五條先生が手を差し出している。
大きな手だ。白くて細くて骨ばった、触ったらちょっとひんやりしそうな手。手首のすぐ近くまで伸びた皺に「さすが呪術師最強は生命線も長いな」と感心していると、差し出された手がグーパーと、まるで何かを催促するように動く。

「? 何ですか?」
「え?なまえちゃん、もしかして無いの?」
「えっ?無いって何が?」
「えっ、マジ?」
「えっ?だから何、」
「えっ、......えぇぇぇええぇぇ」

大声で叫んだかと思うと、五条先生は頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。何がそんなにショックだったのだろう。よく分からないが、ぐすぐすと泣き真似までし始める。

「えーん、酷い。なまえちゃんが酷いよぅ...」
「あ、あの、何がどうしたんですか」

放っておく訳にも行くまいと自分もしゃがみ込んでみれば、五条先生は幼稚園生みたいにひっくひっくと肩を揺らす。もうそういうのいいから。お願いだからさっさと説明して欲しい。

「あのねぇ、ぐすっ、僕ねぇ、うっ」
「はいはい、何ですか」
「今日お誕生日なのぉ」
「そうですか。それはおめでとうございます」
「冷たい!なまえちゃん時々そういう所あるよね!それって良くないと思う!」

反対反対!と駄々を捏ねる五条先生を、私は冷ややかな目で見つめる。先程の手の動きといい、ようはプレゼントを寄越せということか。本当に大人気ない大人である。

「仕方ないじゃないですか。同僚の誕生日なんてわざわざ聞かない限り普通知りませんよ」
「ただの同僚じゃないじゃん。もうチューまでした仲じゃん」
「100パーセントただの同僚です!」

食い気味に否定して思わず目を逸らす。先日のキスはただの悪ふざけ。もう何度も自分に言い聞かせていた事だった。

そもそも、五条先生は25万のシャツを普段着にするような人だ。そんな人に何をプレゼントしろというのだろう。変な物を送って場が白けるくらいなら、最初から誕生日なんて知らないふりをするほうがずっといい。
頑なな私に諦めがついたのだろう。はーぁ、と五条先生が重い溜息をつく。

「しょうがない...。じゃあプレゼントはいいから、僕のことなでなでしてよ」
「なでなで...?」
「うん。なでなで」

それくらいいいでしょー?と五条先生が頭を差し出すものだから、私は仕方なく右手を持ち上げる。物を強請られるよりはマシかと軽く考えてしまった。
真っ白な髪に手を置くと、思っていたより数倍柔らかな感触に驚く。おぉ、これはちょっと気持ちいいかもしれない。わしわしと三往復ほど撫でた所で、五条先生は満足気に顔を上げた。

なんだもういいのか。手を離そうとすれば、大きな手に手首を掴まれる。冷たいと思っていた手が思いのほか温かくて、なんだか胸がドキドキした。
「? まだ何か...」言いかけた私に、五条先生はゆっくりと目隠しを下げる。硝子玉のような瞳をとろんとさせ、形の良い唇を開いた。

「...今度はここもなでなでして?」

そう言うなり、私の手を自身の下半身へと導いていく。
ここ?ここって、どこ?分かった瞬間、私は正気に戻った。

バチン!空いていた左手がしっかりと五条先生の頬を張る。「最っっっ低!」大声で叫んだ私に、五条先生は赤い頬を押さえながら「誕生日なんだからいいじゃーん」とヘラヘラと笑った。

「もう二度と五条先生とは口ききません!」
「そんな事言ってぇ、本当は誕生日だって覚えてたくせに」
「知りませんてば!」
「ほーんと素直じゃなくて可愛いんだから〜」

それ以上聞いていられず、私はわぁわぁと叫びながら部屋を出る。一刻も早くこの意地悪な男から離れたかった。

もう両面宿儺でもなんでもいいから、誰かあの人を止めてください。そう思わずにはいられなかった。

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