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 18:この気持ちは?(後編)

ナナシは屋敷から出て港まで来ていた。真夜中なので見回りに少しチェス戎兵が歩いているだけだ。
本当は確かめたい事があったから今すぐにでもどこかの島に行きたかったが、自分のためだけに船を出してもらうのは申し訳ないので朝になるまで待つことにした。

「兄弟じゃない、ね」

ナナシの呟きは波の音にかき消された。





ナナシはそのままずっと港にいた。
日が昇り始めると人が集まってきて、他の島に運ぶための荷物などを船に積み出している。
そろそろ出発するぞーと言っている船へとナナシは近付く。

「おはよーポーン兵さん」
「これはこれはナナシ様!おはようございます!」

いい朝ですねー!とポーン兵がご機嫌で話し掛けてくる。

「この船はどこに?」
「はい!ヤキガシ島でございますー!」
「オーブンのとこか。少し遠いな……他の船はどうかな?」
「えーと………」

ポーン兵は他の船の行き先をチェックしてくれた。他の船は遠くに材料を買いに行く船しかなかった。ナナシは仕方ないと溜め息をついた。

「じゃあ、ヤキガシ島に行く船に乗せてもらってもいい?」
「もちろんです!私も今日はこの船に乗りますのでご一緒に!」
「ありがとう。邪魔にならないようにするね」
「クラッカー様の奥様がお邪魔なわけ……あ、すみません!」

ナナシの言葉を思い出しポーン兵は口を押さえた。皆ナナシの兄弟みたいなものという言葉を聞いてから、気を使って奥様という言葉は使わないようにしていたから。
そんなポーン兵にナナシは苦笑いを浮かべた。





船は昼頃にヤキガシ島に到着し、ナナシはオーブンの屋敷へと急いだ。

屋敷に着くとナナシはノックもなしにオーブンの部屋のドアを勢いよく開けた。
中にはオーブン、そしてダイフクとカタクリが遊びに来ていたようで、三人でお茶をしている所だった。突然のナナシの登場に三人は驚いて固まっている。
ナナシはずかずかと部屋に入り、一番近くに座っていたカタクリのストールを掴んで引っ張りカタクリの口を晒した。

「ちょっと失礼」
「なっ、ななな、なんだ!?」

突然ストールを引っ張られてカタクリは意味がわからず慌てる。
そんなカタクリなどお構いなしにナナシはそのまま顔を寄せて、あと数センチで口と口が触れるという所で、バッシーンとカタクリの頬を叩いた。

「……………び、びっくりしたー」
「こ、こっちの台詞なんだが!?」

突然顔を寄せてきたと思ったらその次はビンタだ。カタクリは混乱している。もちろんそれを見ていたオーブンとダイフクもだ。

「こ、怖い!」
「と、突然入ってきてなんなんだ!?」
「うん、ごめんね…………帰る!今度お詫びに美味しいお菓子持ってくるから!」

じゃあ!とナナシはそのまま部屋から出ていった。残された三人は颯爽と去っていくナナシの後ろ姿を呆然と見詰めていた。

「カ、カタクリなんかしたのか?」
「い、いや、覚えがない」
「………お、おれじゃなくてよかった」
「この野郎………!」







ナナシはあの後すぐビスケット島に向かう船に乗ったが、戻った時にはもう辺りは暗くなっていた。
遅くなってしまったとナナシは急いで屋敷への道を走り出した。


ナナシがソッと部屋のドアを開ければ、部屋をそわそわと歩き回っているクラッカーが目に入る。
ただいまーとナナシがちょっと遠慮がちに声を掛ければ、クラッカーはしばらく固まったまま動かなくなったと思ったら、ボロボロと泣き出してしまった。
ナナシ慌ててクラッカーに駆け寄った。

「ク、クラッカー?」
「ナナシっ」
「た、ただいま。遅くなってごめんね?」
「うっうぅ、お、おれ、ごめん、ごめんなさい」
「い、いいよ、クラッカー」
「お、おれ、弟で、いいから……だから、どこにも、いかないでくれ」
「そんな………」
「本当にもういいから、おれ、大丈夫だから」

クラッカーはナナシがこのまま帰ってこなかったらと一日考えていた。
ナナシとの今の関係がクラッカーは嫌だったが、でもそれ以上にナナシが自分の側からいなくなる事の方が怖いと思ったのだ。
ナナシはそんなクラッカーの事を優しく抱き締めた。クラッカーの体がびくりと跳ねる。

「や、やめてくれ」
「私さ、実はクラッカーの事を弟というか、その、息子だと思ってた」
「………………マジか」

クラッカーの反応にナナシは少し笑ってしまう。

「泣き虫なクラッカーくんに母性がね?」
「ぐっ」
「でもね………」

そう言いながらナナシはクラッカーの顔の傷にそっと触れた。

「私が守らないとって思っていたのに、いつの間にか強くなってて」
「……強くなかった」
「強かったよ。お茶会の時もさー」
「おれが嫌だっただけだ」
「フフ、私はかっこいいって思った」

ナナシは背伸びをしてそのままクラッカーにキスをした。
突然のその行動にクラッカーの涙は止まる。

「クラッカーとのキスは嫌じゃないんだよね」
「え?は?」
「実は今日ためしにカタクリにキスしてみようと思ったんだけど、無理でねービンタかましてきた」
「そ、それは流石に兄貴が可哀想だ」
「あは、だよねー本当悪いことしちゃった!今度ちゃんと謝りに行く」
「う、うん。あの、おれ、よくわからないんだが……」
「うーん、つまりさ」
「う、うん」
「私はクラッカーを息子だと思ってたけど、たぶんどこかからか男の子に変わって、それで、ゆっくりと愛に変わってた感じ?」
「そ、それって……」
「あー私もよくわかんない!でも、私クラッカーとなら本当の夫婦になれそう」
「え!?」
「あ、この言い方はズルいかな?私クラッカーと夫婦になりたい」

少し顔を赤くして笑うナナシをクラッカーは強く抱き締めた。

「好きだよナナシ好きだ!一生守る!幸せにするよ!」
「ありがとう、私もーあー好き、です」

その好きは今まで言われてきた好きとは違って、ナナシが照れ臭そうに顔を赤くして言うからクラッカーは理性を失う。
ナナシを抱き上げてベッドに運ぶと上から覆い被さり深く口付ける。

「ク、クラッちょっんっ」
「はぁ、好きだっナナシっ」
「お、おち、んんっふっ」

そのままクラッカーの手が服の中に入ってきて、これはまずいとナナシは昨日と同じように両足でクラッカーの腹を全力で蹴りあげた。
ナナシは慌てて起き上がり少し距離を取り息を整える。

「ま、まだ心の準備、はぁ、出来てないから、ごめんね!」
「いっ………お、おれも、あの、ご、ごめん、なさい」
「あ、また強く蹴りすぎちゃったね」
「うん、でも…………フフフ」
「え?だ、大丈夫クラッカー?」

クラッカーは蹴られた腹がとんでもなく痛かったが、ナナシとこれから本当の夫婦になれる嬉しさで笑いが止まらなくなった。















「なァ!ナナシ!」
「何?」
「明日ふっかふかでデカいベッドを買いに行こう!」
「えーいやーちょっと……」
「な、何もしねェから!」
「いや、どの口が言ってんの?」
ナナシはクラッカーの頬を強くつねった。
「いてて!で、でも、ふ、夫婦だし!」
「…………本当に何もしない?」
「し、しない!………………たぶん」
「たぶんじゃダメでーす」
「う、うぅ、しない!!」










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島と島の距離とかわからないのにまたこんな事書いてしまった。

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