとスモーカーが来るたびに心から思い言っていた。
だけどいつの間にかスモーカーはラストオーダー五分前という時間ギリギリに来るようになり、しかも閉店時間が過ぎても帰らなくなったのだ。出来れば時間通りに帰りたいと思っているナナシはそんなスモーカーにストレスが溜まっていた。

「言ってやる!今日こそ閉店時間過ぎても帰らなかったら、帰れって言ってやる!!」
「ダ、ダメだってお前!相手はあの海軍本部のスモーカー大佐だぞ!?」
「海軍とか関係ないの!!」

ふんっと言いながらナナシは水を持ちキッチンを出ていった。

スモーカーの座るテーブルの前に来るとナナシはまたちゃんと笑顔を貼り付けて水の入ったコップを丁寧に置いた。

「今店長が急いでお料理用意してますので」
「別にゆっくりで構わねェが」

そう言いながら葉巻に火を付けたスモーカーに少し苛立ちながらナナシはお客様をお待たせするわけにはいきませんからと言った。

「……お前はいつ来てもいるな」

スモーカーはいつもあまり話さないので、突然話し掛けられた事にナナシは少し驚いたがいつも通りの笑顔で答えた。

「え?あ、ちゃんと休みはありますよ?」
「いや、夜の話だ」
「夜……ああ、遅い時間に若い子を働かせるのは危ないですから、私が残るようにしてるんです」
「……お前だって若いだろ?」
「ここでは年長ですから」
「大変だな」
「いえいえ、ちゃんと閉店時間に帰れれば問題ありませんのでー」

ナナシはにっこりと微笑むとスモーカーに背を向け、嫌味を言ってやった!きっとこれでスモーカーは閉店時間に帰ってくれる!そう思いながらキッチンへと戻っていったのだった。





でも今日もスモーカーは閉店時間を過ぎても帰らなかった。ナナシは店長に止められたのでキッチンのドアの隙間からこの野郎ー!!とギリギリしながら優雅に食後のコーヒーを飲んでいるスモーカーを睨むことしか出来なかった。

「察しろォ。閉店時間に帰れれば問題ないって意味わかるだろうがァ。バカなのかァ?」
「お、お前口に出てるぞ?」
「出してんだよォ」
「お、おお……あの、たまには帰ってもいいぞ?」
「自分の仕事を放置して私は帰らない!」
「変に真面目だなお前は……」

そんな風に店長と会話をしているうちにスモーカーはコーヒーを飲み終わったのか席を立ったので、ナナシは急いでキッチンから飛び出した。

「ごちそうさん」
「いつもありがとうございます」

ナナシは素早く会計を済ませ頭を下げた。これでいつもスモーカーはまた来ると言って店を出ていくのだが、今日は動こうとしない。

「あの、どうかしましたか?」
「いつも遅くまでいて悪ィな」
「い、いえいえ、そんな……」

わかってんなら早く帰れー!!と心の中で叫びながらもナナシは笑顔で答えた。

「なんだ、その、詫びと言っちゃァなんだが……」
「はい?」
「家まで送る」
「…………はえ?」

突然の申し出に驚いたナナシからは変な声が出た。スモーカーはなんだか気まずそうに頭を掻いていて、ナナシはハッとして首を横に振った。

「そ、そんな!ご迷惑をお掛けするわけには!」
「迷惑じゃねェ」
「で、でも……」
「……おれが送りてェんだ」
「え?」
「お前とゆっくり話がしてェと思ってた……ずっと前からな」

そう言うとスモーカーはすぐに後ろを向き外で待ってると言い残して店を出ていってしまった。
その時見えたスモーカーの耳は赤くなっていて、ナナシはフラフラとお金を持ってキッチンへと入っていった。

「大佐は帰られたかー?」
「て、店長」
「ん?どうした?」
「ラ、ラブコメが始まろうとしている!!」
「は?」
「こんなギリギリに来る理由がまさか……あ、いや、まだ勘違いの可能性もあるけど」
「おいおい、何があった?」
「く、詳しくは明日話すから!」
「お、おう?」

ナナシの中にあったスモーカーに対する怒りはいつの間にか消えたようだ。そして素早く残りの仕事を片付け更衣室へと急いだ。

「べ、別にスモーカー大佐の事は好きじゃないし、むしろ迷惑なお客さんだと思ってるし、でも人の好意は無下には出来ないし?私はこれくらいでときめいたりしないし……」

ナナシは言い訳を言いながら着替えを済ませると、いつもとは違い少し軽い足取りで店を出たのだった。















「お、お待たせしました」
「早いな」
「い、忙しい大佐をお待たせするわけには……」
「お前の事ならいくらでも待つ」
「っ!う、うぐゥ……!」
「ん?どうした?」
「な、なんでも、ありません!」
私ってこんなに単純だったのかー!?とナナシはときめく胸をぎゅうっとおさえていた。










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スモーカーさん不器用そう。そしてサラッと恥ずかしいこと言いそう。そんなイメージ。

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