時空を超えて愛してる | ナノ
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 21:捨てられない

ナナシが元の世界に戻って一ヶ月。あの後すぐに退院出来き、そのまま仕事にも復帰した。もうすっかりいつも通りの日常だ。たまにあの世界の事を思い出す時もあるが、あれはただの夢だと思う事にしていた。

そして今日は遅くなったけど退院祝いだと職場の人にご飯をご馳走になったのでいつもよりも少し遅い帰宅だった。明日は休みだし何をしようかなーと考えながら玄関のドアを開けると、子供が仁王立ちしている姿が目に入りナナシは勢いよくドアを閉めた。
ダラダラと冷や汗を流しながら混乱する頭でナナシは見間違いだと自分に言い聞かせる。だってこんな事が二度も起きるはずがない。

「そう見間違いだ……目が疲れてるんだ……見間違い、見間違い……」
「見間違いなわけあるか」

ドアが少し開いて仁王立ちしていた子供がこちらを睨んできたのでナナシは大きな溜め息をついた。
子供はニヤリと笑う。

「久しぶりだなナナシ」
「……なんでいるのクラッカー?」





部屋に入ればクラッカーは前と同じようにベッドの上に座り自分の姿を見ながら首を傾げている。

「何故この世界ではおれの体は子供なんだろうな?」
「あの大きさはこの世界では対応してないからじゃない?」

ナナシは適当に座りまた大きな溜め息をついた。クラッカーは舌打ちをする。

「お前は溜め息ばかりだな」
「そりゃ溜め息も出る……あと私あんたが嘘ついた事怒ってるから」
「嘘?おれがいつ……」
「夢の中で殺されるという事件が起きてる」
「……」

クラッカーは気まずそうに目を逸らした。

「変な嘘ついてさ全く。で?今回あんたは何やったの?」
「は?」
「この世界に来た理由。いったいどんなヘマして意識不明に……あ、覚えてないか?」
「違う。そしてちゃんと覚えてる」
「え?」
「おれは来たくてここに来たんだ」
「え?は?」
「痛いのは嫌いだが、我慢して色々試したよ。普通に死にかけたりもしたな」

そう言いながら笑っているクラッカーを見てナナシは頭が痛くなった。

「死にかけたってバカなの!?なんで……」
「会いたかった」

笑っていたクラッカーの顔が真剣な顔に変わりナナシはドキリとする。

「お前に会いたかった……そしてお前が消えたあの日に伝えられなかった事を、どうしても伝えたかった」

クラッカーはベッドから降りてナナシの前に立った。

「おれは、ナナシの事が好…」
「ご、ごめんなさい!!!」

クラッカーが言い終わる前にナナシは慌てて早口で叫んで頭を下げた。
ナナシの言葉を聞いたクラッカーは少し固まっていたがすぐに我に返りナナシの頬を掴んで無理矢理上を向かせた。

「おーまーえーなー!!ふざけんなよ!?」
「フラれたからってキレるの良くない」
「ち、違うっ!断るにしても普通は最後まで聞くだろ!?」
「だって無理だし。断るなら早い方がいいかなって。絶対に無理だし」
「そ、そう何度も無理とか言うなよ、傷付くだろうが……」
「ご、ごめん」

今にも泣いてしまいそうな顔をしているクラッカーを見て子供の姿という事もありナナシは心が痛んだ。そしてクラッカーの事は好きでも嫌いでもないと思っていたが、いざ告白されると驚く事に少し嬉しいと思ってしまう自分がいたりして戸惑いもした。
でもそう簡単にクラッカーの気持ちを受け入れる事は出来ない。だって二人は本当に生きている世界が違うから、気持ちを受け入れるならこの世界を捨てなければならないのだ。ナナシにそんな勇気はない。

クラッカーはじっとナナシの事を見詰めた。

「どうしても無理か?お前の嫌だと思う所とか、すぐには無理だが絶対に直す……」
「いや、あんたがどうとかじゃない」
「じゃあ、なんだよ?」
「自分の世界を捨てるなんて簡単には出来ないから……」
「そ、そんな事!」
「じゃあ、こっちの世界であんた生きていける?」
「……」

クラッカーはすぐに自分の生きているあの世界を捨てる事は出来ないと思ってしまい、何も言えなくなった。

「ほらね?私の世界とあんたの世界は違いすぎる。それに家族や友達だっている……だからそう簡単には捨てられない」

黙って下を向いたまま動かないクラッカーを抱き上げてナナシはベッドまで運び寝かせた。

「寝なよ。きっと兄弟があんたの帰りを待ってる」
「……ま、また来る」
「ダメ。次は死ぬかもよ?あんたに危ない事はして欲しくないし……それにこの世界はあんたには狭すぎるでしょ?」

クラッカーがベッドの中で悔しそうな顔をしているのでナナシは頭を撫でてやった。

「子供扱いするな」
「へいへい、すみませんね……ねェクラッカー?」
「……なんだ?」
「私なんかを好きになってくれてありがとうね」

ナナシはにっこりと笑った。
久しぶりに見るナナシの笑顔は今のクラッカーにはとても辛いもので、胸が苦しくなり自然に涙が溢れてきた。

「ちょっ!?」
「お、お前はズルい!」
「は?」
「口は悪いし凶暴だし驚くほど可愛くない!」
「……好きな相手に言うことかな?」
「でも、それでも一緒にいると楽しくて……それに笑った顔は、悪くない」
「……」
「もっと一緒にいたい」
「……うん」
「好きだナナシ」
「……うん」
「愛してる」
「……うん、ありがとう。もう寝よう?」
「嫌だ。もしかしたらこれが最後に……」
「だからだよ。私の事は早く忘れて素敵な人見つけな?まあ、あんたおっさんだから難しいかも知れないけど……」
「おい、コラ」
「アハハ」
「……本当にお前は、可愛くないよ」

クラッカーは目をゴシゴシと擦ってベッドの端により空いた空間をポンポンと叩いたのでナナシは苦笑いで頷いた。

寝る支度を済ませてベッドに寝転ぶとクラッカーが手を握ってきたのでナナシも軽く握り返した。

「おやすみクラッカー」
「おやすみナナシ」

二人はそのまま静かに眠りについた。















目を覚ますと隣にクラッカーはいなかった。
ナナシはなんだか何もやる気になれなくてそのままベッドに寝転んだ。










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一生戻れないと思うとすぐには判断できないと思います。次が最後。

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