赤い糸で唇でも縫った?


「見合いをすることになった」

唐突に発せられた冨岡の言葉に、なまえは木刀を構えたままぴたりと硬直した。はぁ、はぁ、と弾む息は、今の今まで二人が稽古に励んでいた事を示している。

荒い呼吸を一人繰り返しながら、なまえは汗一つかいていない目の前の男を見つめる。既に構えを解いた冨岡はいつも通り無表情で、そこからはなんの感情も読み取れなかった。

...なんで今言った?
というかこの人、今なんて言った...?

疑問は尽きないが、とりあえずなまえも構えを解き、先程の発言について考える事にした。冨岡の言葉足らずは、なにも今に始まった事ではない。一々反応していると、いつしかこちらまでドツボに嵌ってしまう。

「それは、あの、...随分と急なお話ですね?」

「あぁ」

「お...、お相手の方はもう決まってるんですか?こう、額に入った写真とかありますよね」

両の人差し指で四角形を描きながら、なまえは首を傾げる。何かの間違いではなかろうか、という気持ちと、この男と見合いをするなんてどんな変わり者だろう、という気持ちが半分半分だった。
しかし、当の冨岡の返答は至極簡素なものだった。

「無い」

「へっ?」

「写真は無い。お館様から直々に頂いた話だ。『きっと良い夫婦になれるから』と言われた」

「へ、へぇ。お館様から...」

そう繰り返して、なまえは目の前の男からゆるゆると視線を落とす。先程まで燃えるように熱かった身体が、今は急速に熱を失っていく。汗が冷え、背筋にぶるりと悪寒が走った。落ち着け、と自身に言い聞かせるようにぎゅっと拳を握る。

「...ご結婚、するんですか?」

絞り出すように言ったなまえの言葉に、冨岡はなおも淡々と答えた。

「相手から断られなければ、する」

その言葉に、なまえは質問したことを心の底から後悔した。お館様から直々に頂いた話だと、今聞いたばかりではないか。鬼殺隊の長である産屋敷耀哉が持ってきた縁談を無下に出来る者など、鬼殺隊にいるはずがない。

冨岡でさえ顔も知らないその女性に、なまえは暗い気持ちで思いを馳せる。
耀哉が紹介するような人なら、きっと相手は非の打ち所の無い美人なのだろう。優しく、教養があり、由緒正しい家柄のお嬢さんに違いない。
その人の手にはきっと、潰れた豆なんてないのだろう。髪のほつれも、睡眠不足のクマも、どれほど薬を塗っても消えない傷痕も。
きっと自分なんかとは正反対の人なのだろうと思う。

「...お見合い、上手くいくといいですね!お相手に変なこと言っちゃ駄目ですよ!」

口に出した途端、鼻の奥がつんと痛む。笑顔を作ったつもりだが、上手く笑えている自身は無かった。





なまえが冨岡に出会ったのは、鬼殺隊に入隊してまだ間もない頃。冷たい雨の降りしきる肌寒い夜だった。

岩のように固い拳を刃で受ける度に、衝撃でずるずると身体が下がる。自分の倍以上ある大きな鬼に、新人であるなまえは防戦一方だった。
あまりの衝撃に耐えきれなかったのだろう。バキン、という音と共に、刀につけていた鍔が真っ二つに割れた。あっと思った時にはもう手遅れで、尖った爪がぎりりと首にくい込む。
首一つで宙吊りにされ、もがけばもがくほど呼吸が上手くいかない。痺れた腕から日輪刀が抜け落ち、剥き出しの刃がガシャンと泥を跳ねた。

ーあぁ、死ぬ。

めきめきと骨が軋む音を聞きながら、なまえは走馬灯を見ていた。
事切れる直前、母は「お前だけは幸せになってね」と泣きながら笑った。そんな相手もいないのに、いつか見るなまえの花嫁姿を楽しみにしていた。
母の願いを優先するなら、普通の町娘として生きていく方が良かったのかもしれない。しかし、なまえが選んだのは両親を殺した鬼を斬る茨の道だった。

