時空を超えて愛してる | ナノ
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 08:気に入らない所

ナナシに言われた外出禁止をしっかりと守っているクラッカーは暇で仕方なかったので、お菓子をひたすら作って時間を潰していた。

部屋に置いてあった雑誌には色々なレシピが乗っているから面白かったのだが、でもやっぱりクラッカーはオーブンが欲しくなった。

「そういうわけだから、オーブン買ってくれ」
「いや無理」

ナナシはクラッカーの用意してくれたご飯を食べながら手をヒラヒラと振る。給料日前にこれ以上大きな出費はごめんだったしオーブンを使う予定はナナシにはない。

「なんでだよ!!」
「家にある道具で十分色んなもん作れてるしいいじゃん………私はいらないし」
「おれはいるんだ!」
「そのうちいなくなる人のために高い物は買いたくありません」
「………は?」
「いや、だって君はそのうち自分の世界に帰るでしょ?」
「………」
「………え?帰るよね?」
「………か、帰るに決まっているだろう!!バーカ!!」
「なんでキレてんの!?」





あの会話の後からクラッカーはずっと無言で、今もムスッとしたままベッドの上に無言で座っていた。
ナナシはめんどくさいので無視して今日買ってきた本を読んでいた。クラッカーはそれに尚更腹を立てたようだ。

「どうしてお前は何も聞かないんだよ!」

そう言いながら枕を殴っているクラッカー。めんどくさいなと思いながらナナシは溜め息をつき本を閉じた。

「どーしたんですか?」
「おれは今すぐにでも本当は帰りたいんだよ!!」
「あ、そうだったんだ」
「この世界はつまらん!!」
「そうね。君の話を聞く限りだとそっちの世界で大分自由に生きてたみたいだからね。早く帰れるといいね。私も早く帰って欲しいし」

その言葉を聞いてクラッカーは黙ってしまう。

「何?」
「…………お前はそんなに早くおれに出ていって欲しいのか?」
「もちろん!」
「即答かよ!!」
「だってお金掛かるし、可愛くないし」

くそっと言いながらクラッカーはまた枕を殴っている。ナナシは話はもう終わったなと思い本を読もうとしたのだが、クラッカーはまたじーっとこっちを見てくる。

「今度は何?」
「………おれの何が気に入らない?」
「は?」
「言えよ……すぐには無理かもしれないが、直してやっても、いい」

なんだ突然と思いながらも気に入らない所かとナナシは少し考えてみた。

「………全部かな」
「貴様!!!」

枕が飛んできてナナシの顔に当たった。

「いってェ!!このクソガキ!!」

ナナシは枕をクラッカーの顔面に投げ返した。

「いっ!何をする!!」
「こっちの台詞!!言えって言ったのは君だろうが!!」
「ぐっ………で、でも全部なんて普通言わないだろうが!!」

クラッカーはまた枕を投げる。ナナシは今度はキャッチして力一杯投げ返す。
そのまましばらく二人がぎゃーぎゃーとやっていると、ピンポーンとインターホンが鳴りピタッと二人の動きが止まった。





管理人さんに注意された。
ナナシはさっきからずっと黙って本を読んでいる。クラッカーだって別に暴れるつもりはなかったので反省している。

「………なァ」
「………」
「………無視するなよ」
「………」
「………おれが悪かったよ」

クラッカーを見てみれば枕を抱えてしょんぼりとしていて、見た目は子供だからちょっと罪悪感を感じる。ナナシはその見た目は本当にズルいなと思った。

「別にいいよ。私も一緒に騒いだし、お互い様って事で」
「………そうか」
「あと、さっき全部って言ったけど君の料理は好きだから、全部じゃなかった。ごめん」
「…………ん」
「さて、明日も仕事だしそろそろ寝るかね」

ナナシはゴロンっと寝転んだ。クラッカーもベッドに寝転がる。

「なァ」
「んー?」
「とりあえず一個………お前の気に入らないと思う所を直す」
「………今日どうした?」
「い、いいからさっさと言え!」
「………じゃあ、ベッド」
「あ?」
「ベッドで寝たい。こっちは疲れて帰ってきてるわけよ?なのに床」

ベッドをクラッカーに奪われたのでナナシはずっと床で寝ていた。しかも敷き布団の予備はないので長座布団の上でだ。長さは足りないし少し腰も痛かった。

クラッカーは舌打ちしてから端に寄り、ポンポンとベッドを叩いた。

「は?」
「ベッドで寝たいんだろう?」
「いや、一人がいいんだけど。君こっちで………」
「それは断る」

クラッカーはベッドから降りる気はないようだ。
少し狭いけど床よりはいいかと思いナナシはベッドの空いたスペースに寝転んだ。

「おーベッド久々。やっぱ腰楽だー」
「………なァ」

クラッカーはナナシの事をじっと見詰める。

「この世界は本当につまらん」
「さっき聞いたけど?」
「でも………」
「んー?」

クラッカーは寝返りをうち今度はナナシに背を向けた。

「お前と一緒なら今はそう悪くないと思ってるよ」

とても小さな声だったのでその言葉はナナシには届いていなかった。

「あ?なんだって?」
「う、うるさい!!さっさと寝ろブス!!」

クラッカーは熱くなった顔を隠すように布団を頭まで被った。















「なァ」
「今度は何?」
「お前……おれの世界に来いよ」
「は?」
「か、借りを作ったままなのは嫌なんだよ」
「いや、いいよ。頑張ってなんとか金だけ送って」
「このっ!!」
「あいたっ!なんで!?」
クラッカーはナナシを蹴飛ばした。










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もう少し一緒にいたいと思ってる。

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