日常パニック | ナノ
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 15:ヤキモチはやめて

最初にカタクリが海に落ちるというハプニングがあったがそのあとは割りと遠征はスムーズに進んでいた。
まぁでもやっぱり嵐だったり海王類に遭遇するなんてことは普通にあって、もちろんカタクリが守ってくれたのでナナシは無傷だ。でも叫び疲れて後半はぐったりしていた。
そんなナナシにクラッカーは優しく接していた。連絡をした時にクラッカーはペロスペローに全て聞いたのだ。まさかあの兄が恋をしてこうもおかしな行動をするのかと驚いたし色々不安ではあったが、尊敬する兄の恋は応援しなければと、そして兄が惚れている相手には親切にした方がいいだろうと思ったのだ。

「おい、大丈夫か?」
「あ、すみません。なんとか」

弱々しく笑うナナシにクラッカーはビスケットを一つ出してやった。

「ほら」
「わっ、あり、ありがとうございます!ク、クラッカー様の能力は面白いですね」
「面白い?」
「あ、その、手を叩けば増えるので……」
「"叩けば増える"それがおれの夢のビスケットだからな」

そう言いながらクラッカーまた手を叩き手のひらサイズのビスケット兵を一体作った。小さいのにちゃんと動いていてすごいしやっぱり面白いと思ったナナシは拍手を送る。
そんな二人の事をカタクリは離れた場所から少し不機嫌そうな顔で見詰めていた。





遠征中もカタクリはいつも通りメリエンダを取っていた。ナナシは3時に間に合うように紅茶の準備をしてカタクリの部屋へと運ぶ。

「す、すみません!お、お待たせ致しました!」
「大丈夫だ。摂取するからナナシは……」
「は、はい!クラッカー様のお側にいますね」

カタクリはメリエンダの時は一緒にいることが出来ないのでクラッカーにナナシの事を任せていた。

「………部屋に入ることは許さないが、何かあったら遠慮なく声を掛けろ」
「だ、大丈夫ですよ!クラッカー様お強いですから!」
「…………おれの方が強い」
「あ、は、はい、そ、そうですよね!す、すみません!えっと、あの、ご、ごゆっくり!それでは!」
「……………あぁ」

ナナシはただカタクリがゆっくりできるようにと気を遣ってそう言っただけなのだが、カタクリの方は少し複雑な気持ちになっていた。でも最初に自分が言ったことなので仕方ないと思いながらナナシの背中を見送った。





ナナシは遠征中クラッカーとずっと一緒にメリエンダを取っていたので、まだ少し緊張するようだがそれでもだいぶ親しくなっていた。

「わ、私お屋敷ではよくブリュレ様とお茶するんです」
「ほぅブリュレと?」
「ブリュレ様お優しくて私大好きです!」
「兄貴だって優しいだろ?」
「え?………………ま、まぁ、その、はい」
「なんだその間は」
「す、すす、すみません!」
「兄貴はなー」

そしてカタクリの話を始めるクラッカー。なんの話をしていても結局いつもカタクリの話が始まる。
シャーロット家の方々は本当にカタクリ様が好きなんだなーと思いながら話を聞くのだが、本当にその話ばかりで少し飽きているナナシはクラッカーにバレないようにいつも小さな溜め息をついていた。

「…………おい、バレてないと思ってるだろうが溜め息ついてるの知ってるからな」
「ひっ!?う、嘘!!ご、ごごご、ごめんなさい!」
「兄貴の話はつまらんか?」
「そ、そそそそそ、そん、そんな事!!!」

テンパっているナナシは目が不自然なほど泳ぎ声が裏返ってしまう。しかも吃りすぎだ。そんなナナシの事をクラッカーはからかいがいがあり面白いと思っていた。
だが今回はあまりにもテンパっているので幼い兄弟達を落ち着かせる時と同じようにクラッカーは頭でも撫でてやろうと手を伸ばした。

でもその手はナナシに届かなかった。

「………何をしようとしている?」

ナナシに届く前にクラッカーの腕はカタクリに掴まれたのだ。

「あ、兄貴!?ず、ずいぶん早いな」
「早くて悪いか?」
「い、いや、そういうわけ………いたたたっ!?」

カタクリの手にはどんどん力が入っていきクラッカーの掴まれている腕はミシミシと悲鳴を上げている。それを見ているナナシはもちろん怯えていた。

「…………ナナシ」
「は、はひ!!」
「紅茶を。おれとお前の二人分だ。こいつの分はいらない」
「え?で、でも………」
「いらない」
「は、はははは、はい!!」

なんだか怒っている様子のカタクリに逆らうことなど出来ないナナシは怖くて逃げ出したい気持ちもあり急いで部屋を飛び出した。
ナナシが出ていくのを確認するとカタクリは物凄く恐ろしい顔でクラッカーを睨み付けた。殺気がヤバい。

「ずいぶんナナシと親しげだな?」
「べ、別にそん………痛い!痛いって兄貴!!」
「好きなのか?」
「は?」
「だからナナシが好きなのか?」

クラッカーはその言葉を聞き呆然とする。だってクラッカーには昔から心に決めた人がいるのだ。もちろんその事はカタクリも知っていて、だから普通だったらこんな風に思うことはなかっただろう。
でもナナシが絡んだ時のカタクリは普通ではないので、完全にその事が頭から抜けてしまっているようだ。

「いや、本当に痛い!!兄貴落ち着けよ!!」
「返答次第ではおれはお前を………」

そう言いながらクラッカーの腕を更に強く掴むカタクリ。兄の惚れている相手だからと優しくしただけなのに、おれはいったいこのままどうされるのだとクラッカーは顔を青くした。

「あ、あ、兄貴の好きな奴だから!!」

クラッカーは咄嗟にそう叫んだ。カタクリの顔がぼっと赤くなる。

「なっ!?お、おれがあいつを好きなのに気付いていたのか!?」
「も、もちろん!つまりいつかナナシはおれの義理の姉になるんだよな!?だ、だからおれは仲良くした方がいいと思って!」

その言葉を聞いてカタクリはクラッカーの腕を放した。

「き、気が早いなお前は。だが、お前の言うとおりだ。うん………よし、やっぱり三人でお茶にしよう。ナナシに紅茶の追加を頼んでくる」

そう言いながらカタクリは部屋を出ていった。
部屋に残されたクラッカーは痛む腕を擦りながら早く遠征が終わればいいのにと思っていた。





「ナナシ」
「ひっ!!カ、カタクリ様!?」
「さっきはいらないと言ったが、クラッカーの分の紅茶も頼めるか?」
「あ、は、はい!もちろんです!!」

さっきと違いすっかりご機嫌な様子のカタクリにナナシはほっと胸を撫で下ろしたのだった。















「やぁ、クラッカー!今日も特に問題はなかったか?ペロリン♪」
「ペロス兄ー」
「ど、どうした泣きそうな声を出して」
「兄貴がヤキモチ妬いてな………おれの腕が折られるところだった」
「な、なんだって!?」
「早く帰りたい」
「あ、あと二、三日の辛抱だろ?頑張ってくれ」
「やだよ。兄貴こえェよ」
「………今すぐカタクリに代わってくれ」
本当にどうしようもない弟だとペロスペローは大きな溜め息をついた。










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ゆっくりと育むと同じ時間軸なんだぜ。

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