一二三さん

「まだ決まらないの?」

店に入るなりメニューを決めた彼女は俺を見てそう言った。苛立っている訳でもなく、ただ単純にここまでメニューが決まらない自分を不思議だという目で見ていた。

「義勇が食べたい!って思うものにすればいいよ」
「そう思ってもなかなか決まらない」
「これは?ハンバーグ」
「……」
「駄目かあ。じゃあこっちのピザは?」

色とりどりのメニューを一つずつ指さし、彼女は丁寧に打診する。どれも駄目ではない。駄目ではないが、これじゃない。今一つ決め手が足りないでいた。
たかがファミレスのメニュー、されどメニュー。適当に決めて今日の昼食を無駄にはしたくないのだ。

「じゃあ食べたくないものは?」
「……特にはない」
「うーん。困ったなあ」

彼女はわざとらしく腕組をし、悩んだようなポーズをとる。それからぶつぶつと「私はパスタだから、それ以外のがいいよね」だとか「いっそ先にデザート行っちゃう?」などと呟いた。それを聞きながらもう一度メニューを開く。昨晩食べたカレーは除外。夜は焼き魚と言っていたから、それもやめておこう。と、すると彼女が言ったハンバーグか。生姜焼きも良いか。いや待て、たまには趣向を変えて……などと思考を巡らせていると店員がやってきた。

「ご注文はお伺いします」
「明太子と大葉のパスタをBセットで。あとドリンクバー二つ。義勇は?」
「お、俺は……」

どうやら悩んでいる俺を見かねて彼女が店員を呼んだようだ。基本彼女は優しいが、時々このように強引な時がある。そういえばあれは半年前の事だった。あの時も――

「義勇!考え事する前に決めちゃって」
「?!あ、ああ。じゃあこのBLTサンドで」
「はい、ご注文繰り返します。明太子と〜」

店員が丁寧に注文を繰り返すが、俺の耳には届かない。BLTサンド。よりにもよって全く検討の範囲にも入っていなかったものを頼んでしまった!後悔の嵐が襲う。しかし後悔したところで、店員は注文をしっかりと繰り返し、あっという間に去ってしまったのだ。

「大丈夫!BLTサンドも美味しいって」
「……」

そう言うと彼女はさっさとドリンクバーを取りに行ってしまった。分かっている、分かっているんだ。BLTサンドが不味いわけないという事が。だけどそれが食べたかったのかと聞かれれば、決してそうではない。こんなに後悔するならば、いっそ最初に言われたハンバーグにするべきだった。ああ、後悔先に立たずとはまさしくこういう時の事を言うのだろう。BLTサンドを頼んだ今、何が良かったかと言われれば、これと言ってないのだけれども。こういう時、彼女の決断力の早さが羨ましく思える。

「まだ悩んでるの?」
「そうじゃないが……」
「義勇ってご飯の時だけ優柔不断だよね」

優柔不断。一番言われて嬉しくない言葉。しかし、否定もできない自分が少し情けない。

「次は早く決める、絶対に」
「うん、頑張ってね」

にっこりと笑う彼女。きっとできっこない。そう思っているのが透けて見えた気がしたが知らないふりをしておこう。


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