11:勘弁して
ナナシはやっと頭の包帯を取ることを許された。
医者はまだ少しだけ渋っていたのだが、治ってるよね?治ってるよ!治ったね!!とナナシが押し通した。
そんなナナシはご機嫌で町を歩いていた。もちろんカタクリがセットでだが。
ルンルンとスキップしながら前を歩いているナナシを見てカタクリの顔は綻ぶ。
ナナシはお気に入りの木に登った。高さはちょうどカタクリの身長くらいだ。
「カタクリ様と同じ目線です!」
「そうだな。楽しいか?」
「はい!とても!やっぱり外が好きです!」
ナナシはにっこりと笑った。
ベッドで過ごしていたナナシは本当につまらなそうだった。だからカタクリは今回特に問題はなかったし、命に関わるケガや病気でないならずっと寝かせているのは可哀想だし必要ないかもなと思いながら、ベッドの上で暴れていたナナシを思い出して少し笑った。
「あまり過保護もダメだな」
「あ!わかってくれました!?」
「ああ、反省している」
「よかった!!」
枝に座っていたナナシは立ち上がる。
「降りるか?」
ナナシはぶんぶんと首を振った。
「もっと登ります!」
「ん?この木はここがてっぺん………」
「とう!」
ナナシは隣の大きな木にジャンプで飛び移った。それを見たカタクリは顔を青くする。
「あ、危ないだろう!?」
ナナシは親指を立てて良い笑顔で叫んだ。
「ここからが木登りの本番ですからー!!」
「いや、本当に、それ以上は!」
「覇気で私が落ちる未来が見えましたか?」
「いや、見えてはいない、が………」
「じゃあ、問題ありませんね!!」
ナナシはどんどん登ってしまう。実は一度登った事があるから慣れたものである。
カタクリはその様子をずっとハラハラしながら眺めていた。もちろん覇気で見た未来ではナナシは落ちることなく無事にてっぺんまで到着しているのだが、それでもやっぱり落ちたら死んでしまうかもしれない高さだし不安だった。
ナナシはあっという間にてっぺんに到着した。たぶんこの木は島で一番大きな木。遠くまでよく景色が見えるので気持ちがよかった。
「おーい!カタクリ様ー!!」
下にいるカタクリにナナシは笑顔で手を振る。
「て、手を離すなナナシ!」
「大丈夫ですよー!カタクリ様も登ってきたらどうですかー?」
「おれが登ったら木が折れるかもしれない」
「丈夫そうだし平気じゃないですかね?」
「お前が上にいるのに折れたら困るだろう!頼むからそろそろ降りてくれ!」
「えー…………もーわかりましたー」
「手を貸す」
そう言ってカタクリは腕を伸ばして木のてっぺんにいるナナシを掴んで下まで降ろした。
「カタクリ様の能力ってなんか便利ですね!」
「そうだな。おれも今改めて思った」
あまり過保護はダメだなと一度は反省したカタクリだったが、やっぱりさっきのナナシを見ると不安になったようで帰りは覇気を使いながら何か危険があったら大変だとナナシより前を歩いていた。結局過保護はやめられそうにない。
カタクリは自然に早足になっていて、だからナナシは走っている。
ナナシは走るのは嫌いじゃないし、今は動きやすい格好なので置いていかれる心配はなかったのだが、それを見ていた町の人達はナナシが疲れてしまうのではと心配してカタクリに声を掛けようとする。
覇気で未来を見ていたカタクリはそれが見えたのでハッとして後ろを振り返った。
「そうだな……悪い」
「へ?」
「お前の歩くペースに合わせる」
「ああ!大丈夫ですよ!走るの好きだし!カタクリ様にいつも合わせてもらうのは悪いですから!」
にっこりとナナシは笑った。
町の人達はなんと仲睦まじいなんて言いながら二人の事をうっとりとしながら見ていた。
こんなに早く走れますよー!とナナシは言いながらダッと走り出したので、カタクリはちょっと転ばないか心配しながらも微笑ましいなとか思っていた。
「転ぶなよ?」
「大丈夫、大丈、っと!?」
そう言いながらナナシは石につまずいてしまった。でもカタクリの前でケガなんて絶対に出来ないと思っているので、なんとか踏ん張り持ち堪えた。
「ハ、ハハ!セーフ!」
エヘヘと笑いながらカタクリの側に戻ろうとしたナナシはまたも同じ石につまずいた。そして今度は踏ん張れず倒れてしまう。
辺りはしーんっと静まり返る。
ナナシは慌てて起き上がりケガがないかチェックを始める。手も足も血は出ていない。少し鼻が痛いだけだ。
「よ、よし!大丈夫です!ケガはありません!………ん?」
でもナナシはやっぱり鼻に違和感を感じて触ってみたら血がついていた。鼻血が出てしまったようだ。
血を見たナナシはこれは終わったなーと思った瞬間、町の人達から悲鳴が上がる。
「えー?やだ、皆もそういう反応?」
この島には過保護しかいないのか?とナナシからは溜め息が出てしまう。
驚いて固まっていたカタクリは町の人達の悲鳴で我に返り、顔を青くしてナナシを抱き上げ屋敷へと走り出した。
「もう止まったと思う」
「くそっおれがいながらまたお前にケガを………すまないナナシ、本当にすまない!」
「カタクリ様悪くないです。自分で勝手に転んだんで気にしないでくださいよ」
「ナナシ様……」
「その顔やめて?本当大丈夫だからさ」
「とりあえず一週間ほど安静に……」
「一週間でいいのか?もっと安静に……」
カタクリの頭からはさっきの考えはすっかり消えているようだ。
「勘弁してください」
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鼻にティッシュ詰めたら夢主は皆に怒られた。