暇なので
ナナシは読んでいた本をパタンと閉じて、んーと体を伸ばした。
「やっと全部読み終わったー」
実はナナシが本を読んでいたのはクラッカーに言われたからだった。この世界で生きていくならこれくらいは知っておけと次の日には用意されていた。
分厚い本を何冊も渡されたナナシは顔をしかめたが、でも確かになと思い今回は断らずに頑張って読み勉強していた。
そのお陰でこの世界の常識的な事はなんとなくだがわかるようになった。
「やっぱ変な世界だな」
ボソリとナナシは呟いてから部屋を出た。
ナナシはコンコンとクラッカーの仕事部屋のドアをノックした。
「今大丈夫ー?」
ノックしたのがナナシだとわかるとクラッカーは立ち上がりドアを開けた。
「どうした?」
「ちょっとお茶しない?紅茶持ってきた」
ナナシの提案にクラッカーは笑顔で頷いたのだが、トレイに乗ったお茶菓子がせんべいなのに気が付くと笑顔が消えた。
「おま、紅茶にせんべいだと?」
「私は緑茶だからいいんだ」
「おれの事も考えろよ!」
「あんたは手を叩けばいいじゃん」
おじゃましますよーとナナシは部屋に入るとソファーに腰掛けた。クラッカーは少しムスッとしていたが、おれのためにわざわざ紅茶を用意したのだから許すかと隣に腰掛けた。
「で、どうした?」
「本読み終わった」
「ほう?あれを全部か?」
「うん」
「やるじゃないか」
「まあねェ」
「問題は覚えているのかだがな」
「半分くらいかなァ……まあ、あとは生活してればなんとかなるでしょ。あんたもいるし?」
「!そ、そうだな!」
ナナシに頼りにされてるような気がしてクラッカーは嬉しくなり顔がにやける。
嬉しそうな顔してんなーと思いながらナナシはせんべいを食べ始めた。
「で、本題」
「読み終わった報告以外に何かあるのか?」
「うん。本を読み終わった私は暇になったわけよ」
「そうだな」
クラッカーも紅茶を飲み始めた。
「だから、町で働こうかと思ってる」
「ぶっ!!」
ナナシのこの言葉を聞いてクラッカーは飲んでいた紅茶を噴き出した。ゲホゲホと噎せているクラッカーの背中を何やってんのと言いながらナナシは擦ってやる。
「お、おま、本気で、言っているのか?」
少し落ち着いてきたクラッカーはなんとか話し出した。
「本気だよ」
クラッカーが落ち着くとナナシは背中を擦るのをやめて、またせんべいを食べ始める。
「か、金の心配をしているのか?お前ならいくらでも好きに使って構わない!」
「それはありがと。でも暇潰しにちょっと働くのも悪くないかなと思うわけよ」
ナナシはズズッとお茶を啜るとさっそく仕事探しに行ってくるからと立ち上がったので、クラッカーは腕を掴み慌てて止めた。
「ま、待て!」
「何?」
「そ、外で仕事なんて危ない!」
「いや、別にこの島は危なくないんでしょ?」
「あ、危なくないが……」
「じゃあいいじゃん」
「…………ダ、ダメだ!!!」
クラッカーは勢いよくナナシの腕を引いてソファーに座らせた。
クラッカーはナナシにはなるべく側にいて欲しいのだ。なのに外で仕事なんてされたら一緒にいる時間が減ってしまう。それが嫌なクラッカーは必死だ。
「なんで?別に良くない?」
「……良くない」
「だからなんで?」
「そ、それは…………あ!ど、どうしても働きたいと言うならおれの専属メイドなんてどうだ?」
「は?」
「それがいい!そうしよう!」
クラッカーは名案だと思っているようだが、ナナシはとても不満そうな顔をしている。
「メイドォ?私がァ?あんたのォ?」
「そうだよ!せっかくなら制服も用意しよう!おれはミニスカートがいいと思うが、ロングスカートも捨てがたいな!あ、お前はどっちが……」
「スカートの話でテンション上げんなよ気持ちわりィ」
ナナシのドン引きしている顔を見てクラッカーは少し恥ずかしくなり顔を赤くして、別に上げてないと小声で言ったのだった。
「まあ、メイドは嫌だけど、たまにあんたの仕事手伝うのは悪くないかも。書類整理とかお茶の用意くらいなら出来るし」
「そ、それがいい!給料はいくらでも出すぞ!」
「暇な時手伝うだけだからいらないよ。その代わりどうしても欲しい物がある時は買ってくれる?」
「もちろんだ!いくらでも買ってやる!」
「ありがと」
「と、ところで……」
「んー?」
「その、メ、メイドにはならなくてもいいが、メイド服は、一回だけ、試しに着てみたり……」
「着ねェわ。なんの試しなわけ?」
「………」
「エロ親父ー」
「ち、違う!!!」
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自分が忙しいからこそ、手が空いた時いつでも会えるようにヒロインには屋敷にいて欲しいわけですよ。メイド服に関しては……男の憧れかなって!(笑)