ーお母さん、ごめんね。親不孝で、ごめんね...。

諦めかけた次の瞬間、視界の端に一筋の水が流れた。


「鬼殺隊たるもの、そう簡単に諦めるな」


流水と共に現れた男は独り言のようにそう言うと、目にも止まらぬ早技で鬼の頸をはねた。残された鬼の身体はボロボロと灰になり、支えを失ったなまえはべしゃりと地面に崩れ落ちる。
何が起こったのだろう。状況が飲み込めないままゲホゲホと咳き込むなまえを、男は道端の石ころでも見るように一瞥する。何事も無かったかのように歩き出した男を、なまえは思わず引き止めた。

「ま、っ、待ってくださ...!」

左右で違う柄の羽織を着た背中に、なまえは必死で叫ぶ。潰された喉が痛み、満足に声も出せなかった。

「き、つたいの、ッ、方ですよね...!?ゲホッ、ど、か、お名前を...」

「......」

無言で振り向いた男は一瞬口を開きかけたが、結局自身の名前を明かすことは無かった。深い水底のような切れ長の瞳が、地べたに這いつくばったなまえを見つめる。長いような短いような、不思議な時間が二人の間に流れた。

「...もうすぐ隠が来る。手当てを受けて早く帰れ」

そう言い残して、男は背を向ける。

「ちょっと、待っ...ーッ!!」

喉に走ったあまりの激痛に、なまえは思わず目を瞑る。次に目を開いた時、すでに男の姿は無かった。


救護に現れた隠に男の特徴を伝えると、後藤と名乗った隠は「あー、そりゃ水さんだな」と言った。

「みず、さん...?」

「水柱の冨岡義勇様だよ。知らなかったのか?」

「まだ、入ったばかりなもので...」

「ほーん...。まぁ、なんにせよ運が良かったな。次会ったらちゃんとお礼言っとけよ。あとあんま喋んな、傷に響く」

応急処置を受けながら、兄貴肌の隠の言葉に頷く。
水柱の冨岡義勇。命の恩人の名前を、なまえはしっかりと胸に刻み込んだ。





バタバタと逃げるように自室に戻り、投げ敷いた布団に頭から潜り込む。

「......うっ、うぅぅ...!」

冨岡の前では我慢していた涙が、ボロボロと頬を伝った。絶え間なく落ちる涙は、まるであの日の雨のようだ。誰の目にも止まらない事に安堵し、なまえは子供のように声をあげて泣いた。

世間では、こういう状態のことを失恋と呼ぶのだろう。
あの日、なまえは冨岡に恋をした。一目惚れだったのだ。

再会した冨岡はなまえが思っていたよりずっと口下手で、他の柱からも嫌われているという噂だった。しかし、なまえにとってはそんな事どうだって良かった。たとえ誰が何と言おうと、自分を助けてくれた冨岡だけがなまえにとっての真実だった。

もっと強くなりたい。あの人に認めて貰えるくらいに。傍に置いて貰えるくらいに。冨岡に憧れ、恋い慕う気持ちはなまえの原動力だった。
なのに。

「うっ、ぅあぁ、ぅう...っ」

一度漏れ出てしまうと、涙も鼻水も簡単には止まってくれない。
死にものぐるいで任務をこなしてきたというのに。
「継子は取らない」という冨岡の元に何ヶ月も通い、やっと稽古を付けてもらえるまでなったというのに。

「嫁は簡単に取っちゃって...、冨岡さんの馬鹿ぁああ...!」

布団の中で叫んだ、その時だった。


「みょうじ様」


凛とした声が部屋に響き、廊下へと続く障子に人影が映った。これまでに聞いたことのない女性の声に、なまえはぴたりと動きを止める。まだまだ新人隊員であるなまえにわざわざ様を付けて呼ぶ者はいない。相手が誰だか気になったが、今は到底誰かと話せる状態ではなかった。

