日常パニック | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


 03:破壊は勘弁

ナナシと店長は壊された壁の片付けをしていた。
店長は何度も溜め息をついている。大切な店が壊れたのがショックなのだろう。

「ご、ごめんなさい店長」
「え?あぁ、悪い!お前は悪くない、気にするな!」
「店長………!」
「明日修理に来てもらおうな。だが、問題はこれだ」

店長はチラリとドーナツを見る。結局一つも食べられていない巨大なドーナツが店の真ん中に置きっぱなしなわけだ。ナナシの顔もひきつる。
二人は普通サイズな人間なわけで、とうていこの量を食べきるのは無理だ。

「店閉めたら町の人達にお裾分けするか?」
「そうですね」

二人は急いで壁の片付けを済ませ、ドーナツを配りに町へと向かったのだった。





次の日ナナシは見事に風邪を引いた。
普段熱などあまり出ないのだが、ここ最近カタクリが毎日のように来店するので恐怖により疲れが溜まっていた。そして昨日のカタクリとのやりとりが決め手になったのだろう。
なんとか起き上がろうとしたのだが体がいうことを聞かなくて、ナナシは仕方なく店長に休みの連絡を入れた。
ゆっくり休めと言われたナナシは安心して眠りについたのだった。

そして夕方。ナナシは少し体が楽になっていた。ゆっくりと寝たのが効いたのだろう。おまけに今日はカタクリに会わないで済むのだ。恐怖に震えることなくこの時間まで過ごせた。
少し食欲が出てきたナナシがキッチンで食事の用意をしていると、コンコンっとドアが叩かれた。普段あまり人が訪ねてくることはないのでナナシは飛び跳ねて驚いた。でもだいぶ前に風邪を引いた時、店長が様子を見に来てくれた事を思い出したナナシははーい。と何も考えずにドアを開けてしまった。

「…………見舞いに来た」

ドアの前に立っていたのはカタクリだった。調子は良くなっていたが、思いもよらぬ訪問者に構えていなかったナナシはそのまま気を失ってしまった。





しばらくしてナナシが目を覚ますとベッドの中にいた。

「び、びっくりしたー!夢でよかったー!」
「………怖い夢でも見たか?」
「…………っ!?」

ナナシは声のする方にゆっくりと顔を向けるとそこにはカタクリが座っていた。
夢じゃなかった!!!と恐怖で震えるナナシ。普段なら店で店長がいる。何もしてくれないが一人で恐怖するよりはましだった。でも今は家の中。一人だし、逃げ道はカタクリの後ろのドアだけ。終わったー!!とナナシの目に涙が浮かぶ。
そんなナナシの心境など知らないカタクリは震えながら涙を浮かべるナナシを心配していた。

「辛いか?」
「あ、す、すみません!もう大丈夫です!あの、な、何故……?」
「いつものように店に行ったら、店長に風邪だと聞いた……昨日は突然帰って、その、すまなかった。壁は直しておいた」
「い、いえ、そんな!ありがとうございます!ド、ドーナツ美味しかったです!食べきれないので、町の人達に分けましたけど……」
「そ、そうか!また持っていこう!」
「も、申し訳ないので、本当、大丈夫です!」
「本当にお前は謙虚だな」

本当にいらないだけとも言えずナナシはひきつった笑顔を浮かべた。
なんだか寝たままも気まずいナナシはベッドから起き上がった。

「あの、えっと、何か飲みますか?」
「具合が悪いのに無理するな。寝ていろ」
「い、いえ、もう大丈夫、ですし!わざわざ、家に来て頂いたのに、何もしないのも……」

カタクリはその言葉に固まった。
ナナシが突然倒れた事に慌てて忘れていたが、惚れている相手の家に来ているのだ。しかも一人暮らしのナナシ。つまり二人きり。
カタクリの顔が一瞬でボッと赤くなるり、急いで口元のストールを頭まで持ち上げた。昨日よりも照れている。
どうればいいのかわからなくなったカタクリは勢い良く立ち上がった。ナナシは普通サイズの人間だが、町の家は誰でも住めるように大きい。だからカタクリが立ち上がっても天井が壊れることはなかった。だがこのままストールで前が見えないまま走り出したらまた壁が破壊されるかもしれない。
ナナシは慌ててカタクリの足を掴んだ。ビクッと揺れるカタクリ。

「な、何か急用が!?」
「い、いや、違うが……」
「で、では、あの、座ってください!紅茶入れます!いえ、入れさせてください!」

ナナシがそう叫ぶとカタクリはしばらく固まっていたがゆっくりと座った。壁の破壊を防げたのでナナシはホッと胸を撫で下ろした。そしてナナシはキッチンへと向う。
カタクリは少しストールを下ろしナナシを盗み見た。いつも店では裏のキッチンへと入ってしまうので、ナナシが紅茶を用意する様子を見るのが初めてなカタクリ。おれのために用意しているのだな…とその後ろ姿に感動しているようだ。

「お、お待たせしましたー」
「悪いな」
「い、いえ!あ、お茶菓子とかなくて……」
「構わない」

お菓子はなかったがその紅茶はいつもより何倍もカタクリは美味しく感じた。





「そろそろ帰る………手ぶらで来て悪かった」
「い、いえ!お、お気遣いありがとうございました!」
「も、もし、まだ体調が優れないようなら……その、おれの、屋敷に、あー、来る、か?い、医者もいるしな!」
「げ、元気です!!!」
「………そうか」

カタクリは少し残念そうに帰っていった。
ナナシはそのまま気絶するように再び眠りについたのだった。















「ペロス兄聞いてくれ」
「今日はどうした?ペロリン♪」
「今日は風邪を引いたナナシの見舞いに行った」
「ほぅ」
「体調が優れないのに、おれのために紅茶を入れてくれた」
「うん、うん」
「おれは決めたぞペロス兄!」
「ん?」
「絶対に結婚する!!」
「落ち着けお前」
「ママを説得するの手伝ってくれ!」
「だから落ち着け」
弟との暴走っぷりにペロスペローは溜め息をついた。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ヒロインちゃんに逃げ道なし。

[ 戻る ]