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 17:この気持ちは?(前編)

ナナシとクラッカーの結婚式は兄弟達にとても祝福され、そして盛大に行われた。
クラッカーは結婚式が終わるとママに呼び出され、ビスケット島でビスケット大臣を務めるようにと命令された。

二人はそのままビスケット島に移動し、屋敷で荷物を整理している時にクラッカーが寝室は一緒に使おうと言った事でナナシと少し揉めた。

「え?いやーちょっと……」
「な、なんでだよ。べ、別に何もしない、し」
「うん、それはわかってる」

こうもすぐに返されるとクラッカーはなんだか複雑だ。

「私の記憶が正しければクラッカーはもう18歳のはず」
「………うん」
「だよね。流石にどうなの?」
「うぐぐ………さ、寂しいだろ!」
「えー嘘じゃん……てか、ホールケーキアイランドでは一人部屋だったよね?」
「こ、こんなに広くなかった!」
「じゃあ、狭い部屋使いなよ」
「…………嫌だーーー!!!」

クラッカーは絶対に引かなかった。こんなにも駄々をこねるクラッカーを見るのは久しぶりだったナナシは仕方ないと溜め息をつきながら承諾した。

「よ、よし!じゃあ、ベッドは特大でふかふかのにしよう」
「え?一緒のベッドなら私は出ていくよ?」
「……………………どうしてもダメか?」
「ダメ」

というわけで、二人はベッドは別々だが寝室は一緒になった。
少しは夫婦っぽい!とクラッカーは浮かれていたが、ナナシは浮かない顔をしていた。





クラッカーはナナシにかっこいいところを見せるんだと張り切って仕事をこなしていた。
ナナシのサポートも素晴らしいもので、部下や島の人達にもとてもお似合いで素敵なご夫婦ですねと言われたりするほどだ。でもそのたびにナナシは否定していた。

「ママの勝手で結婚しただけなんですよ。私達兄弟みたいなものなので」

この言葉を聞くたびクラッカーはとても傷付いた。でも自分が男としての魅力がまだ足りないからいけないのだと更に頑張った。

でもクラッカーが頑張っても頑張っても、ナナシとの関係は変わらなかった。





そしてそのまま一年ほどたった頃クラッカーに限界がきた。

いつものように寝ようとナナシがベッドに腰掛けた時クラッカーに押し倒されたのだ。突然の事にナナシの思考は停止する。

「ど、うしたの?」
「おれとナナシは血が繋がってない」
「え?知ってる、けど」
「兄弟じゃない」
「ク、クラッカー?」
「兄弟じゃないんだよ」

ナナシとのいつまでも変わらない関係にクラッカーは自棄をおこしてしまった。

「ナナシに兄弟兄弟言われるたびにおれは傷付いていた」
「え?わ、私と兄弟って嫌だった?」
「当たり前だ」
「う、そ………」
「好きな女にそんな事言われたら嫌に決まってる」
「え?」
「好きだよナナシ」
「クラッカーちょっ、むっ!?」

クラッカーは無理矢理ナナシにキスをした。
まさかクラッカーにこんな事されるとは思っていなかったナナシは、腕を掴まれているのもあり避けることは出来なかった。でも自分の口の中にクラッカーの舌が入ってきた瞬間、びっくりして両足でクラッカーの腹を全力で蹴りあげてしまった。
構えていなかったクラッカーはうっと声をあげてそのまま後ろに倒れる。ナナシは慌てて起き上がり少し距離を取った。

クラッカーは抵抗されるのはわかっていたが、まさか腹をこんなに全力で蹴られるとは思っていなかったので痛みで動けない。
腹を押さえてうずくまるクラッカーにナナシはやり過ぎたと思い慌てるが、でもなんて声を掛けたらいいのかわからなかった。

しばらくして痛みが少し和らいでくるとクラッカーは冷静になってきてナナシの気持ちも考えずにとんでもない事をしてしまったと後悔した。

「ご、ごめんナナシ。おれ…………」
「あ、や、いいよ!か、勘違いは誰にでもあるし!わ、私の事好きなんて……あ、ありえないよ!」
「…………勘違いってなんだよ」

クラッカーの目から涙が溢れた。自分のこの気持ちを勘違いだとナナシに否定されたのが辛いのだ。
あの日泣かないと決めたのに、涙は勝手に溢れてきて、止まらなくて、クラッカーは焦る。それはナナシも一緒でさっき以上に慌てた。

「……うっくそぅ」
「あ、ご、ごめんね、クラッカー。本当にごめんね。痛かったよね!」

そう言いながらナナシはクラッカーの頭に手を伸ばそうとしたが勢いよく振り払われた。

「勘違い、なんかじゃない」
「え?」
「なんで、お前がおれの気持ちを勝手に決める?」
「あ、ごめ……」
「もう、優しくしないでくれ」

涙は相変わらず止まらなくて、せめてナナシに顔を見られないようにと下を向く。

「もういいよ」
「よ、よくない。よくないよ」
「………いい」
「な、泣かないで?」
「………泣いてない」

そう言って涙を無理矢理止めようとごしごしと腕で顔を擦るクラッカーを見てナナシは胸が苦しくなり強く抱き締めた。

「だから、優しくするなよ……虚しいだけだ」
「うん、ごめん。でも、なんか……」

ナナシはクラッカーの事を更に強く抱き締めるが、クラッカーはナナシを抱き締める事はしなかった。





どれくらいクラッカーを抱き締めていただろうか。泣き疲れたのかクラッカーはいつの間にかナナシの腕の中で眠っていた。
それに気付いたナナシは起こさないようにゆっくりとクラッカーをベッドに寝かせ、涙で濡れた顔をそっと拭いてやる。そしてそのままクラッカーの顔の傷を撫でた。

「あれから随分たったなー」

ナナシはクラッカーの顔をしばらく眺めてから、先にしてきたのはそっちだしいいだろうと一度キスをしてみた。少し触れるだけのキスだ。

「…………」

ナナシは少し考えてから立ち上がり、そしてテーブルの上にメモを一枚残して屋敷を出ていった。















朝目を覚ましてクラッカーはナナシがいない事に気付いて慌てた。そしてテーブルの上のメモを発見する。

『ちょっと出掛けます』

メモにはその一言だけ。クラッカーはもしこのままナナシが帰ってこなかったらと不安な気持ちになった。










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ちょっと分けます。

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