06:お兄さんと一緒に
ナナシは大きな欠伸をした。
昨日カタクリの突然の訪問の後すっかり目が冴えてしまったナナシは、そのまま朝まで一睡も出来ず寝不足でふらふらと一日仕事をしていた。
そしてまた明日と言っていたカタクリは閉店の時間になっても来ることはなかった。
カタクリが来た時はもう日付が変わっていた。つまり本当に明日のつもりで言ったのかなーとナナシは思いながら掃除をしていた。
「今日こそゆっくり寝るぞー」
ナナシがそう呟いた時カランっとドアの鈴が鳴る。closeと看板を出していたのにおかしいな?と思いながらナナシは振り返った。
「すみませーん。今日は、もう………」
閉店です。と言う前にナナシは恐怖で固まる。そこにはそう、カタクリが立っていたからだ。
「………やはり今日はもう無理か?」
「い、いえいえいえいえ!い、いらっしゃいませ!カタクリ様!」
ナナシは目に涙を浮かべながら引きつった笑顔で頭を下げた。どうぞこちらへ!と言いながら掃除道具を急いで片付ける。
カタクリはなんて優しいんだ!と感動しながら店の中に入った。
そしてその後ろにはもう一人。ナナシはその人物を見て目を見開いた。
「はじめまして。ペロリン♪」
「あ、うあ、わ、は、はじめましてー!!」
ナナシは元気よくあいさつ。
いつかカタクリが兄弟を連れて来る日があるかもしれないとナナシはちゃんと構えてはいた。構えてはいたが、まさか今日……しかも最初に連れて来るのが長男だとは思っていなかった。
そしてナナシはペロスペローに刃向かえばキャンディマンにされると聞いたことがあったので、なんて恐ろしい人が来てしまったんだ!と震え上がった。
ナナシが震えている事に気が付いたペロスペローはスッと手を前に出した。ビクッと大きく飛び跳ねるナナシの体。それを見てペロスペローは苦笑いしながら能力でとても美しいバラのキャンディを一つ作り出した。その美しさにナナシの目がキラキラと輝く。
「くくくく……どうぞお嬢さん」
「わぁ、あ、ありがとうございます」
ナナシはそのキャンディをとても嬉しそうに受け取った。海賊だけど優しい人かも……とナナシは少し震えが止まる。
そのやりとりを見ていたカタクリはなんだか面白くない。ナナシの嬉しいそうな顔はとてもいい。可憐だと思うし永遠に見ていたい。
だがその嬉しそうな顔が兄の渡したキャンディのお陰だというのが気に入らないのだ。
カタクリも自身の能力でモチをポコポコと作り出しナナシの前に差し出した。
「ひぇっ!?」
「…………モチだ」
「え、あ、お、オモチですね?」
「…………嫌いか?」
「あ、い、いえ!い、頂いても?」
「いくらでも出そう」
ポコポコと更に出てくるモチにナナシは慌てる。
十分です!と言ってとりあえず出てきたモチをなんとか全部受け取った。
「あ、あり、ありがとうございます!」
「いつでも出そう」
「お、お気持ちだけで、本当に!あ、その、ご注文は……」
「ブレンドティーを……ペロス兄もそれでいいか?」
「……え?あ、あぁ、それで」
「か、かしこまりました!少々お待ち下さい!」
ナナシは二人に頭を下げ、キャンディとモチを落とさないように大事に抱えてキッチンへと入っていった。
その姿を愛しそうに見詰めるカタクリ……と、そんな弟をなんともいえない顔で見詰めるペロスペロー。
「お、お前……気付いてないのか?」
「………気付いてない?」
「いや、そうか、これは、何から話せばいいのか……」
「何がだ?」
ペロスペローはナナシが完全にカタクリに怯えているのがわかってしまった。そしてわかりやすいそれにカタクリが全く気付いていない事にも。
とりあえずカタクリの行動がおかしすぎる。あんな突然モチを出されても誰だって困るだろう。この様子ではまともに会話なんて出来ていないのでは?と思いペロスペローはカタクリに尋ねた。
「…………まぁ、その、あまり」
「お前もう少し頑張れよ。ペロリン♪」
「でも何を話せばいいのか……」
このままじゃ一生好きになんてなってもらえないだろう。大切な弟の恋を応援してやりたいペロスペローは色々考える。
「そうだな……お前があの子に危害を加えないとわかってもらうとか」
「加えるわけないだろ!」
「いや、その、うーん。じゃあ、自分の事を話せ」
「……おれの事?」
「あの子はお前の事をきっとあまり知らないだろう?」
「………たぶん」
「そうそう!だから知ってもらえ!ペロリン♪」
「そうか……それなら話せるかもしれない」
カタクリはよし!と意気込む。ペロスペローはこれでカタクリがナナシに気があるのだと気付いてもらえたらいいなと思っていた。
そしてしばらくしてナナシが紅茶を持ちキッチンから出てきた。
「た、大変お待たせいたしました!こちら……」
「シャーロット・カタクリ。ビッグ・マム海賊団の4将星の一人で次男。三つ子。身長509p誕生日は11月25日」
カタクリは機械のように自分の情報を話していく。ナナシは突然の事にえ?え?と繰り返しながら怯えている。
「違うカタクリ……そういう事じゃない」
ペロスペローは自分の弟のポンコツ具合に頭が痛くなった。
「カタクリとりあえず帰ったら説教だ。ペロリン♪」
「なんでだ?」
「すまないね。また来るよ。ペロリン♪」
「え?は、あ、お待ち、お待ちしております!ありがとうございました!」
「おれはもう少し……」
「いいから帰るぞ!」
ペロスペローはこのポンコツな弟をいったいどうすればいいのかわからず溜め息をついた。
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原作よりは前のつもりで書いてますので、まだ4将星です!
ペロスペロー大変。