「ど、どなたですか?今取り込み中で...、」

布団から顔を出したなまえが制止するよりも早く、すうっと障子が開く。

「突然申し訳ございません。少しだけ宜しいでしょうか」

こちらを覗き込んだ顔に、なまえの喉はひくりと引きつった。





どうしてこんな事になったのだろう。そう思いながら、なまえは板張りの廊下をよたよたと歩いていた。
顔が映るほど隅々まで磨かれた廊下は、春の青空を反射して水の上を歩いているような錯覚を起こす。美しく整えられた内庭には池があり、大きな錦鯉が悠々と泳いでいた。

しかし、当のなまえには美しい庭を眺める余裕など、全くと言っていいほど無かった。着慣れない振袖は重く窮屈で、簪をさした髪も、唇に乗せた紅も、何もかも落ち着かない。普段着ている隊服がどれほど楽で機能的か、こんな所で痛感するとは思わなかった。
からくり人形のようにぎこちない動きのなまえを、先導する人物がゆっくりと振り返る。

「大丈夫ですか、みょうじ様」

「はい!だだだ大丈夫です!」

「そんなに緊張なさらず。どうか楽にしてくださいませ」

大きな瞳をゆったりと細め、その人、産屋敷あまねは微笑む。何を隠そう、此処はあまねが住まう産屋敷邸の離れへと続く廊下だった。
当主の妻の前で楽になど出来るはずもなかったが、なまえは無理矢理笑顔を作る。
なにせ今日は誰でもない、なまえのお見合いの日なのだから。


冨岡の見合いを知ったあの日、泣きじゃくるなまえを訪ねて来たのは、他でもない産屋敷あまねだった。まさか現当主の妻が自分を訪ねてくるなど思ってもみなかったなまえは真っ青になって無礼を詫びたが、あまねは静かに笑顔を浮かべただけだった。

「先に失礼をしたのはこちらの方です。なんのお約束もなく突然押しかけてしまい、申し訳ございません」

そう言って、あまねも深々と頭を下げる。恭しいその態度に、なまえは布団を畳みながら恐縮するばかりだった。

入隊の時に遠目で見ただけだったが、近くで見る産屋敷あまねは神々しいほどに美しい人だった。雪のように白い肌に大きな瞳。ぽってりとした赤く小さな唇。どこか人間離れしたその容姿に畏怖しながら、なまえはおずおずと口を開く。

「それで、本日はどう言ったご要件で...?」

「はい。突然の事で驚かれるかもしれませんが、本日はみょうじ様に縁談をお持ちしたのです」

「え、えんだん...?」

状況が飲み込めないなまえに、あまねは柔らかく微笑む。そして、此処に来た経緯をゆっくりと語り出した。


産屋敷家の当主となる者は、代々その身を病に
冒される。現当主である産屋敷耀哉も、残念ながら例外ではなかった。

「鬼殺隊の皆様が命を賭して任務へ赴かれること、一同心より感謝しております。しかし、皆様を戦地へお送りしなければならないことを、私達は同時に心苦しく思っておりました」

あまねの静かな言葉を、なまえは姿勢を正して拝聴する。喋っているあまね以外の一切が音を無くしたような、神聖な時間だった。

「鬼舞辻無惨率いる鬼は星の数ほど多く、強い。送り出した子供たちが若くしてこの世を去る事に、夫は心を痛めておりました。出来うる限りお墓参りやお見舞いを続けて参りましたが、病の進行から察するに、それもそろそろ限界です」

ハッとして、なまえは手で口を覆う。
お館様の体調が日に日に悪くなっている事は風の噂で聞いていた。しかし、末端の隊士であるなまえがその容態を知る機会は殆ど無かった。そこまで悪化していたとは思いもよらず、ましてや亡くなった隊士の墓参りまでしていたなんて初耳だった。

