大福、どら焼き、三色団子。
きんつば、くず餅、季節の練り切り。

色とりどり、と言うにはやや白っ茶けている気がしないでもないが、それでも目の前のショーケースには何種類もの和菓子がお行儀良く並んでいる。
どれも店長である私の父と腕利きの職人さん達が作った手作りだ。近所の人が「和菓子を買うなら《きめつ庵》」と口を揃えるほど、うちの和菓子は美味しくて評判がいい。

冬季限定の苺大福をケースに並べながら、私はちらりとお客様の顔を盗み見る。真剣な表情でお菓子を吟味する男性に、色んな意味で心臓がドキドキした。この人がうちの店をよく利用するようになったのは、ほんのつい最近の事だ。

顔や襟元には幾つもの大きな傷が走っており、鋭い目つきに着崩したスーツという見た目は、どう見ても堅気の人ではない。
一週間に一度くらいのペースで和菓子を買いに来ては、「ありがとよォ」とぶっきらぼうに店を後にする。父が「あの人はヤクザの若頭で、うちの菓子の下に札束仕込んじゃ親分に会いに行くのさ」と毎度のように言うので、「時代劇の悪代官じゃあるまいし...」と思いながらも、私はそれが嘘なのか本当なのか、ついにわからなくなってしまった。

苺大福を並べ終え、「もしお決まりでしたらお伺いします」と声をかける。若頭さんは少し考えた後、傷だらけの指でショーケースを指さした。

「三色団子を6本。あと、粒あんと鶯あんのおはぎを2つずつ」
「はい」
「団子とおはぎは袋を分けて貰いてェんだがいいかァ?」
「はい、かしこまりました」

言われた通りにお菓子をトレーに取り、それぞれ袋に詰める。袋の端をロゴ入りのシールで止め、「お会計お出ししますね」といつものようにレジに手を伸ばした。
しかし、

「...あれ?」

なんと、レジが全く反応しなかった。
いつもならピッと電子音が鳴るはずなのに、今日はキーを押してもなんの音も鳴らない。かしょん、かしょん、と全く手応えのないレジに、全身が一気に冷たくなった。

「え、なんで?えっ、えっ」

コンセントもちゃんと刺さっているし、レジ自体の電源は入っている。しかし、動かない。
焦る。なんでよりによって若頭さんの前で、こんなハプニングが起こるのだろう。近くにあった電卓を取ろうとしたが、焦りすぎて床に落としてしまった。

「あぁっ...!」

ガシャン!という音と共に飛び出した電池を拾い、急いで裏側にはめ込む。「...チッ」後ろから聞こえてきた音に、心臓が止まりそうになった。
今のって、舌打ち、だよね。
頭の中に赤いランプが点滅し、電卓を打つ指が震える。まずい。早くしないと、早くしないと若頭さんのお怒りを買ってしまう!

「1447円だ」
「えっ...」

半べそになりながら電卓を打つ私に、若頭さんが言う。

「100円の団子が6本、
180円の粒あんが2個、
190円の鶯あんが2個。
全部合わせて1340円。
軽減税率でテイクアウトは消費税8パーセントだから、1340×1.08=1447」
「あ、はぁ...」
「一応確認しとけェ」

若頭さんの言う通りに電卓に打ち込むと、ディスプレイには1447.2と表示された。小数点以下は切り捨てなので、お会計は1447円。
若頭さんの言う通りだ。

「す、すごい!ありがとうございます...!」
「これでも数学教師なんでなァ」
「えっ」
「えっ、じゃねェ」

人をなんだと思ってやがる...、という若頭さん、改め数学の先生に「す、すみません!」と必死で謝る。なんとかお会計を済ませると、私は最後にもう一度頭を下げた。

「本当に、ご迷惑をお掛けしました...」
「別にいい。そのレジ、次来るまでにちゃんと直しとけェ」
「は、はい...!」

じろり。先生が私の顔を見る。まだ何かあるのだろうか。怖いので、とりあえず作り笑顔を浮かべてみる。

「...お前、俺の事ヤクザかなんかかと思ってたろ」
「えっ、あ、いや!そんな、滅相もないです!」
「 ...フン」

不機嫌そうに鼻を鳴らし、男性は和菓子の入った紙袋を掴む。どう見ても数学に強いヤクザの若頭にしか見えないが、どうやらまた来てくれるつもりらしい。

「ありがとうございましたぁ...」

店を出ていく広い背中に、恐る恐る声をかける。
ひら、と後ろ手に手を振ったその顔が笑っているように見えたのは、きっと私の気のせいだろう。


- ナノ -