「はぁ〜あ」
うんざりするほど良い天気の昼休み。思わずため息を吐き出せば、隣であんぱんを齧っていた炭治郎が「どうしたんだ?善逸」とこちらに顔を向けた。
赤みがかった清潔な髪がさらさらと揺れ、耳のピアスが陽の光を反射して光る。聞こえてくる音はうっとりするほど優しくて、「あぁ炭治郎と友達になれて良かった」って心底思った。
「大丈夫か?お腹でも痛いのか?」
机に突っ伏す俺を、炭治郎が心配そうに覗き込む。
こんな俺を気にかけてくれるなんて、炭治郎、お前は本当に友達想いの良い奴だよ。伊之助なんて目の前のカツサンドに夢中で、こっちなんか見もしないからね。そのカツサンド奢ってやったの誰だと思ってるんだよ、この大食い野生児が。
「...いや、ちょっと頭が痛くてさ」
「バファリンならあるけど、飲んでみるか?」
「...ほんと優しいなぁ炭治郎は」
でもそうじゃないんだよぉ、と心の中で呟く。
頭が痛いっていうのは、いわゆる比喩表現なんだよ。実際に頭痛がするんじゃなくて、悩みがあるってこと。めちゃくちゃ困ってて、どうしたらいいのかわからないってこと。
飲みかけのバナナ・オレを力無く見つめながら、昨日のワンシーンを思い出す。
昨日告白したあの子も、こないだ告白したあの子も、その前告白したあの子も、みんなみんなみーんな口を揃えて言うんだよね。
「我妻くんは、ちょっとタイプじゃない」
って。
わかる。それって平たくいえば俺が不細工って事でしょ?俺がイケメンじゃないのは俺が一番よく知ってる。だって隣にはめちゃくちゃ優しくて顔がいい炭治郎と、わっけわかんねーけどどちゃくそに顔がいい伊之助がいるんだもん。そんなん俺でもこの三人から俺は選ばねぇわ。
「バファリン、バファリン......あ、善逸」
鞄の中に手を突っ込んで薬を探していた炭治郎が、何か思い出したように一瞬動きを止めた。
うん、バファリン別にいらないから。ほんと気持ちだけ受け取っとくから。ありがとな炭治郎。
「これ、隣のクラスの子から善逸にって預かってたんだった」
はい、と炭治郎が差し出したのは、薄いブルーにレースの模様が入った封筒だった。
“我妻くんへ”
女の子特有の丸っこい字で書かれた宛名は変な感じで、パッと見自分の名前じゃないみたいだ。震える指で受け取って封筒をひっくり返すと、そこには
「その子ってあれだろ?前に善逸が高嶺の花って言って、告白さえ諦めてた子だよな」
そう、大好きで、好きすぎて、声さえかけられなかったあの子の名前が書いてあった。
こ、これは、もしかして、ら、ら、ラ...!!!
そこまで考えた瞬間、俺は目の前の炭治郎に猛烈に腹が立った。
「てんめぇぇええー炭治郎!!こんな大事な物、うっかり渡し忘れてんじゃねぇエー!!!」
「ごめん!だって善逸がなんか元気なかったから、そっちに気をとられて...」
「うるっせぇええ!自分がしょっちゅうラブレター貰ってるから他人のラブレター預かってる事も忘れるんだよ!勝ち組の余裕かましやがってこのボケさくがよぉぉー!!」
「だからごめんって!それに俺の話は関係ないだろう!」
「勝ち組ってなんだ!?一番勝つのは俺だ!!」
「余計ムカつくからテメェは黙ってろ伊之助ェ!!」
そこからはもう泥沼だよ。阿呆の伊之助まで参戦して殴る蹴るの大喧嘩をした挙句、偶然通りかかった宇髄センセーの鉄拳で強制終了。
トリプルのアイスクリームみたいなたんこぶは石頭の炭治郎でさえ痛がってたけど、俺は幸せだったね。握りしめた手紙が嬉しすぎて、痛みなんか感じなかったよ。
愛しの君と両思いっていう奇跡だけで、俺めちゃくちゃ強くなれるみたい。