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 05:勇気を出して

ナナシは困っていた。クラッカーがタンスの中に入ったまま出て来ないからだ。

「クラッカー出ておいでよー」
「やだ!おれやだ!!」
「大丈夫だよー痛いのは一瞬!」
「うぅ、やぁだぁー!!!」

ナナシは溜め息をついた。今日は今流行っている風邪の予防注射をする事になっていた。
痛いのが嫌いなクラッカーは注射も嫌いなわけで、それを聞いた瞬間逃亡したのだ。

「クラッカー絶対注射はするんだよ?」
「うぅ、おれやだもん!」

タンスの中で泣きじゃくるクラッカー。ナナシは根気よく説得を続けている。無理矢理連れていくことも出来るのだが、毎回これでは疲れてしまう。クラッカーが注射と聞いても逃げないようにするにはどうしたらいいだろうかとナナシは考えていた。

「注射は痛いの一瞬だけど、病気になったら痛いの長く続くよ?」
「うぅ、うっうっ……で、でも」
「病気の時は寝てなきゃいけないし。一緒に遊べないよ?」
「うっうぅ………」

ナナシの言葉に少し悩むクラッカー。やっぱり病気にはなりたくないし、ナナシと遊べないのは嫌だった。でもまだ注射をしたくない気持ちの方が強いようだ。
あ!とナナシは一ついい考えを思い付いた。
そして勢いよくタンスをナナシが開けると、ビクッと飛び跳ねるクラッカー。中にかかっている服の中に頭を突っ込んだ。

「お、おれー行かないから!」
「うん、いいよ」
「…………え?」
「クラッカーが注射しないなら、私も注射しない。本当は私も注射嫌なんだー」

クラッカーは服に突っ込んでいた頭を出してナナシを見た。ナナシはニコッとクラッカーに微笑んで頭を撫でてやった。涙でぐちゃぐちゃのクラッカーの顔が笑顔に変わりナナシの手を引き再びタンスの中に隠れる。
ナナシが自分の味方になったのだと嬉しそうに笑っているクラッカー。
でもそんな事あるわけなくここからナナシの思い付いた作戦スタートである。

「でもクラッカーとこうして遊ぶの今日で最後になっちゃうかも」
「えっ!?」

ナナシのその言葉に笑顔だったクラッカーの顔が一瞬で曇る。ナナシは悲しそうに笑いながらクラッカーの頭を撫でた。

「私はね、ママの子じゃないから皆より体が弱いの。よく私だけ風邪引いちゃうでしょ?」
「う、うん」
「だからね、今日の予防注射しないでその病気になったら皆は大丈夫だけど、私は、もしかしたら、もう………」
「っ!?えっ!?や、や、やぁだあぁぁ!!!」

クラッカーは泣き叫んだ。今流行っている風邪は別に死ぬほど酷くなるものではない。ただ長引くようなので厄介なだけだ。でもそんな事知らないクラッカーはナナシがあまりにも悲しそうな顔で言うものだから、ナナシは死んでしまうのかもしれない!と見事に勘違いしてくれた。作戦成功である。
クラッカーはナナシの手を掴んでタンスから飛び出し、医務室目掛けて一直線に走り出した。




そして二人は医務室の前に到着。
中から誰かの泣き声が聞こえる。クラッカーはナナシの手を強く握った。やっぱり嫌なのだろう。中に入ろうとしない。

「怖いね。やっぱり逃げる?」
「………!だ、だめ!に、逃げない……けど」
「けど?」
「うぅっ……ナナシ、ぎゅってしてくれる?」

クラッカーは今にも消えそうな声で呟いた。ナナシは笑いながらクラッカーの事を抱き上げ医務室の中へと入っていった。

そしてそのままナナシは船医の前の椅子に腰掛けて自分に巻き付いたままのクラッカーの腕を片方外し、お願いしますと頭を下げた。クラッカーの震えが尋常じゃない。船医は苦笑いしながらクラッカーの腕を消毒する。ビクッと大きく跳ねるクラッカー。腕を引っ込めてしまった。

「クラッカー?」
「うっうぅー」

クラッカーはプルプルと震えながら船医に腕を差し出した。船医は素早く注射を刺す。

「う、うわあぁぁん!!!」

クラッカーの叫び声は船の中に響き渡った。





クラッカーの後にすぐ注射を済ませたナナシは泣いているクラッカーの頭を優しく撫でてやる。
クラッカーは涙を拭きながらナナシを見上げる。

「クラッカーと一緒だったから注射怖くなかったよ。ありがとう!」
「うっうっ………ナナシ、これで、大丈夫?」
「うん!大丈夫!ありがとうクラッカー!また次も一緒に注射してね!」
「うっぐ………うぅ」
「…………だめ?」

クラッカーは小さな声でわかった。と呟いた。
そしてクラッカーは少しもじもじしながらナナシの服を引っ張った。

「お、おれ、まだちょっと痛いから、またナナシにぎゅってして欲しい」
「えー?もー仕方ないなー」

ナナシが笑いながらクラッカーを抱き上げようとした時、誰かがナナシを呼んだ。
声のする方を見ればそこには泣いているモスカート。今注射が終わった所のようだ。
まだ2歳のモスカートはゆっくりとこちらに歩いてくる。

「うっうぇ、ナナシー!ちゅーしゃ、い、いたいー」
「わー!ご、ごめんねクラッカー!ちょっとモスカートの所行くから」

ナナシはモスカートに駆け寄りすぐに抱き上げた。
クラッカーも流石に泣いている2歳の弟より自分を優先してもらう事は出来ないので、一人その場で泣いた。















でもやっぱり誰かに慰めてもらいたいクラッカーはペロスペローを探した。
「ぺ、ペロス兄ぃ」
「おー、クラッカー!すごいな!今回はもう注射終わったんだろ?偉いなー!」
「え?お、おれ偉い?」
「あぁ、偉いぞ!ペロリン♪」
「エへへへ」
ペロスペローに偉いと頭を撫でられクラッカーは嬉しさで涙が引っ込んだ。










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クラッカーも一応お兄ちゃんとして我慢する時もある。

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