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 11:おれが頑張る

あれから一年。ナナシもクラッカーもすっかり傷は癒えていた。運良くナナシの体にはほとんど傷は残らなかったが、クラッカーの顔には大きな傷が残った。

クラッカーは鏡に写る傷の残った自分の姿を見て顔を歪める。別に傷を気にしてじゃない。あの日のナナシの姿を思い出すからだ。
クラッカーは自分の顔をばんっと叩いて今日も剣を握った。





「踏み込みが甘い」
「いっでェ」
「無駄な動きが多い」
「いっでェ!」
「全然駄目だな」
「いっでェー!」

クラッカーはカタクリ、ダイフク、オーブンに鍛えられている。でも全然敵わなくて今日もボコボコにされていた。ちょっと目に涙を溜める時はあるが決して流すことはない。
クラッカーはあー!と地面に倒れながらもがく。

「なんでだー!毎日こんなに頑張ってんのにー!」
「まぁ、おれ達も毎日頑張ってるからな」
「そう簡単に追い付かれてたまるか!」

うぐぐぐーっと悔しそうにダイフクとオーブンを睨み付けると再び剣を強く握り直してクラッカーは立ち上がった。

「でも前より随分と強くなった」

カタクリのその言葉にクラッカーの顔が輝く。
でも直ぐにカタクリの腕が伸びてきてクラッカーの頭は掴まれ地面に押し付けられた。

「まだ全然駄目だが」
「ぐっぞーー!!!」

クラッカーは地面を殴った。





18歳になったナナシは相変わらず子守りもしているが、キッチンでの仕事も増えた。
今も皆のおやつのためにシャカシャカと生クリームを泡立てている。
クラッカーも鍛練の時間が増えたので二人の時間は前よりもだいぶ少なくなってしまった。
だからクラッカーは自分が鍛練している時以外はナナシがキッチンで作業をしていれば必ず顔を出すようになった。

今日も傷の手当てを済ませてからキッチンに用意されている椅子に座る。

「な?酷いと思わないか?」
「ははは、まークラッカーを想ってでしょ?」
「うっそうだけどー!」
「でも皆褒めてたけどねー」
「え?な、なんて!?」
「泣かなくなったって!」
「ぐぅっ!おれが褒められたいのはそこじゃない!!」

ぶーぶー言っているクラッカーを見てナナシは笑う。そして泡立った生クリームをちょっとスプーンにすくってクラッカーの口に入れた。

「お味は?」
「んまい!けど今日はもう少し甘いのがいい」
「かしこまりましたクラッカー様」
「…………様はやめろよ」

そう言いながらクラッカーはうえーと舌を出す。
ナナシは一度父親に幼馴染みだからといつまでも呼び捨てでは駄目なのではないかと注意を受けた事があった。たしかにただのコックの娘だしなーとナナシは思い皆を様付けで呼んでみた。
そしたらとんでもないブーイングの嵐。とにかく気持ちが悪いと言われて様付けはなしになった。でも皆の反応が面白いからこうやってたまに呼んでみたりする。
やっぱり面白いと思いながらナナシはクラッカーの頭を撫でた。

「私も昨日しごかれたんだー」
「…………は?」
「まぁ、ペロスペローだから優しかったけどさ」

それを聞いてクラッカーは頬を膨らめそっぽを向いてしまった。

「ちょっとー?何で怒るのー?」
「…………」
「クラッカー?」
「…………」
「…………クラッカー様?」
「だから様はやめろって!」

ぎゃーぎゃーと怒るクラッカーの頭を撫でながらナナシは笑った。

「あ、私は優しくされてるから怒っちゃった?」
「………違う」
「えー?じゃあ、なんで?」
「…………ナナシは!おれが守るから強くならなくていいんだ!」

そう言って立ち上がり叫ぶクラッカー。
ナナシは苦笑いしながらクラッカーの顔の傷にそっと触れた。

「でもね?クラッカーと一緒で私だってあんな思いもうしたくないんだよ?」

悲しそうな顔で笑うナナシにクラッカーは胸が痛くなる。自分の顔の傷を優しく撫でるナナシの手をクラッカーは強く掴んだ。

「おれが頑張るから!全部守るからいいんだ!」

目の前で大声を出されてナナシは少し驚き固まっていたが、すぐにいつもの笑顔に戻る。

「本当に頼もしくなっちゃって」
「あの日決めたからな!」
「でもたまに泣きそうになるよねー?」
「ぐっ!で、でも、泣いてない!」
「はは、いやーすごいぞクラッカー!さて!そろそろおやつの準備出来るから、皆に知らせてきてくれる?」
「まかせろ!」

そう言ってキッチンを元気良く出ていくクラッカーの背中を見ながらナナシは嬉しくもあったが少し寂しいとも思っていた。















「はーい、皆も座ってー」
「私ナナシの隣!」
「私も!」
モーツアルトとマルニエがナナシの隣に座る。クラッカーは舌打ちして仕方なくナナシの前に座ろうとしたら誰かが目の前を素早く横切る。
「じゃあ、おれナナシの前!」
「あ、くそ!モンドール!おれが座ろうと……」
「他の空いてるとこで我慢しなクラッカー?」
「ぐっ!くっそ!!」
クラッカーはモンドールの隣に座りナナシに見えないようにちょっとつねった。
「いてっ!今クラッカー兄ちゃんがつねった!」
「あ、言うなよ馬鹿!」
「こらクラッカー!!」










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クラッカー頑張ってます。

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