「“苦労をかけている子供たちに、どうか家族と幸せな時間を過ごして欲しい”。病から来る悪夢にうなされながら、夫はそう考えるようになりました。
互いに想い合う方がいればその方たちが添い遂げられるようお手伝いをし、お相手のいない方にはそれとなく良い方をご紹介する。皆の悲願が実を結ぶその日まで、人と人とのご縁を繋ぐお手伝いをしよう。そう二人で話したのです」

この後に及んでの我儘を、どうかお許しください。そう頭を下げるあまねに、なまえの目には再び涙が浮かぶ。

鬼殺隊の長である産屋敷耀哉は、隊士の事を「私の子供たち」と呼ぶ。長である耀哉が隊士を大切に想うからこそ、隊士達も耀哉をはじめとする産屋敷家の者を大切に扱ってきた。親が子の幸せを願うことの、何が我儘だと言うのか。あまねの言葉に母の面影を重ねたなまえは、二人を責める事など出来なかった。

お見合いは人と人との縁だ。上手く繋がる場合もあれば、どうしたって繋がらない場合もある。しかし、それは会ってみなければ分からない。人と人との縁を繋げたいとお館様が願うなら、なまえに出来ることは一つだけだった。

「...私で宜しければそのお見合い、謹んでお受け致します」

そう言って、なまえはゆっくりと頭を下げた。





「こちらです」

あまねの声に、なまえはハッとして目の前の障子を見つめる。いつの間にか目的の部屋に到着していたようで、今になって足がすくんだ。緊張におののくなまえに、あまねは「大丈夫ですよ」と落ち着かせるように言う。

「お相手の殿方は、夫が心から信頼を寄せている方です。みょうじ様の事を末永く大切にしてくださる方だと、私もそう信じております」

あまねの言葉に、なまえはこくりと頷く。これはお館様の願いであり、母の願いでもあるのだ。たとえ相手がどんな人であっても、まずは愛する努力をしてみよう、と心に決めた。きっと冨岡さんも、そんなふうに思って自身のお見合いに望んでいるはずだ、と。

そして思う。
あぁ、あの人のお見合いは上手くいったのかな、と。

あまねの指がゆっくりと障子を引く。床の間のある立派な部屋の中央に、二人の男が並んで座っているのが見えた。一人は病に臥せっているはずの産屋敷耀哉。そして、

「...ー冨岡、さん...?」

もう一人は相も変わらず無表情な冨岡義勇だった。

「やぁ、なまえ。入隊の時以来だね。さぁ、どうぞ座っておくれ」

棒立ちになったなまえを耀哉は手招きして迎える。病が進んでいると聞いていた割には言動に張りがあり、なまえは喜んでいいのか困惑した。苦笑いするあまねに促されて腰を下ろせば、耀哉は「また会えて嬉しいよ」となまえに笑いかける。

「私の我儘でわざわざ足を運んで貰ってすまなかったね。着物の着付けなど、朝から準備が大変だっただろう?」

「みょうじ様には私が用意した水色の辻が花の振袖を着ていただきました」

「そうか。きっととても似合っているのだろうね。義勇もそう思うだろう?」

「はい」

耀哉に話を振られ、冨岡は無表情のまま頷く。着飾った姿を褒められるのは嬉しいが、到底喜べる状況ではなかった。そんななまえの心の内を見抜いたのだろう。おや?と耀哉が首を傾げる。

