時空を超えて愛してる | ナノ
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 19:怖かったから

揉めに揉めたがなんとかナナシは町に行こうと言うクラッカーの誘いを断った。
そして今は一人で部屋の掃除をしながら今後の事を考えている。

「とりあえず部屋はなんとか別に。戻れなさそうなら町で仕事を探して。この世界の常識ももっと勉強しないと……」

ナナシは一人ぶつぶつと言いながらほうきでゴミを集めていく。広い部屋だから大変だと思ったが、元々キレイなので掃除は楽なものだった。

終わったらまた昼まで本でも読むかと思いながら、ゴミは残ってないか最終確認をしていると部屋のドアが開いた。
クラッカーが戻ってきたのだろうかと思ったナナシは少し身構えたのだが、そこにいたのはクラッカーではなかった。

クラッカーよりも更に大きな男が三人部屋へと入ってきてこちらをギロリと睨んできた。

でも本当は男達ナナシを睨んでいるわけではない。下から見上げているナナシにはそう見えてしまっているだけだ。
ナナシは普通にこの状況が怖くて、つい叫んでしまった。

「ク、クラ、クラッカーーーーー!!!!!」





叫び声を聞いて駆け付けたクラッカーは只今大爆笑中である。

「お前、ハハハ!凄い声だったなァ!?」
「……うるせェ」

大きな男三人はクラッカーの兄でカタクリ・ダイフク・オーブンだそうだ。
そうとは知らず怖くて大声でクラッカーに助けを求めてしまった自分が恥ずかしくてナナシは両手で顔を覆いながら、すみませんはじめましてとあいさつをした。

兄弟が遊びに来るなら先に教えてよと思いながらナナシはまだ大爆笑中のクラッカーを少し睨んだ。
それに気付いたクラッカーはナナシの頭を軽くポンポンと叩く。

「怖かったなァ、可哀想に……プッ、ハハハ!」
「このっ………いい加減にしろやおっさん!!」

ナナシはまだ片付けず側に置いていたほうきを掴んで力一杯クラッカーのケツを叩いた。

「いっでェ!!」
「しつっこいんっだよ!!この野郎!!」

そう言いながらもう一発。

「いっつ!!お前、やめ、ろっ!!」

クラッカーはナナシからほうきを取り上げた。まだ気の済まないナナシはクラッカーの脛を蹴飛ばしてやろうと足を振り上げたのだが、自分の事を不思議な物でも見るような目でカタクリ達が見ている事に気が付き足を下ろした。

「あ、えっと……お茶の準備お願いしてきます」

ナナシは少し恥ずかしくなり逃げるように部屋を出ていった。

ナナシが出ていくとカタクリ達は口を開いた。

「あの女はなんだ?使用人ではないよな?」
「あ?ああ、前に世話になったから面倒見てやってるんだよ」
「……へェ」

三人は無言でクラッカーの事を見ている。

「な、なんだよ?何か言いたいことがあるなら言えよな」
「お前……趣味わりィな」
「んなっ!?」

ダイフクのこの言葉にカタクリとオーブンは頷いた。クラッカーは顔を赤くし下を向いてしまう。

「なんか地味だしよォ」
「口も悪いな」
「おまけに凶暴だ」
「………」

カタクリ達の言っている事は事実なのでクラッカーはすぐに言い返せなかった。

「……で、でも」
「あ?」
「そ、そんな所が、今は、か、かわ……」

顔を真っ赤にしてゴニョゴニョと言う弟の姿を見てカタクリ達は順番に頭を撫でてやった。幾つになっても弟は弟だし、可愛く見えるようだ。

「や、優しくするな!!」

クラッカーがカタクリ達の手を振り払っているとナナシとメイドが紅茶とお菓子を持って部屋に入ってきた。
カタクリ達が来た事を知っていたのでナナシが行った時にはほとんど準備は出来ていたのだ。

お茶とお菓子をテーブルに並べるとナナシはメイドと一緒に部屋を出ていこうとしたので、クラッカーは慌てて止めた。

「待て!どこにいくつもりだ!?」
「え?メイドさんが買い出し行くって言うから、一緒に行ってくる」
「お、お前!おれの誘いは断ったくせに!」
「いや、遊びに行くわけじゃないから。それに兄弟が遊びに来てるのに私がいたら邪魔じゃん?」
「……ぐっ」

ナナシの言っていることは一理ある。でもクラッカーは今朝の事をまだ少し引きずっているのでナナシとあまり離れたくなかった。
弟の顔を見てカタクリ達は仕方ないなと溜め息をついた。

「……おれ達は別に構わないが」
「え?」
「聞かれて困る話をするわけじゃないもんなァ」
「せっかくだし一緒にお茶しようぜ?」

クラッカーは心の中で兄達に感謝しながら、ナナシの腕を掴んで無理矢理ソファーに座らせた。
一度座ってしまうとなんだか断りづらくなってしまいナナシは買い出しを諦めてそのまま一緒にお茶をする事にした。





ナナシはお茶を啜りながらやっぱりこの世界はヤバイと思っていた。だって遠征帰りだというダイフク達が敵の船を何隻も沈めてやったとか笑顔で話しているのだ。
クラッカーの事がなくても早く自分の世界に戻りたいとナナシは改めて思った。

「………おい」

会話に参加していなかったカタクリに突然話し掛けられてナナシはビクリと飛び跳ねた。

「おれ達に遠慮してるのか?」
「え?」

カタクリは顎でテーブルの上のお菓子を指した。
ナナシがお茶を啜っているだけなので、自分達に遠慮してお菓子に手を出さないと思ったようだ。

「あ、違いますよ。甘いものが苦手なんです」
「な、なんだと!!!?」

ナナシのこの言葉にカタクリだけでなくダイフクとオーブンも反応した。

「お前正気か!?」
「お茶とお菓子はセットだろ!?」
「糖分こそ力の源だぞ!?」
「うわ、出たよ」

ナナシは隣に座っているクラッカーにコソッと話し掛けた。

「なんであんた達兄弟は世界中の人間が皆甘いものが好きだと思っちゃってんの?」
「いや、これはお前が本当におかしいんだ。だって普通皆好きだからな」
「いや、絶対他の島になら苦手な……」
「おい!おれ達の話聞いてるのか!?焼き菓子も嫌いか!?」
「豆大福は!?」
「ドーナツは別だろ!?」
「……めんどくせ」

ナナシは小さな声で呟いた。

そのままカタクリ達のお菓子トークは帰るまで続いた。そして次会う時は必ずお前に甘いものはうまいと言わせてやるからな!と叫びながら部屋を出ていったので、ナナシは溜め息が止まらなかった。















カタクリ達が帰った後クラッカーはナナシを見ながらニヤニヤしていた。
「……何?」
「いや、さっきお前が……」
「あ?あんたまさか……私がさっき叫んだ事またバカにする気!?」
「そうじゃなくて」
「……じゃあ何?」
「お前が、本当に困った時に助けを求めるのはおれなんだなと思ったら、なんか……」
そう言いながら笑っているクラッカーを見てナナシは怖かったからとついクラッカーの名を叫んでしまった事を後悔した。









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好きな人に頼りにされたら嬉しいよねっていう話。

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