短いお話 | ナノ
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 可愛いあの子のほんとの姿

ビッグ・マム海賊団に結婚の話を持ち掛けてくる者がいた。その相手はいつもお菓子を納めていた国の王だ。

その国のお菓子はとても美味しいものだったが、でもそれだけだ。もうお菓子は毎月納められているのだから、ビッグ・マム海賊団にとっては結婚しても特になんのメリットもない話だった。だから最初リンリンは生意気だと怒っていた。

でもその王はそんなリンリンに恐れることなく自分の娘を連れてホールケーキアイランドまでやってきたのだ。いつも納めているよりもたくさんのお菓子を一緒に持ってきていたのもあり、面白いとリンリンは城へ入ることを許した。

そしてなんと娘は見事リンリンに気に入られた。

そのまま結婚話はトントン拍子に進んでいって、か弱い娘には強い方をお願いしたいという向こうの希望を聞いて、リンリンは迷うことなくカタクリを相手に選んだ。

こんななんのメリットもない結婚にまさか自分が選ばれるなんて微塵も思っていなかったカタクリは驚いていたようだった。そして更に驚いたのは結婚相手を見た時だ。相手はどこにでもいるような普通の娘だった。これの何をママは気に入ったのかとカタクリは不思議に思っていた。

娘は怯えることなくカタクリに笑顔を向けナナシと申しますと頭を下げた。


結婚式までの数日カタクリはナナシと何度か会った。
ナナシはいつもニコニコと楽しそうに笑っていた。リンリン様のお話は面白い、ホーミーズが可愛い、お菓子が美味しい。そしてカタクリ様と話すのが楽しいと。
そんなナナシの事を見ているうちにカタクリの顔も自然に綻んでいった。

「お前は変わっているな」
「そうですか?」
「普通お姫様が海賊と話していて楽しいなんて変だろう?」
「え?そ、そうなんですか!?ど、どうしましょう……カ、カタクリ様は、その、変なの、嫌ですか?」
「……おれは別にいいと思ってる」

カタクリがそう言えばナナシは可愛らしく嬉しそうに笑った。

ママの命令だからカタクリは最初からどんな相手でも文句を言うつもりはなかったし、むしろ政略結婚なんだからどうでもいいと思っていた。
でも今は結婚するならばこいつがいいと、ナナシの笑顔を見てカタクリはそう思うようになっていた。





その後二人の結婚式は無事に終わり今はコムギ島のカタクリの屋敷に帰ってきているのだが、ナナシの様子がおかしかった。
いつもはずっとニコニコと笑っていたのに、今は下を向いたままメイドが用意してくれた紅茶を静かに飲んでいる。もちろんカタクリが話し掛ければ答えるし笑うのだが、でもその笑顔はいつもと違い弱々しい。

いつも笑っていたが我慢していただけで、本当は海賊との結婚なんて嫌だったのだろうかとカタクリは不安になった。

「……大丈夫か?」
「え?」
「さっきから元気がない」
「そんな事、ありませんよ」

でもその顔は今にも泣いてしまいそうに見えて、カタクリは向かいのソファーに座っていたのだが立ち上がりナナシの隣にゆっくりと腰を下ろした。

「カ、カタクリ様?」
「何故そんな顔をする?」

カタクリのその言葉を聞いたナナシは困った様子で下を向いてしまった。

「……本当はおれとの結婚が嫌だったのか?」
「ち、違うんです。私、あの、申し訳なくて……」
「申し訳ない?」
「だって、あの、私は美人でもないし、きっとなんの役にもたてません。だから、私なんて本当はカタクリ様の結婚相手に相応しくなくて……」

そう言って弱々しくナナシは笑った。

「でも結婚式も終わってしまったから、夫婦になっちゃって、あの、ごめんなさい」
「自分の事をそんな風に言うな」
「え?」
「おれは、お前が結婚相手でよかったと思っている」
「で、でも私本当になんのお役にもたてませんし……」
「そんな事どうでもいい。おれは、お前が笑顔でいてくれるなら、それだけでいいと、思っている」

凄く恥ずかしいことを言っていると思ったカタクリの顔はどんどん赤くなっていく。

「……こんな私でいいんですか?」

ナナシも頬を赤く染めて恥ずかしそうにしながらカタクリに体を寄せ、カタクリの大きな手をそっと握った。

「嬉しいカタクリ様」
「そ、そう、か」
「なんのお役にたてなくても、私が笑顔でいたら、それでいいんですね?」
「あ、ああ」
「カタクリ様はそれだけでいいんですね?」
「ああ」
「本当に?」
「?ああ」
「……男に二言は?」

そう聞いてきたナナシの声はさっきまでの弱々しいものとは違い、凛とした声をしていた。
カタクリはこの時妙な感じがしたのだが、妻を不安にさせてはいけないと思ってしまいすぐに返事をしてしまった。

「ない」

カタクリの言葉を聞いたナナシはゆっくりと顔を上げた。

「フフフ」

ナナシはニヤリと笑った。いつもの可愛らしい笑顔とは似ても似つかなくてもはや別人だと思うレベルで、カタクリは固まってしまった。

「はー可愛い良い子ちゃん演じるのは疲れんな」

ナナシはカタクリから体を離すと残っていた紅茶を飲みながら、テーブルの上のお菓子をパクパクと食べ始めた。
カタクリはハッとして立ち上がり叫んだ。

「お、お前は誰だ!?」
「え?あなたのお嫁さんのナナシちゃんですよ?」
「う、嘘だ!!」
「嘘じゃねェし」
「さ、さっきまでの、お前は……」
「いや、だからずっと演技だし。いやーそれにしても、お菓子与えて、愛想良くしとけばこんなに話が上手く進むなんてねェ……案外チョロいなビッグ・マム海賊団。これで私の国は安泰だわ」

ナナシは悪い顔でそれはもう楽しそうに笑っている。そんなナナシを見てカタクリはわなわなと震えていた。

「お、お前の本性をママに報告する」
「いいよ、しなくて。ママの前ではちゃーんと可愛い良い子ちゃん演じ続けるし、お菓子だってお父様がこれからもちゃーんと納めるしね」
「お、おれがお前みたいな女と結婚してるのが嫌なんだ!!」
「はァあ?」

ナナシはポケットから"音貝"を取り出しボタンを押した。
そこにはさっきの二人のやり取りがしっかりと録音されていて、カタクリは顔を青くした。

「あんたは私が笑顔でいたらそれでいいんでしょ?言ったよね?あ・ん・た・が!」

真面目な男カタクリ。何も言い返せない。

「まあ、仲良くしようや」

そう言ってニヤリと笑うナナシがカタクリには悪魔に見えて、絶対いつか離婚してやると決心したのだった。















遠慮することなくお菓子をパクパクと食べ続けているナナシをカタクリは睨んでいた。
「何よ?」
「……詐欺師め」
「詐欺師じゃねェし。私みたいなのは世渡り上手って言うんですー」
そう言ってニヤリとではなくにっこりと笑ったナナシの顔はやっぱり可愛らしくて、ちょっとドキッとしてしまったカタクリはとても凹んだ。










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性格悪い系ヒロインもいいよね(笑)

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