「義勇、なまえにきちんと説明したのかい?なんだか困惑しているようだけれど」

「...しました。見合いをする、と」

冨岡の言葉に、耀哉は困ったように「相変わらず言葉が足りないね」とたしなめる。はぁ、と小さく息をついた後、幼子にさとすような優しい声音で言った。

「なまえ、君と義勇は互いに想い合っているんだよ。このお見合いは、最初から君と義勇をくっつけるためのものだったんだ」

あまりの急展開に、なまえは目眩がした。



「じゃあ、後は若いお二人で」とお決まりの台詞を言って、産屋敷夫妻は部屋を出ていった。無口な冨岡と二人きりで取り残されてしまい、なまえは文字通り頭を抱える。

「...どういう事ですか?」

口火を切ったなまえに、冨岡は「何がだ?」と首を傾げる。もう限界だった。

「何もかもですよ!なんで冨岡さんがここにいるんですか!?みんなで私を謀ったんですか!?さっきのお館様のお言葉はどういう...!」

そこまで言って、なまえは再び頭を抱える。「君と義勇は互いに想い合っているんだよ」と耀哉は言った。それが事実なら、なまえにとっては大変な事だ。

「ちゃんと説明してください...!さっきだって「説明した」って言ってましたけど、私はなんの説明も受けてません...!」

叫ぶようにそう言えば、冨岡は考え込むように腕を組む。暫しの無言の後、やっと口を開いた。

「...半月ほど前、俺はお館様に一人で呼び出された。『みょうじなまえの事をどう思う?』と聞かれたので正直に答えたら、『それはいい』と大層喜ばれて...」

「ちょちょちょ、ちょっと待ってください!」

なまえは慌てて冨岡の言葉を遮る。

「大事なところが抜けてます!正直になんて答えたんですか?そこが一番大切なんですけど!」

「それは...、す...、」

「す?」

そう聞き返せば、冨岡の顔にじわりと赤みがさす。どんな時も、なまえを助けてくれたあの時でさえ無表情だったのに、目の前に座る冨岡は別人のように耳まで真っ赤になっていた。

「......ー好いている、と」

その言葉に、今度はなまえが赤くなる番だった。無口で、口下手で、無表情な冨岡から聞くはじめての言葉。それはいとも簡単になまえの身体を熱くし、思考を蕩けさせる。
しかし、こんな言葉一つで絆される訳にはいかない。

「そ、それで?」

「...それで、お館様が『二人ならきっとお似合いだから、一席設けて互いの想いを確認したらいい』と」

「それでお見合いになったわけですか」

「あぁ」

「全然伝わってないです...」

ため息をつきながらそう言えば、冨岡が「それはすまなかった」と言う。本当に悪いと思っているのだろうか。

「それで、お前はどうなんだ」

「はい?」

「お前は俺をどう思っているんだ、と聞いている」

「ッ、...そんなの好きに決まってるじゃないですかっ!!」

冨岡の言葉に、なまえは思わず叫ぶ。
なんのために何ヶ月も冨岡の元に通ったというのだろう。強くなりたいのももちろんだが、傍にいたいと思ったからだ。もしや気付いていなかったのだろうか。

「ずーっとずーっと好きでしたよ!でも冨岡さんが『お見合いする。その人と結婚する』って言うから泣く泣く諦めたんじゃないですか!」

元はと言えば、冨岡の言葉が足りないせいでこうなったのだ。冨岡がきちんと説明しないせいで、なまえは冨岡がどこぞのお嬢さんと見合いをすると勘違いし、自暴自棄になった。そんな時に縁談が舞い込めば、しかもそれが大恩あるお館様の願いだと聞かされれば、誰だってこうするだろう。
しかし、察しの悪い冨岡にはなまえの怒りは伝わらなかったらしい。

「そうか、好きなら問題ないな」

そう言ったかと思うと、富岡はその長い腕でなまえをすっぽりと抱きしめた。突然の抱擁になまえは「ちょ、ちょっと!」と声をあげる事しか出来ない。

「今はこんな事してる場合ではなくて...!」

「結婚しよう」

耳たぶを撫でた唐突な言葉に、なまえはびくりと身体を震わせる。それはまだ幼い時、母がこっそり教えてくれた父の求婚の言葉だった。
これだからこの男は、言葉足らずで嫌なのだ。おかげで責めようとしていた気持ちが萎えてしまう。

「............正しくは“結婚を前提にお付き合いしましょう”ですよね?」

「どうでもいい。お前が断らないなら結果は同じだ」

冨岡の言葉に深いため息を零しながら、なまえは男の背中に自分の手を回す。
薄い唇が近づいてくる予感に、ゆっくりと目を瞑った。
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