02:信じるしかなさそう
カーテンの隙間から差し込む朝日でナナシは目を覚ました。ナナシがゆっくりと起き上がりベッドを覗けば、クラッカーが規則正しい寝息をたてている。やっぱり夢じゃなかったかーとナナシはがっくりと肩を落とした。
今日は運良く仕事が休みだったのでクラッカーの相手をして疲れていたナナシは二度寝する事にした。
「おい、起きろ!」
「…………んあ?」
二度寝してからまだ数十分しかたっていないのだが、いつの間にかクラッカーは起きたようでナナシは起こされた。
「腹が減った」
「んー、なんか冷蔵庫、適当に………」
「何もない」
「えーなんかしら」
「パンケーキがいい」
「…………それは無理だ」
「チッ………じゃあ、なんか用意しろ!」
「うるさいなー。君40歳なんでしょ?自分でやんなさいよー」
まだ寝ていたいナナシは布団を頭までかぶって背を向けたのだが、クラッカーはそれを許さなかった。
クラッカーは布団をはぎ取りナナシの事を蹴飛ばす。
「おれが起きてるんだから起きろよ」
「とんでもないクソガキだな」
ここで起きないとめんどくさい事になりそうだと思ったナナシは仕方なく起き上がり朝食の準備をする事にした。パンがある事を思い出し卵は残っていただろうかと思いながら冷蔵庫を開ける。
「こ、これは……!!」
ナナシが用意したのはフレンチトーストだった。甘いものを欲していたクラッカーは嬉しそうに笑いながら席につく。その姿を見てやっぱり子供だよなーとナナシは思っていた。
「これではちみつかメープルシロップがあればもっとよかったのにな。残念だ」
「いちいちうるさいな…………で、実際の所君はどこから来たの?」
もぐもぐとフレンチトーストを頬張っているクラッカーにナナシは話し掛けた。
昨日はクラッカーが寝てしまったので結局ちゃんと聞く事は出来なかったが、違う世界から来たとか40歳とか海賊とか………ただの子供の空想なのかそれとも本当の事なのか確かめる必要があった。
もし、もしもクラッカーの言っていることが本当なら、これからの事をちゃんと考えないといけない。
「………万国」
「え?」
「おれのいた場所だよ」
クラッカーは自分の世界の事をぽつりぽつりと話し出した。
「兄弟多すぎない?」
クラッカーの世界の話を聞き終わったナナシの感想はこうだった。
クラッカーは自分の懸賞金が8億以上あるという話もしたので、これを聞いたら自分の事を恐れてもっと大人しく言うことを聞くだろうと思っていたので項垂れてしまう。
「お前な…………あれだけ話を聞いて食い付くのはそこなのか!?おれは8億の賞金首だぞ!?」
「それが本当だとしても今の君は子供だしね?この世界にはそういうのないからよくわからんし」
「くそっ………」
「それにしても85人兄弟か…………名前忘れない?」
「…………大切な兄弟の名前なんだから忘れるわけないだろう」
「ちょっと言ってみ?」
「ペロスペローコンポートカタクリダイフクオーブンモンデアマンドアッシュエフィレオペラカウンターカデンツァカバレッタガラカスタードエンゼルズコットブリュレブロワイエ………」
「もういいや」
真顔で兄弟の名前を言っていくクラッカーを見て呪文かよとナナシは思った。
「ちなみにおれは10男だ」
「ふーん………末っ子はいくつ?」
「この前3歳になった。ぬいぐるみを切るのが好きなお茶目な奴だ」
「………それお茶目かな?」
そのまま兄弟の話を楽しそうにするクラッカー。作り話にしては出来すぎているとナナシは思った。もちろん他に聞いた話も含めて全部。
信じられない事だけど、これは信じるしかないのだろうかとナナシは頭が痛くなる。
「ところで、お前は働いてないのか?」
「今日は休み」
「そうか、ちょうどいい。この世界を案内しろ」
「は?」
「服が欲しい。あとお菓子もな」
そう言ってクラッカーは立ち上がった。
お菓子はどうでもいいが服は確かに必要だ。でもナナシとしては突然のクラッカー登場により疲れているので、出来れば今日はゆっくりしていたい。明日も休みだし明日じゃ駄目かと提案したみたが、すぐに却下された。
「おれはすぐに着替えたいし、お菓子だって食べたい。だから今すぐに行く」
「横暴かよ。居候の癖に」
「おれは盗んできてもいいんだぞ?だがもし捕まった場合はお前の名前を出すからな?いいのか?」
「すぐ着替えるから大人しく待っとけクソガキ!」
「おい!いい加減クソガキって言うのやめろ!」
ナナシはべーっと舌を出して着替えを持ち部屋を出た。クラッカーは本当に可愛くない女だと思っていた。
「ほら行くよ」
そう言いながらナナシはクラッカーに手を差し出した。
「………なんだこの手は」
「迷子防止」
「子供扱いするな!」
「君ね……もしもはぐれたら困るでしょ?」
「はぐれない!!」
クラッカーはナナシの手を叩いてから歩き出す。もし迷子になったらそのまま捨ててやろうとナナシは思ったのだった。
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普通だったら警察とか連れて行くよね。
でも夢だから。うん。