日常パニック | ナノ
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 16:それでいい

遠征も無事に終わりナナシは自分の部屋に着くとベッドに倒れ込んだ。

「い、生きて戻ってこれたー」

ナナシは安心したのと遠征で疲れが溜まっていた事もありそのまま寝てしまった。





「ナナシー?」

遠征から帰ってきたと聞いたブリュレはいつものように鏡から顔を出した。いつもなら聞こえる叫び声が聞こえず部屋を見回すとベッドで寝転ぶナナシが目に入った。

「あら?」

ブリュレは鏡から出てベッドに近付くとナナシはすやすやと寝息をたてて気持ち良さそうに寝ている。相当疲れたみたいねと思いながらブリュレはナナシに布団を掛けてやる。
その時部屋のドアがノックされた。きっとお兄ちゃんねと思いながらブリュレはナナシが起きたら可哀想だと思いすぐにドアを開けた。

「やっぱりお兄ちゃん」
「ブリュレ」
「遠征お疲れ様」
「あぁ。ナナシは?」
「寝てるわ。それはもうぐっすりと」

ブリュレにそう言われてベッドの方に目をやればナナシの寝顔が見える。実に愛らしい寝顔だと思いながらカタクリは頷く。

「起きるまで寝かせてやるか………今日のメリエンダにナナシの紅茶がないのは寂しいが」
「まだ二時間あるし起きるんじゃない?」
「いや、遠征中はあまり寝れていないようだったし難しいだろう。お前も今日は諦めろ」
「そのつもり。じゃあ、また遊びに来るって言っておいてね」
「わかった」





ナナシはゆっくりと目を開けた。そして自分が寝てしまっていた事に気付くと勢いよく起き上がり、壁に掛かっている時計を見る。時刻は2時55分。ナナシの顔から血の気が引いていく。カタクリは別に今日のメリエンダはナナシの紅茶でなくていいと思っているのだが、ナナシはもちろんそんな事知らないわけだから仕事をサボったらどうなってしまうのかと怖くなり半泣きでキッチンに走った。

「うぅっい、いつも無駄に部屋に来るのに!起こしてくれればいいのにー!」

文句を言いながらもナナシは高速で紅茶の用意をしカタクリの部屋へと走り出した。

時計の針はもう3時を過ぎていた。

カタクリはナナシにメリエンダ中だけは部屋に入るなと散々言っていた。そしてそれは屋敷に来てからずっと守られているし、もちろん屋敷の者達もメリエンダ中に部屋へ来ることはない。
だからカタクリはすっかり油断していて、部屋の鍵を掛けていなかった。

そしてナナシ自身も今日はパニックを起こしていたので、とにかく紅茶を持っていかなければ!とそれしか頭になくメリエンダ中のカタクリの部屋に入ってはいけないという事をすっかり忘れていた。





ナナシは紅茶を落としそうになる。
人生で一度も横たわった事がないと聞いていたあのカタクリが、カーペットの上に寝転び、耳まで裂けた口を大きく開けてドーナツを頬張っているのだから。
そんな姿を見たナナシはもちろん驚いていて、カタクリは固まったまま動かなくなってしまった。

しばらく無言で見詰め合った二人だが先に我に返ったナナシが慌てて頭を下げた。

「あ、ご、ごめんない!!あ、あの、わ、私」
「………何故入ってきた」
「あ、あの、お、お紅茶」
「出ていけ」
「え?あ、あの!」
「今すぐ屋敷から出ていけ!!」

カタクリはこう叫ぶしかなかった。自分のこの姿を見た者は今まで全て殺してきたが、ナナシを殺すことなど絶対に出来ないから。だから何故鍵を掛け忘れたのかと自分を責めた。よりによって一番見られたくない人物にこの姿を見られてしまったのだ。幻滅しただろうか、情けないと思っただろうか、バケモノだと……頭には嫌なことばかりが思い浮かぶ。
出来れば何も言わずに出ていって欲しいとカタクリは思った。



「な、何故ですか?」

予想外の言葉にカタクリはまた固まってしまう。

「メリエンダに間に合わなかったから?あ、うっかり部屋に入ったから?」

せっかく慣れてきた所なのにそんなーと思いながらナナシは落ち込んだ。
カタクリは思っていた反応とは随分と違っていたのでどうしたらいいのか少し困る。

「…………こ、この顔を見てお前はなんとも思わないのか?」
「顔?あ、お、驚きました」
「…………そ、それだけか?」
「そ、それだけですかね?まぁ世の中色んな人がいますから」
「た、確かにそうだが…………こ、この寝転んだ姿を見てもか?」
「あ、そ、そこも驚きました」
「…………本当にそれだけか?」

ジロジロと自分の事を見てくるカタクリにナナシは目が泳いでしまう。カタクリはやっぱり幻滅したのだろうと思った。

「正直に言ってくれ。その方がおれも楽だ」
「え?じゃあ、その、えっと、あ、安心しました」
「…………安心、だと?」
「は、はい。わ、私は臆病でなんの取り柄もない人間です」
「そんな事はない」
「あ、ありがとうございます。えっと、あの、だからカタクリ様が凄すぎて、近寄りがたいっていうか、だから、あの、こういう普通な所を見れて、私は安心しました」
「でも、こんな姿………」
「………私はいいと思います」

そう言って優しく微笑むナナシを見てカタクリの顔はぼっと赤く染まる。メリエンダ中だったのでストールが外れているからそれがよく分かる。
あ、カタクリ様が照れてるの久しぶりに見たかもと思いながらナナシはクスクスと笑ってしまった。

「ふふ、私今のカタクリ様好きですよ」

この言葉を聞いたカタクリに衝撃が走る。

ナナシのこの好きはもちろんLOVEではなくLIKEだ。大事な事なのでもう一度言うが、LOVEではない。LIKEだ。

「まさか……そんな!」
「え、ど、どうしましたか?」
「お、おれが、す、す、すすす、好き、なのか?」
「え?あ、は、はい…………?」

その言葉を聞いてカタクリはガッツポーズをした。両思いだったのだと感動している。
カタクリはナナシの手を両手で優しく掴んだ。

「た、大切にする」

顔を真っ赤にして呟くカタクリに対してナナシは何を?と思いながら首を傾げるのだった。















「ペ、ペロス兄!!!」
「な、なんだ?どうした!?」
「実は………いや、やめておこう」
「な、なんだ?気になるじゃないか」
「いや、これは会って直接話したい」
「………私は忙しいからしばらく行けないぞ?」
「そうか、まぁ焦る事じゃないからな。うん。良ければその内ゆっくり遊びに来てくれ」
「わかったよ。ペロリン♪」
なんだか嬉しそうな弟の声に少し不安になりながらもペロスペローは電伝虫を切った。









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本当はもう少し真面目に書こうかと思ったのですが、駄目でした。

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