20:呼ぶ声
時刻は午前2時。ナナシはまた大量に本を持ってきて読んでいたが何の情報も得られず、持っていた本を閉じて溜め息をついた。
他の本を取りに行こうと部屋を出ようとした時ナナシはクラッカーとの約束を思い出してベッドへと駆け寄り、クラッカーの体を軽く揺さぶった。
「んー」
クラッカーは起きなくて布団に潜ってしまった。ナナシ今度はもっと強く体を揺さぶりそして叫んだ。
「おーきーてー!」
「………うるさい」
クラッカーは眠い目を擦りながらナナシの事を少し睨んだ。
「……もう少し優しく起こせ」
「優しくしたらあんた起きなかったんだよ」
「チッ……どうした?」
「本取りに行ってくる」
「……は?今何時だ?」
「2時過ぎたくらい」
「……寝ろよ」
「まだいい。じゃあちょっと行ってくるから」
そう言ってナナシがベッドから離れようとしたらクラッカーに手を掴まれた。
ナナシは離してほしくて腕をぶんぶんと振り回したりクラッカーの手をべしべしと叩いてみたが手は自由にならない。
「離して!」
「いっ!」
ナナシは力一杯クラッカーの手をつねったが、でもやっぱりクラッカーは手を離さなかった。
「お前はいつもいつも……おれは痛いのが嫌いなんだよ!」
「じゃあ、離せ!」
「ぜっっったいに離さない!!」
クラッカーは両手でナナシの手を掴み出した。
力では絶対に敵わないとわかっているでナナシは体力の無駄だなと思いすぐに諦める事にした。
「わかった寝る。だから離して」
「……お前が寝たら離すよ」
めんどくせェなと思いながらナナシはベッドに乗り、そしてクラッカーの体を跨いでいつも寝ている所に寝転んだ。
「はい、寝ましたよ」
「まだ起きてるだろうが」
「……」
ナナシはめんどくさくなってもう手を掴まれててもいいかと思い目を閉じた。あまり仮眠を取っていなくて寝不足だったナナシはすぐに眠ってしまった。
「………ナナシ?」
ナナシが目を閉じて少しするとクラッカーは小さな声で名前を呼んでみた。返事はなくて規則正しい寝息が聞こえてくるだけだ。
クラッカーはそれを確認すると掴んでいた手をそっと引き寄せ口付けをした。
「起きたら、今度こそおれの気持ちを伝えるよ」
クラッカーはいつもよりも少しだけナナシの方に体を寄せて手を握ったまま眠りについた。
ナナシは暗闇の中にいた。
この前の夢だとナナシはすぐに気が付いて恐怖した。でも今の所声は聞こえてきていないので、とりあえず動かずに声が聞こえたら逃げようと考えた。
「……早く起きたい」
そうぼそりと呟くと同時に何か聞こえた気がしてナナシは震え上がった。すぐに逃げなくてはと思い声がどこから聞こえてきたか確認するために耳をすます。微かに聞こえてくる声は女性の物でなんだか聞き覚えがある気がして、怖かったが少しだけ声のする方へと歩いてみた。
「ナナシ」
自分を呼ぶその声はやっぱりよく知っている人の物で、ナナシは自然に声の方へと走っていた。
ナナシが目を開けると見慣れない天井が目に映った。
今度はどこに来てしまったんだと思いながら横を向けば、泣いている母と目が合った。
「あ……ただいまー」
母の姿を見て元の世界に戻れたのだとナナシはすぐにわかった。よかったーと思いながらここはどこなのかと聞こうとしたら、母に力一杯抱き締められる。
「うっ、ぐ、ぐるし……」
「あ、あんたは、もー!心配したんだからね!」
「ご、ごめ、とにかく落ち着いてくれ……ここはどこ?」
「病院よ!あんた覚えてないの!?階段から……」
「階段……あ!そうか、そうだった」
ナナシは母の言葉を聞いて雨の日に階段から落ちた事をはっきりと思い出した。
「ずっと意識が戻らなくて……本当に心配したんだからね!」
「も、申し訳ない」
「あんたは昔から注意力が……」
「お、お説教は後でゆっくり聞くからさ、先生とか呼んだり……」
「あ!そうだった!いってくるわ!」
母は早足で病室を出ていってしまった。
残されたナナシはクラッカーの言っていた事を思い出して大きく溜め息をつく。
「あのおっさん絶対帰り方わかってたじゃん。嘘つきやがって……」
ナナシは少しクラッカーにイラつきながらも、でも戻る前に世話になったお礼くらいは言いたかったなと思っていた。
クラッカーはベッドに残されていたナナシの服をただ呆然と見詰めていた。
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夢主も戻っちゃった。