13:外出しよう
あの後破壊された壁はすぐに直され、ナナシは今日も部屋でゴロゴロと過ごしていた。
すると鏡からブリュレが顔を出す。
「ナナシ遊びに来たわ」
「ひっ!も、もうブリュレ様!鏡から突然来るのはやめてくださいってー!」
「いい加減慣れなさいよ」
そしてあの日からブリュレはちょくちょく遊びに来るようになっていた。
カタクリの奇行を見たのならもういいかとペロスペローはブリュレに全てを話したのだ。
最初はあの兄がそんな事……と思ったのだが、実際に目の前で見た事を思い出しブリュレは納得した。
大好きな兄の恋を応援するためブリュレは今日もカタクリのかっこいい話をする。
「今日こそお兄ちゃんがかっこいいってわからせてあげるんだから!」
「えーまたですか?もう耳にタコなんですけど……ブリュレ様がカタクリ様を大好きだってもう十分わかりましたよ?」
「だからそこじゃねェよ!!」
とりあえず紅茶入れますのでどうぞとナナシはブリュレを部屋へ招き入れた。
毎日暇をしているナナシとしてはブリュレの訪問はありがたい。しかも同性だからかとても話しやすいし、ブリュレは優しかった。今もお茶菓子持ってきたわとクッキーをテーブルに並べてくれている。
「私ブリュレ様お優しくて大好きです!」
「アタシも別に嫌いじゃないわね」
「わーなんか微妙な返答」
二人はすっかり仲良くなっていた。
二人が楽しくおしゃべりしている時ドアがコンコンとノックされた。
一時間に一度のカタクリの訪問の時間のようだ。ナナシは慌てて立ち上がりドアを開けた。
「………ナナシ」
「は、はい!」
「なんでもない」
相変わらずこのやりとりだけだ。カタクリは顔が見れたら満足で、ナナシも特に話す事はない。
それを見ていたブリュレは溜め息をついた。もっとこう一緒にお茶にしようとか何か言えないものなのかと。自分ならいいが他の妹達がこんなカタクリを見たら落ち込むに違いないとブリュレは思った。
仕方ないとブリュレは立ち上がる。
「お兄ちゃん!」
「ブリュレ。また来ていたのか」
「ナナシを外に連れてってあげてよ」
ブリュレの言葉に二人は固まった。
ナナシの方は何いきなりとんでもない事言ってんだよ!と思い顔を青くして、カタクリの方はつまりそれはデートか?と思い顔を赤くしてだ。
青い顔と赤い顔を見ながらブリュレは言葉を続ける。
「だっていつもナナシ部屋にこもってるんだもの!たまには息抜きが必要だわ!」
「………確かに」
「えっ!?や、い、いらない!いらないです!!」
じゃあ、私用があるからとブリュレは鏡の中に帰っていった。
大変な事になったとナナシはびくびくしながらカタクリを見上げた。
「行くか」
「や、ほ、本当に!だ、大丈夫ですから!!」
「遠慮するな」
そう言ってカタクリはさっさと歩き出してしまった。ナナシはやっぱりブリュレ様なんか嫌いだと思いながら渋々カタクリの後に続いた。
屋敷から出たはいいが特に向かうところもなくただ無言で歩く二人。皆がこそこそと自分達を盗み見ているのに気付いたナナシは隠れたくて、とりあえずと思い自分がいつもお菓子を買いに行っていた店を目指した。
「こ、ここのお菓子美味しいんですよ」
「あぁ、知っている」
「あ、やっぱりカタクリ様もご存じですよね」
そんな話を少ししながら二人は店に入った。
「これはこれはカタクリ様いらっしゃいませ!!」
店に入るなりすぐに店長が出てきてカタクリの接客を始めた。よし、まかせた!とナナシは思いながらこそこそとカタクリから離れる。
久しぶりに来た店は少しお菓子の種類が増えていて見ていて楽しい。自分がお気に入りのお菓子は売り切れていてがっかりするもなんだか嬉しくて、可愛くラッピングされたチョコにはうきうきする。
