一二三さん

部活が遅くなって、すっかり日が沈んでしまった。風も冷たくなって、マフラーに顔をうずめるように歩いていると、一際大きなカバンを乗せてのろのろと走ってる自転車を見つけた。今にも転びそうで危ないな、そんな風に思いながらよくよく見ると、運転手の顔に見覚えがある事に気が付いた。

「あれ?みょうじ?」
「竈門くん」

ブレーキがキーっと音を立て、自転車が止まった。それから、少し間を開けて俺の名前が呼ばれた。やっぱり、自転車にまたがるのは同じクラスのみょうじだった。
その姿は制服ではなく私服で、少し大きいエプロンをしている。学校では下ろしていた長い髪は、しっかりとひとつにまとめられていた。学校では目立つ彼女の姿とは少しだけイメージが違った。確か彼女の家は、レストランをしていると聞いた気がする。きっと家の手伝い途中なのだろう。

「家の手伝い?」
「うん、出前」
「へえ、凄いなあ!みょうじがいつも運んでるのか?」
「いや、今日はたまたま。いつもはもっと、あのー、ちゃんとしててこんな」

ダサい恰好、彼女はそう言いかけてやめた。恥ずかしいのか視線を落とし、エプロンの裾をしわくちゃに掴んでいるのが目に入った。確かに学校に居るときより地味な恰好ではあるかもしれないが、俺は逆に家の手伝いを一生懸命にしている彼女の恰好がいつものクラスで見る姿よりも格好よく見えた。

「ダサくなんてないよ!家の手伝いをしてるんだから、凄く偉いと思う!」
「でも、エプロンすっごい汚れてるし」
「うちだって、パン作ってる間に小麦粉で汚れるから分かるよ」

そう伝えると、彼女はどうしてか眉を下げた。何か変な事を言っただろうか。そう思って彼女を見ると、違うと言いたいのか首を横に振った。

「竈門くんって優しいんだね」
「どうしてだ?俺は別に当たり前の事を言っただけで……」
「ううん。結構からかわれたりしてたから、そんな風に言ってくれて嬉しかった」

みょうじは照れくさそうに笑った。いつもクラスで見る姿と違う顔に、少しだけドキッとした。それは冷たい風が彼女の鼻の頭を赤くして、愛らしさが増していたせいかもしれない。

「あ!そろそろ行かなきゃ」
「ごめん!引き留めちゃって」
「こちらこそ部活帰りなのにごめん。ありがと竈門くん。また明日、学校でね」

そういって、またよろよろと自転車を走らせていく。やっぱり手伝った方がいいかな、でも迷惑かもしれない。一瞬悩んだけれど、それでもやっぱり危なっかしいのと、もう少しだけみょうじの話が聞きたいと思って、自転車を追いかけた。



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