まもる

「約束ね」

決まり事のように差し出された小指をぽかんと見ていると、指の向こうにある顔が歪んだ。

「なにぼうっとしてんの?小指、早く結びなさいよ」
「あ。ご、ごめん」
「じゃあ、指切りね」

ゆーびきーりげんまん、と歌う彼女の口元に、さっきまで頬張っていたみたらし団子のたれがついている。あれ、俺は一体彼女となんの約束をしていたのだったのだろう。小指をぎゅっと握られながら、思い返してみるが話半分で聞いていたせいかまったく覚えていない。

「指切った!」

満足げに小指を解いて笑う彼女は、一体なにがどうしてこんなに嬉しそうなのだろうか。今ここで「なんの約束だっけ」と聞けばよかったのに、どうにも言い出せず結果そのまま彼女は別の任務へと旅立って行ってしまった。俺の約束は、小指だけが知っている事となった。


炭治郎との合同任務は鬼殺隊の任務の大半を占めていた。それは時に上弦が出てくるような辛くて難しい任務もあったけど、今日のような二人ならばすぐに終わる様な簡単な任務もあった。

「禰豆子大丈夫か?」

とはいえ、無傷という訳にもいかず。俺も炭治郎も体のどこかに小さな傷を作っていたし、禰豆子ちゃんも腕に軽い切り傷を作っていた。炭治郎は今にも眠りこけそうな禰豆子ちゃん心配そうに見ていた。

「炭治郎と禰豆子ちゃんって、本当仲いいよなあ」
「禰豆子は大切な家族だからな!」
「……家族かあ」
「家族じゃなくたって、居るだろう?善逸にだって大切な人」

炭治郎の言葉に、俺は彼女、なまえの姿を思い出していたし、彼女した団子屋での指切りの内容が急に蘇ってきた。

「炭治郎も禰豆子ちゃんも、お互い助け合ってるって感じでいいよね」
「兄妹二人だしな」
「善逸は、私が困ったら助けにくる?」
「そりゃあ困ってたら、行くでしょ」
「本当?」
「ああうん、本当」
「じゃあ」

そこであの「約束ね」になる訳で。俺は団子屋に居た可愛い女の子が気になって、気もそぞろだったから適当な相槌を打ったのだった。

「善逸?」
「ごめん。ちょっとぼーっとしてた」

禰豆子ちゃんはいつの間にか箱の中に戻って、そこには炭治郎だけが残されていた。

「大丈夫か?俺たちは蝶屋敷に寄るけど、善逸はどうする?」
「俺は帰るよ。また明日なー!」

見えなくなるまで手を振る炭治郎に二度ほど振り返り、手を振り返し。俺は彼女の家へと向かっている。任務が終わったころに来た手紙にはもう家についていると書いてあった。

「ただいまー」

灯りがついているのに、しんとする部屋。確実に彼女がいる音がするのに、姿を見せない事に俺は少し焦っていた。している音がいつもと違ったからだ。草履を脱ぎ捨て、慣れた廊下を進んで彼女の音を辿れば、そこは寝室として使っている6畳半の部屋だった。

「入るからな」

返事を待たずに戸を引くと、そこにはやはり彼女が居た。

「寝てるの?」

おでこに乗せられた真っ白い手拭いが、彼女の紅潮する頬をより一層赤く見せているようだった。苦しそうな呼吸の音に自分まで苦しくなった。頬にぺたりと張り付いた髪の束をはがしてやる。鼻も詰まっているのだろうか、息苦しそうな声を時々漏らしている。頬に手をあてると、そこはかっかと熱を走らせていた。

「熱、あるなら手紙に書けばいいのに」
「……ぜんいつ」
「起こしちゃった?ごめん」

睫毛が揺れて、瞼が持ち上がった。熱で蕩けた顔をした彼女がおぼろげな視線で俺を捕らえている。ふにゃりと笑った顔は、いつもよりも緩く、熱が彼女自身をとても柔らかくしているようだった。

「約束、まもりにきてくれたの?」
「そんなんじゃないけど」
「やっぱり、困ってたら、来てくれるんだね」

熱に浮かされているせいか、やけに言葉を区切って話した。俺がきた事に安心したのか、彼女はもう一度目を閉じて、ぐぐぐと鼻をくぐもらせた寝息をたてて眠り始めた。

「約束、ねえ」

約束なんてしなくても、彼女の事を助けてやりたいと思うし、守ってやりたいと思うのは、きっと絶対に、愛以外のなにものでもないのだと思う。




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