「……−んん?」

なにやら焦げ臭い、嫌な匂いと共に目を覚ますと、これまでに見たことのない量の黒煙が部屋中に充満していた。
寝起きの頭が一気に覚醒する。もしかして火事?!逃げ遅れた?!と慌てて寝室から飛び出せば、キッチンに立つ人影に目が入った。
煙でぼんやりとしか見えないが、あの特徴的な髪型と眉はきっと煉獄さんだろう。ゴホゴホと咳き込みながらその長身へと近付いて行けば、向こうも私の存在に気付いたようだった。

「む!なまえか!おはよう!」
「おはようございます、っていうか何やってるんですか?!」

部屋中煙だらけなんですけど!と涙ながらに訴えれば、煉獄さんは言われて初めてその事に気がついたようだった。
「よもや!これは早急に換気をせねばならんな!」とすぐさま換気扇を付け、部屋中の窓を開け放っていく。煙が薄れると共に、金木犀の甘い香りを乗せた爽やかな風がカーテンを揺らした。
火災報知器が作動していたらもっと大事になっていた所だ。煙が無くなった事にとりあえず胸を撫で下ろしながら、私は改めてキッチンの惨状を確認する。

全く均等に切れていない食パンに、色の薄いコーヒー。いくつ失敗たのだろう、割れた卵の殻がシンクのあちこちに散乱していた。フライパンの上で黒焦げになっているのはウインナーだろうか。どうすればあそこまで煙が立つのか甚だ疑問である。

「もう!起こしてくだされば私が作ったのに!」
「すまない!なにせ今日は記念日だからな!気合いを入れすぎて、つい余計な事をしてしまった!」
「へ?記念日?」

変な声を上げながら後ろを振り返れば、煉獄さんは「もしかして忘れていたのか?」と信じられないように私を見つめる。

「今日は俺たちが付き合って二年目の記念日だろう」
「えっ、あっ、えっと勿論」
「…忘れていたんだな」

フクロウのように真ん丸の瞳でグッと顔を覗き込まれ、私は思わず言葉に詰まる。手帳にもきちんとメモし、つい一昨日までは当日をどう過ごそうかと楽しみにしていたというのに。日々の雑務に追われ、いつの間にか頭から抜け落ちてしまったようだ。

「ショックだなぁ」
「いや、でも、その、先日まではちゃんと覚えていて…」
「これはお仕置きが必要なんじゃないか?」
「えっ、わっ、わぁあ!」

そう言うなり、煉獄さんは私の身体をひょいと肩にかつぎ上げる。お姫様抱っこをされたことはこれまでにも何度かあったが、こんな強引な抱き上げ方は初めてだ。

「煉獄さん?!あっ、朝ごはんは?!」
「あとで君が贔屓にしているカフェにでも行けばいいだろう!」
「ならまず先にキッチンの片付けを…!」
「それよりも!記念日を忘れた恋人にその大切さを教えるほうが先決だな!」
「いやぁ!ごめんなさい!ごめんなさい〜!」

悲鳴をあげる私を楽しそうに無視して、煉獄さんは寝室へと足を進める。そのドアが再び開いたのは、時計の短針がとうに十二を過ぎた頃だった。


Thank you for the 2nd anniversary!

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