日常パニック | ナノ
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 14:遠征に行く

「ナナシ」
「は、はい」

いつものように部屋を訪れるカタクリ。この後なんでもないといつもなら帰っていくのだが今日はドアの前に立ったまま動かない。ナナシは首を傾げる。

「こ、紅茶ですか?」
「いや………その」
「は、はい」
「…………………な、なんでもない」

これは絶対なんでもなくないやつだ!と思いながらナナシは悩んだ。
これでドアを閉めたらまた破壊される危険性があるわけで、でもナナシにはカタクリが何を考えているのかわからない。
とりあえずまたカタクリに言葉を掛けてみる。

「ほ、本当になんでもないんですか?」
「……………」
「も、もやもやするので言って頂けると………」
「…………おれは強い」
「へ?」

突然なんの話かとナナシは震える。だってそんなの皆知っている事だ。なんてったって懸賞金10億の男。カタクリは続ける。

「覇気を使えば少し先の未来も見える」
「そ、そうなんですね」
「敵を皆殺しにする事など簡単だ」
「ひっ、こ、わ、あ、す、すごい」
「つまり…………お前一人守るくらい容易い」
「は、はぁ………?」
「…………い、一緒に遠征に行こう」
「………え、ええええ!?」

まさかのカタクリの誘いにナナシは叫んでしまった。
ナナシは海が好きだ。でもそれは陸から眺める場合のみ。だって海は何が起こるかわからない。まぁ、カタクリと一緒なら海賊に襲われても大丈夫だろうが、でも嵐だったり海王類だったりと色々な死の危険があるわけだ。
それにナナシは万国に来るため海に出た時すでに散々な目にあっていて、だから命からがらこの国にたどり着いた時二度と海には出ないと決めていた。
一生懸命どう断ればいいか考える。

「あ、あの、ち、ちなみに、い、いつから?」
「今からだ」
「い、今!?わ、私、その、えっと、あ!の、のろまなので、準備にすごく時間が掛かりますから!ちょっと……」
「問題ない。お前の荷物はすでに船に積んである」
「い、いつの間に!?」
「新しく揃えた」
「お、おぉ………」

でも、あの、と言っているナナシの頭にカタクリは優しく手を置いた。

「安心しろ。命に変えてもお前は守る」
「………………っは、ぃ」
「それに今回は弟のクラッカーも一緒だ」
「あ、4将星の……」
「そうだ。あいつにもお前を最優先で守るように伝えておこう」
「あ、あり、ありがとうございます」

これは断れないやつだーとナナシはちょっと泣いた。
カタクリの方はこれで遠征中もナナシと一緒にいれるのだと感動していた。





船に乗り込んですぐにカタクリはクラッカーの元へと向かった。ナナシの話以外にも遠征についてとか色々あるのだろう。
残されたナナシはとりあえず邪魔にならないようにと甲板の隅の方で海を眺めることにした。
今日はそよそよと風が気持ちよくて海は穏やか。まさに船出日和といったところだろう。

「でもやっぱり私は陸から海を眺めてる方がいいなー」

ぼそりと呟きながらナナシは溜め息をついて今度は空を見上げる。カモメが気持ち良さそうに飛んでいて、空のが安全そうでいいなーなんて思いながら眺めていたら、ポトリと何か顔に落ちてきた。
ん?と思いながらナナシが顔に付いた物を手で取ってみるとそれは鳥の糞。

「嘘でしょー」

ナナシはさらに気分が沈んだ。洗面所がどこにあるかわからないから聞きたいが、皆忙しそうで声を掛けるのが申し訳ないと思いとりあえずポケットからハンカチを取り出して顔を拭く。さっきよりも大きな溜め息がもれる。

顔をごしごしと拭いている時に大きな風が吹いた。突然の風にナナシは少しよろけてしまい、しかもハンカチをつい手放してしまった。そんなの放っておけばよかったのにあ!とつい反射で手を伸ばしてしまい、身を乗り出しすぎたナナシはそのまま海に落下。
ぷはっと慌てて海面に顔を出してナナシは目を擦る。本当に今日は運がないと落ち込んだ。
申し訳ないけど引き上げてもらわないとと思いナナシは大きな声で叫んだ。

「だ、誰か助けてくださーい!」

ナナシの助けを求める声が聞こえたカタクリはすぐに声のする方へと走り出す。

「ナナシ!!」
「あ、カ、カタクリ様!す、すみません、わ、私うっかり……」
「すぐに助ける!!」

そう言いながらカタクリは自ら海に飛び込んできた。ナナシが助けてと言った事によりとんでもなく慌てていたカタクリは自分が泳げない事を忘れているのだ。
そんなカタクリの行動にナナシは驚いた。悪魔の実の能力者がカナヅチになるということはナナシだって流石に知っている。

「お、おれが、た、助け………」

そう言いながら海に沈んでいくカタクリの体をナナシは慌てて支えるも、カタクリの大きな体を普通サイズのナナシが支え続けるのは難しい。

「ど、どうしよう、だ、誰か………」
「お、おい!兄貴!?」

上を見れば慌てた様子のクラッカー。カタクリが海に飛び込む瞬間を見ていたのだ。
海に入りぐったりとしているカタクリとそれを一生懸命に支えているナナシを見てクラッカーは急いで能力でビスケットの階段を作ると海面ギリギリまで降りた。

「だ、大丈夫か!?」
「ナナシを、先に………」
「な、何言ってるんですか!?私は一人で上がれますから、カタクリ様をお願いします!!」

そう言われてクラッカーはカタクリの方を先にビスケットの階段に引き上げ、すぐにナナシにも手を差し出してやった。

「す、すみません」

ナナシはクラッカーの手を掴んでビスケットの階段の上に登った。とても迷惑をかけてしまったとナナシは申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、先に行けと言われたので階段を上っていく。
その後に続いてまだぐったりとしたままのカタクリに肩を貸しながらクラッカーが階段を上っているとぼそりと何か呟く声が聞こえた。

「え?何か言ったか?」
「じ、自分よりもおれを優先するとは………あいつは天使なのかもしれない」
「……………どうした兄貴?」

なんだか今回の遠征が不安で仕方なくなったクラッカーだった。















「ペロス兄聞いてくれ」
「あぁ、クラッカー。どうした?ペロリン♪」
「今カタクリの兄貴と遠征中なんだが……ナナシって女も一緒なんだ」
「ナナシが一緒だと!!?」
「あ、あぁ……それでなその女が海に落ちてカタクリの兄貴が助けようと自ら海に飛び込んでな」
「その遠征は今すぐ中止だ!」
「いや、もう戻るのは無理だ。だいぶ島から離れた………あの女は兄貴のなんなんだ?天使とか言ってたが」
「あぁ………ク、クラッカー!今回の遠征はお前だけが頼りだ!頑張ってくれ!!」
「え!?……が、頑張るよ」
ペロスペローはとうとう胃薬を飲み出した。










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皆何かあるとすぐ長男に電話しちゃう。
あと今更ですがカタクリはヒロインの前では見聞色の覇気を使えません。だって冷静でいられないもの(笑)

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