04:おつかいに行こう
「頼んだぞナナシ」
「はーい」
ナナシは父におつかいを頼まれた。今日作るお菓子の材料が少し足りないらしい。
でも少しとはいえ子供一人で持つには量が多い。ナナシはとりあえずペロスペローに手伝いを頼もうと思い部屋へと向かった。
だが、その前にカタクリ、ダイフク、オーブンを発見。ちょうどいいとナナシは三人に声をかけた。
「という訳で、誰か一人でもいいからおねがーい!」
手を合わせて頭を下げるナナシに三人は露骨に嫌な顔をする。
「やだー何その顔……」
「おれ達忙しい」
「何が忙しいの?」
「今日は天気がいいだろ?」
「あ、洗濯のお手伝い?」
「昼寝だ!」
上からオーブン、ダイフク、そして最後に元気よくカタクリ。笑顔で頷く三人の頭にナナシも笑顔でげんこつをかますのだった。
「ナナシはおれ達に厳しい!」
「おれ達だけ殴るよな!」
「差別だよな!」
殴られた頭を擦りながら三人はナナシの後ろでぶつぶつ言っている。どうしようもない理由で手伝いを断ろうとしたので三人とも荷物持ちさせられる事になったのだ。
「はいはい、ごめんなさいねー」
後ろでブーブーと言っている三つ子を適当にあしらいながらナナシは頼まれたおつかいのメモとお金を鞄に詰めた。
準備が出来たナナシが立ち上がろうとした時、どんっと何かが腰に抱きついてきた。
「ナナシ!」
「あ、クラッカー」
「遊ぼ!」
「ごめんね、クラッカー。私これからおつかいに行くの」
「え……じ、じゃあ、おれもおつかい行く!」
「お前は駄目だ!」
二人の会話を聞いていたダイフクが叫んだ。ビクッとクラッカーが飛び跳ねる。目には涙が溜まっていく。
「な、なんで?」
「お前が荷物になるからだ」
「ちょっと………!」
「お、おれ、荷物じゃない……」
そう言いながら泣き出すクラッカー。
実はクラッカーよくナナシのおつかいに付いて行く。そしてナナシの荷物を持つのだが、いつも途中で力尽きるのだ。最終的に荷物もクラッカーもナナシが抱えて帰ってくるということがよくある。それを三つ子はいつも見ていたのだ。
クラッカーはナナシの服をぎゅっと掴んだ。
「お、おれ、ナナシのお手伝い、出来る」
「………クラッカー」
ナナシはクラッカーの頭を優しく撫でた。
船を降りて、ご機嫌で先頭を歩くクラッカー。
その後ろを歩いている三つ子はじとーっとした目でナナシを見ている。ナナシはちょっと気まずそうに目を逸らす。
ナナシは自分でもあまりクラッカーだけ甘やかすのも良くないとは思っている。でも他の兄弟達がクラッカーに厳しくしている所を見るとやっぱり可哀想になってしまうのだ。それに他の兄弟はここまで泣かないし。
「差別だ」
「差別だよな」
「完全に差別だ」
「………よ、よしっ!早くおつかい済ませて帰ろ!」
ナナシはクラッカーの手を掴み走り出した。三つ子は溜め息をつきながらそれに続いた。
一度島で父の買い物の手伝いをしていたナナシはどこにどんな物が売っているかだいたい覚えていて、メモに書いてある物をどんどん集めていく。
クラッカーはナナシと手を繋いでいるので大人しくしているが、三つ子は好き勝手店の中を歩き回っている。
「ナナシ見ろ!この菓子うまそうだ!」
「買わないよ」
カタクリはしょんぼりしながらお菓子を戻す。
「ナナシ!見ろこれ!カッコいい!」
「買わない!」
ダイフクはしょんぼりしながらオモチャを戻す。
「ナナシー!あっちに………」
「だから買わないってば!」
「お、おれ、卵見つけたから教えに来ただけなのに………」
「お、おぅ……ごめんよ、オーブン」
オーブンがしょんぼりしているのでナナシはマジごめん。と頭を撫でた。
メモに書かれた物を全て買い揃えたナナシは袋に詰めて三つ子に渡していく。クラッカーも手伝う気満々なのでナナシに向かって腕を伸ばす。
ナナシは苦笑いしながらクラッカーに荷物を渡した。渡された袋と三つ子が持っている荷物を見比べるクラッカー。ついでにナナシが持っている荷物も見る。自分の荷物はとても小さい。同じ男の兄達より小さいならまだ我慢できるが、ナナシより小さいのは男として不満だ。
「…………おれナナシの持つ」
「ありがとう。でも大丈夫だよ」
「…………持つ」
「どうせ途中でナナシに抱っこされんだからそれで我慢しとけよな」
「………うぐっ」
「こらっ!」
泣きそうになるクラッカーの前にしゃがみこみナナシは真剣な顔をした。
「クラッカーが持ってる荷物は小さいけどね、一番大切な物なんだよ」
「………大切?」
「そう!今日のおやつに使う卵!お兄ちゃん達はガサツだから持てないの!」
「……おれにしか出来ない?」
「そう!私も割ったら怖いからクラッカーにお願いしたいの。いいかな?」
「……おれ、持てる!」
自分にしか出来ない事だと言われたクラッカーは笑顔で頷いた。
ガサツだと言われちょっと不満そうな顔をする三つ子にナナシはごめん!と口パクで伝えた。
卵は軽かったのでクラッカーは途中で力尽きる事なく船へと帰ることが出来たのでした。
三つ子はそのまま荷物をキッチンに運ぶのを手伝わされていた。
「ガサツなおれ達が卵持っていいのか?」
「だからごめんってば!」
「本当クラッカーに甘過ぎる!」
「だ、だって皆がキツいから……」
「あーあ!おれ達頑張ったのに!」
「はいはい。本当にありがとう!大好き三つ子ちゃん!よーしよしよし!いい子ですねー!」
「………なんか馬鹿にされてる気がする」
ぶつぶつ文句を言いながらも大人しく頭を撫でられている三つ子だった。
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三つ子の扱いはわりと雑なヒロイン。