違う歩幅を合わせて | ナノ
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 04:お上品ではない

ナナシは港からカタクリの屋敷への道のりを必死に歩いていた。カタクリの歩くスピードが早いのだ。いや、正確には一歩が大きいからなのだが。

カタクリは島の案内をするか先に屋敷に行く方がいいかなど、色々考えながら歩いているから自分の歩幅とナナシの歩幅が大きく違うことを忘れているのだ。


「カ、カタクリ様ー!待ってー!!」

ナナシはもう追い付けないと思い叫んだ。
カタクリがハッとして後ろを振り返ると、ドレスの裾を持ち上げてひーひー言いながら必死に歩いているナナシが目に入る。随分と距離が離れていて、カタクリは早足でナナシの側へと戻った。

「あ、歩くの、遅くて、申し訳ないですー!」
「いや、おれの方こそ。考え事をしていて………悪かった」
「ドレスじゃなくて普段の格好なら大丈夫なんですけどね!」
「じゃあ、先に屋敷だな。お前の荷物は部屋に届いているはずだ」
「いやーそれが残念な事に!ドレスしか持ってきてないんですよねー!」
「何?」
「だって!私お上品お姫様設定で生きていくつもりだったから!」
「………なるほどな」
「ふー!さて、と!また頑張って歩きますかね!」

よいしょっ!とドレスの裾を持ち上げてナナシは歩き出す。

「お前が、嫌でなければ…………」
「はい?」

ナナシが少し首を傾げながら振り返ればカタクリは気まずそうに目を逸らす。

「担ぐ、が」
「担ぐ?」
「………その、肩にでも」
「ん?………ああ!やった!お願いしまーす!」

ナナシは笑顔でカタクリの前に立った。
たぶん嫌がるだろうと思っていたカタクリはまさかの返答に少し戸惑う。自分から言ったくせに少し気恥ずかしいようだ。

「だっこでもおんぶでもいいですよ!あ、肩車でもいいかも!」
「………そうか」
「カタクリ様大きいから景色良さそうですね!」

うきうきした様子で笑っているナナシにやっぱりやめようとも言えずカタクリは腕を伸ばした。


「高い!!これがカタクリ様の目線!!」

遠くまでよく見えてナナシのテンションが上がる。家族との別れの時とは違いすっかり元気な様子のナナシを見てカタクリはほっと胸を撫で下ろした。

「あ!家が見えます!町ですか!?」
「ああ。先に町で服を買うか?」
「いいんですか!?買いたいです!ありがとうございます!嬉しい!」

きゃっきゃっと楽しそうにしているナナシを見てカタクリの顔も自然に綻んだ。





カタクリの姿を見ると町の人達はご結婚おめでとうございます!と言いながら駆け寄ってきた。
ナナシはあいさつをしなければ!と思い飛び下りようとしたが、その前にカタクリに優しく下ろされた。カタクリにはナナシが飛び下りて着地に失敗する姿が見えたのだ。

下ろされたナナシはあいさつをしようと口を開こうとしたのだが、町の人達の完璧なカタクリ様にぴったりの美しく上品そうな方ですね!と言う言葉が聞こえて口を閉じた。ここは上品なふりをした方が良さそうだと思ったナナシは黙って両手でドレスの裾をつまみ頭を下げる。町の人達はその美しさをうっとりとした表情で見詰めていた。


「……………ナナシはそんなに上品じゃないんだ」

これを言ったのはカタクリで、ナナシは驚いて顔を上げた。

「い、いいんですか?」
「ここは俺の島だ。好きにするといい」

ナナシは嬉しくて勢いよく頭を下げた。

「カタクリ様と結婚しましたナナシです!!よろしくお願いしまーーーす!!」

そう叫んでナナシはにかっと笑った。見た目とのギャップがすごくて町の人達は少し驚いていたようだが、でもその笑顔はやっぱり可愛くてなかなか好印象のようだった。

「ではカタクリ様!服を買いに行きましょう!!」

上機嫌でずんずんと先に歩き出すナナシ。

「ナナシ違う。そっちじゃない」





買い物を済ませて屋敷に着いたナナシはすぐに部屋へと案内された。今まで自分が住んでいた部屋の三倍くらいは余裕でありそうな部屋だった。

「わーお!」
「ここがおれ達の寝室になる」
「そうなん…………ん?おれ達?」
「…………その、一応夫婦だからな」
「あ、な、なるほど……」

ナナシは何もされないとわかってはいたが、なんだか部屋に入ることが出来なかった。
カタクリの手がぽんっと優しくナナシの頭に置かれる。

「…………お前の嫌がるような事はしない」
「で、ですよねー!」

その言葉を聞いて安心したナナシは今日はなんだか疲れましたー!と言いながらベッドにダイブした。大きいベッドはふかふかでとても寝心地がいい。

「いやーそれにしてもカタクリ様も災難ですよね」
「何?」
「私みたいなのが、お嫁さんで」

ベッドの上でコロコロと転がっていたナナシはぼそりと呟いた。今まで自分と結婚したいとやってきた王子達はこんな性格だと知ると全員すぐに帰っていった。だからこの性格を知るカタクリも本当は自分との結婚をがっかりしていると思っているのだ。

「そんな事はない」

でもカタクリからは否定の言葉が返ってきてナナシは起き上がった。

「え?でも皆私の性格を知ると………」
「おれはお前のその性格を………悪くないと思う」
「ほ、本当に?」
「ああ」
「……………へへ」

たぶん異性にそんな風に言われたのは初めてでナナシ嬉しくなった。

「カタクリ様が結婚相手でよかったです!」
「…………おれもお前で、よかったと思っている」

そう言ったカタクリの顔は赤く染まっていて、なんだかナナシもつられて顔が赤くなった。















「な、なんか熱いですね!」
「そ、そうだな」
「な、何か冷たいものでも飲みたいですね!」
「わかった。メイドに用意させよう」
「あ、私お屋敷の中見たいので行ってきます!」
「じゃあ、おれが案内しながら連れていこう」
「わっ!ありがとうございます!」










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カタクリさんはやっぱり照れ屋かな。

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