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 07:兄弟の訪問

「よっ!カタクリ!」

そう言いながらカタクリの屋敷に現れたのはダイフクとオーブンだった。
いつもなら来る前に連絡を寄越すのにいきなり屋敷に来るなんて珍しいなと思いながらカタクリは仕事の手を止めた。

「なんの用だ?」
「なんだよー!大切な兄弟にはいつだって会いたいと思うだろ!なァ?」
「そうそう!」

笑いながら二人はいつも座るソファーへと腰掛ける。

「……………………本当は?」
「美人な嫁さんを拝みに来た!」

とてもいい笑顔で言う二人を見てカタクリは大きな溜め息をついた。

「で?美人な嫁さんは?」
「今日は子供達と虫取をすると言っていたな」
「そうか、そうか!虫取………え?虫取?」
「おい待て。誰の話だ?」
「嫁の話だが?」

ナナシは昨日町の子供達に虫取をしないかと誘われていた。もちろんOKしたナナシは朝ごはんを急いで食べて、虫取あみを持ち元気よく屋敷を飛び出していたのだ。

二人は混乱する。だって結婚式でのナナシの上品な姿しか知らないから、虫取をする姿なんてとても想像できないのだ。
二人は首を傾げしばらく考えていたが、オーブンがあ!と声を上げた。

「あれか!子供達が虫取をするのを見守る感じか?」
「ああ、なるほど!それなら納得だ!」
「いや?カブトムシを捕まえると張り切っていた」
「え?………本当に誰の話をしているんだ?」
「だから嫁だ」
「いやいやいや!あんな上品な嫁さんがそんな事するわけないだろ?」
「ああ、そうか。実はナナシは………」

カタクリが結婚式のナナシのあれは演技なんだと言おうとした時、廊下をバタバタと走る音が聞こえてくる。ちょうどナナシが帰ってきたようだ。
カタクリは説明する手間が省けてちょうどいいと思っていた。

「カタクリ様見てください!!」

ナナシはノックもせずに部屋に飛び込んだ。手にはカブトムシを持っている。
私が一番大きいのを捕まえたんですよーとナナシは興奮気味に話していてダイフクとオーブンに気付いていない。
ダイフクとオーブンはそんなナナシの事を呆然と見詰めていた。

「よかったな。今ちょうどおれの兄弟が遊びに来たんだ」

カタクリに言われて初めてダイフクとオーブンの存在に気付いたナナシはカブトムシを慌てて後ろに隠した。
ナナシは今更遅いかもしれないが兄弟の前ではどうすればいいのだろうと思った。

「カタクリ様、あの………」
「いつも通りで構わない」
「よ、よかったー!」

カタクリの言葉を聞いて安心したナナシはにっこりと笑って頭を下げた。

「こんにちはー!えっと……」
「こっちがダイフクでこっちがオーブンだ」
「ダイフク様とオーブン様!結婚式以来ですね!」
「あ、ああ」
「そう、だな」
「あ!お茶!お茶がない!私頼んできますね!」

ナナシがぺこりと頭を下げて部屋を出た瞬間、ダイフクとオーブンはカタクリに詰め寄る。

「あれは誰だ!?」
「か、顔は一緒のようだが……完全に別人だよな!?」
「あれが素なんだ」
「う、嘘だろ?信じられねェ」
「な、なんかショックだ………」
「そうか?おれは可愛いと思うが……」

女兄弟以外をカタクリが可愛いと言ったのを初めて聞いた二人は驚いた。

カタクリは自分が恥ずかしい台詞を言った事に気付いて顔を赤くし目を逸らした。
そんなカタクリの事を見て二人はニヤニヤと笑いだす。

「そうかー可愛いのかー」
「………ま、まァ」
「なんだよー嫁に惚れちまってるのかー」
「わ、悪くないと思っているだけだ!」
「好きって事だろそれは!」
「……………」

カタクリは顔を真っ赤にして黙ってしまう。
二人は今まで見たことのないカタクリの反応が面白くてしつこく質問を繰り返した。





「お待たせしましたー!って何事!?」

ナナシがお茶とお菓子を持って部屋に戻れば床にダイフクとオーブンが転がっていた。
ナナシはテーブルにお茶を置いてから二人を突っつく。

「い、意識がありません!!」

カタクリはあまりのしつこさに腹を立てて二人の事を本気で殴ってしまったのだ。まさか殴られるとは思っていなかった二人は構えていなかったのでそのまま気を失ってしまった。

「…………ね、眠いから寝ると言っていた」
「床で!?」
「あ、ああ」

カタクリはナナシに怖い人だと怯えられたら嫌だからすごい無茶な言い訳で誤魔化そうとしている。

そんな馬鹿なとナナシは最初思ったが、カタクリが寝る時でさえ寝っ転がらない事を思い出した。

「なるほど!つまりこのお二人はカタクリ様と逆で、どこでも寝っ転がってしまうと!?」
「そ、そうなんだ!」

カタクリはナナシの勘違いに合わせる。

「ち、小さい時からでな!」
「ハハ!面白いですねー!」

カタクリはナナシが素直でよかったと思った。















「でも床はちょっと汚いですから、少しは場所を考えた方がいいかもしれませんねー!」
「そうだな。言っておこう」
「あれ?お二人の顔なんだか腫れているような………?」
「ナナシ!お菓子をもらってきてくれ!」
「え?はや!あれ全部食べたんですか?」
「は、腹が減っていてな」
「仕方ないですねー!もらってきまーす!」
ナナシが部屋から出ていくとカタクリは二人を叩き起こして早く帰るように怒鳴った。
「流石にひどくないか!?」
「嫁さんとはまだまともに話してないぞ!」
「ダメだ!早く帰れ!ナナシに見つからないようにこっそりとな!!」










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ダイフクとオーブンがただ可哀想になってしまった(笑)

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