00:こんなお姫様
ナナシはそれはそれは美しい姫だった。
いつも見合い写真が山の様に来ているし、突然ナナシを訪ねて島までやって来るなんて事もあった。
そして今日も美しい姫に一目会いたいと他国の王子が島にやって来ていた。
兄に言われてナナシはドレスを着て、待っている王子の元へと向かっていた。
憂鬱な気持ちで歩きながら窓の外を見てみれば何かが飛んでいくのが見えた。
「お待たせして申し訳ありません」
「お気になさらずに!こちらも突然来てしまいましたから」
ナナシの兄は王子に頭を下げていた。ナナシがまだ来ないのだ。
メイドはとっくに着替えて部屋を出たと言っていたし、どこに行ってしまったのだと兄はイライラしていた。
しばらくすると廊下をバタバタと走る音が聞こえてくる。
「お兄様ー!!」
ナナシはバンっと勢いよくドアを開けた。
「遅い!!!いったい何を……って、ど、どうしたんだお前!?」
現れたナナシの頭はボサボサでドレスもボロボロ。
王子はその姿に驚き慌てているが、兄の方はまたかと頭を抱えていた。
「ど、どうされたんですか!?」
「お前何をしてきた?」
「ウフフフフ………じゃーん!!ヘラクレス捕まえちゃった!!」
興奮した様子で虫を掲げるナナシ。
あの時外を飛んでいるヘラクレスを見つけたナナシは窓から外へと飛び出したのだ。
ちなみにその時いたのは三階。木を使って降りたのだが、ドレスだったので枝に引っ掛かってしまい途中で落ちた。だからボロボロ。でも諦めることなくヘラクレスを追い掛け見事に捕まえた。
どうしよう、かっこいい!と嬉しそうな様子で虫を見詰めているナナシの頭を兄は力一杯殴った。
「いったーい!何をするんですかお兄様!」
「お前は客が来てるというのに!あいさつをしないか!」
ナナシはむくれながら側にいる使用人に無理矢理ヘラクレスを預けて、髪を手櫛で軽く整えると両手でドレスの裾をつまみ頭を下げた。
「お待たせして申し訳ありません」
頭はまだ少しボサボサでドレスもボロボロなのだが美しいナナシがやればそれでも品があって、王子はうっとりとナナシを見詰めていた。
「じ、実に美しい」
「…………光栄ですわ」
ナナシは笑顔を張り付けて王子の元へと歩み寄れば、隠し持っていた蛇のオモチャを投げ付けた。
「うっうわあああああ!!?」
オモチャは実に良くできていて本当と勘違いした王子は気を失ってしまった。
「お近づきの印でしてよ?」
「ナナシーーーー!!!!」
兄の怒鳴り声が城中に響き渡った。
王子はナナシの性格を知るとすぐに帰っていった。
「まったくお前は!そんなんじゃ一生結婚なんて出来ないぞ!?」
「いいんだもーん!好きに生きるんだもーん!いいでしょお父様?」
「うんうん、元気が一番じゃ。な?妻よ」
そう言いながらナナシの父はいつも持ち歩いている亡き妻の写真に笑い掛けた。
「ほーらね!」
「おれは困るんだ!こんなにお転婆で……不安で仕方ない!!」
「だいじょーぶだいじょーぶ!!」
使用人達はそんなやりとりといつも笑顔で見守っていた。
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はじまりはじまり。