なんだかんだ外出もいいなーと思いナナシの顔は笑顔に変わっていく。
それをカタクリはもちろん見ていてなんて愛らしい笑顔だと感動しており、外出して本当によかったありがとうブリュレとか思っていた。
「あら、ナナシちゃん久しぶり!」
「あ、お久しぶりです!」
よく喫茶店にも来てくれていた顔見知りの店員のお姉さんが手を振りながら出てきてくれ、ナナシはペコリとお辞儀した。そしてお姉さんは店にいるカタクリをチラリと盗み見るとナナシに小さな声で話し掛ける。
「デート?」
「な、ななな、何をおっしゃる!!」
「だってカタクリ様に気に入られてるって聞いたけど?」
「ち、ちが、違いますよ!!私が隙だらけで放っておけないだけで……」
「どうでもいい人相手なら隙だらけで放っておけないとかならないと思うけどなー?」
「カ、カタクリ様お優しいから……」
「他の人にはないじゃない?」
「…………な、なんか怖いからもうやめて」
そう言いながら頭を抱えるナナシが面白くてお姉さんは笑っていた。そしてそうだ!と言いながらカウンターに置いてあったお菓子の入ったかごをナナシの前に差し出す。
「新作よ!ご試食どうぞ?」
「わっ嬉しいです!」
いただきまーすと言いながらお菓子を一口かじる。
「すっっっごくおいしー!!」
「でしょ?」
とても幸せそうな顔でお菓子を頬張るナナシ。
「全部買おう」
「…………え?」
いつの間にかカタクリは後ろに立っていた。
「店の物を全部買う」
「え?え?」
「なんなら店ごと屋敷に来い!!」
「ちょっ!?カ、カタクリ様!?」
突然のカタクリの言葉にパニックを起こすナナシ。
カタクリはやっぱりナナシを見ていて、幸せそうにお菓子を頬張る姿に改めて心を射ぬかれた。この顔をまた見たいカタクリは必死だ。
店長もお姉さんもカタクリの言葉にポカーンである。
「急にどうしましたかカタクリ様!?」
「ここの菓子が好きなんだろう?」
「え!?や、ちょっわ、私のため!?」
「そうだ」
「こ、困ります!困ります!!」
後で何かとんでもない請求でもされたら大変だとナナシは首を大きく横に振った。
純粋にナナシの幸せそうな顔が見たいカタクリは引き下がらない。
「こ、ここまで買いに来ればいいだけなので!」
「近い方がいいだろう?」
「いや、えっと、歩きながら何を買うか考えるのが楽しいので!!」
「………そういうものか?」
「そういうものです!」
そうかと言ってカタクリは引き下がった。ナナシはほっと胸を撫で下ろして早く出た方が良さそうだと思い、新作のお菓子を手に取った。
「………それだけか?」
「え?あ、はい!」
私にはこれだけで十分なのよーと伝わるようにナナシなりに今出来る精一杯の笑顔をカタクリに向けた。
ちょっとひきつった笑顔だったが、カタクリには十分な効果がある。
「やっぱり店の物を全部買おう!!」
「いや、だからー!!」
結果店の商品を全種類一個づつ買うという事で落ち着いたのでした。
「ペロス兄!」
「おぉ、どうした?ペロリン♪」
「今日はナナシと外出してな」
「おー!デートだな」
「ま、まぁ」
「それで?」
「菓子を幸せそうに食べる姿が愛らしかった!!」
「よかったな」
今日は何も変なことはしてないようだと安心したペロスペローだったが、後日ブリュレがナナシにその話を聞きお兄ちゃんがまた変な事したと教えられ結局胃を痛めたのだった。
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ヒロインの笑顔のためならなんでもしちゃう。
ちょっとずれてるけど