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 03:見捨てない

買い物には以外と時間が掛かった。
クラッカーがすぐにあれはなんだと立ち止まるからだ。いい加減に答えると怒ってめんどくさいからちゃんと説明をしていたのでナナシはもう疲れていた。

「もう疲れたし帰るよー」
「おれは疲れてないから帰らない」
「私は!疲れてんの!あのさ!こっちは君が急に現れたせいで昨日から………」
「おい、あれはなんだ?」

そう言いながらナナシの話など聞かずに自分の興味がある物の方へ歩いていくクラッカー。ナナシは大きな溜め息をついた。



何かイベントでも始まるのかどんどん人が増えていく。真っ直ぐに進むのも大変だ。
ナナシは持っている荷物を人にぶつけないように気を付けながら必死に人をかき分け進んで行く。

「なんっだ、この人の多さは!!」
「大丈夫?」
「ぐっ、これ、くらい……」

強がってはいるもののクラッカーの体は今は子供。思うように進めないし、気を抜けばナナシを見失いそうになる。
人に潰されそうなクラッカーを見てナナシは荷物を片手に全て持ち空いている方の手をすっとクラッカーに差し出した。

「ほら」

クラッカーはその手を掴もうとして止まった。この手をこのまま素直に掴んだらなんだか負けなような気がしたから。
だからクラッカーはナナシの手をバシッと叩いた。

「子供扱い、するな!!」
「いったー!なんだよ!はぐれても探してやらないからね!」

可愛くない!と思いながらナナシは進んでいった。一応後ろを気にしながら。





結局二人ははぐれてしまった。クラッカーはナナシが曲がったのが見えなかったのだ。しかも別の人をナナシと思ってそのまま進んでしまったからどこで見失ったかもわからなくなっていた。
とりあえず適当な所まで戻りクラッカーはナナシが通るのを待つ事にした。下手に探し回ってもこの人の多さでは見付けられる気がしなかったから。


でも待てども待てどもナナシが通ることはなかった。自分の名前を呼ぶ声も全く聞こえない。
そしてナナシがさっき言っていた事をふと思い出す。

『はぐれても探してやらないからね』

クラッカーは不安になってきてその場にずるずるとしゃがみ込んだ。厄介払い出来てちょうどよかったと実はもう帰ってしまったのかもしれない。自分がナナシの立場だったらたぶんそうする………いや、むしろ自分なら最初から面倒なんてみていないだろうとクラッカーは思っていた。

「これからどうすればいいんだよ」

下を向いて弱々しい声でぼそりとクラッカーが呟いた時、頭を軽く叩かれた。

「やっと見つけたぞクソガキ」

クラッカーが勢いよく顔を上げればそこには少し息を切らしたナナシが立っていた。
ナナシはちゃんとクラッカーの事を探していた。だけどナナシも人の多さにどこではぐれたのかわからなくなっていてなかなか見付ける事が出来なかったのだ。

「こんなとこまで戻ってたのか」

そのままぶつぶつと文句を言い続けるナナシをクラッカーは呆然と見詰めていた。

「…………何?」
「なん、で、探した?」
「は?」
「探さないと………言っていただろう?」
「いや、だって…………やっぱり途中で見捨てるなんて出来ないし、君見た目は子供だから、なんかあって………明日ニュース見た時に死んでましたとか嫌じゃん?」
「…………損な性格してるなお前」
「わー探さなきゃよかったなー」
「…………ありがとう」

クラッカーは小さな声で言った。ナナシは聞こえていなかったようで何?と首を傾げている。

「……………遅いって言ったんだ!」
「このクソガキ!本当に可愛くない!」

そう言いながらナナシは、ん!と手を差し出した。クラッカーは今度は黙ってその手を掴んだ。















「それにしても痛い出費だった」
「待て!まだお菓子を買っていない!」
「我慢してよ」
「……………」
絶対に文句を言うと思っていたクラッカーが黙ったのでナナシは少し驚いた。こういう反応をされるとちょっと可哀想だと思ってしまう。
「安いお菓子なら買ってあげるよ」
「…………安いのなんて不味いだろ?いらない」
「人が気を遣ってやったらこれだよ!!」










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自分が今まで生きてきた世界とまったく違う世界で独りぼっちだったらどんなに強い人でも不安になると思う。

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