これから、このまま

父から子へ


そこに現れたのは、5人の男。
いや、1人は人間に見えないが。

「ここは、どこだ?」
「まーた変なとこ、来ちまったかな?」
「ここ…ティーダたちのいる世界じゃねえか?」

素早く反応できたのはジェクトだけだった。辺りを見る限り、どうやらここは秩序の聖域らしい。

「しっかし、なんでここに来ちまったんだ?」
「あなた方をここに呼んだのは、私です」

まばゆい光を放って5人の目の前に現れたのは、秩序を司る神、コスモスだ。
他の4人が呆然とする中、ジェクトが尋ねた。

「なんで俺まで?」
「あなた方が大切に思う者たちの為に、別々の世界からここに呼んだのです」
「大切な者?」
「…そう、あなた方に共通している」
「共通?共通って…」

尋ねようとして一歩近づくと、たちまちさっきと同じ光が彼女の姿を消した。

まったく分からない。
大切な存在?ここにいる全員に共通した?

改めて、ここにいる全員をよく見てみる。
すると、各々どこか見覚えのある面影を感じる。
そして、見た目人間組は、大体がジェクトより少し年上、というところ。

なんとなく、いや確実にそうだと思って、ジェクトは口を開いた。

「おたくら…もしかして、息子さんがいるんだろ?」

その言葉に、一同はジェクトを見た。
どうやらその通りらしい。

「この世界にバッツが?」
「あんた、スコールのこと分かるのか?」
「まあ、とりあえず聞いてくれよ。この世界の事情が分かってんのは俺だけみたいだからな」

ここは二柱の神の終わらない戦いが続く世界だと。
そして、ここには各々の子供達が集い、戦っていると。
ジェクトは状況を掴めないでいる4人に話した。

***

「大体は分かった。しかし、肝心のここに呼ばれた理由は分からんな」
「あの女神さんは大切な者の為って言ってたな」
「私があの子の力に…?」

考え込んでいるのは、一人異形の存在。ジェクトが近寄り尋ねる。

「お前さんも子供がいるのか?」
「ああ…私はマディン。娘はティナ」
「…なるほど、あの嬢ちゃんの力はお前さん譲りなのか」

召喚獣のようなその姿は、魔力を宿しているのがすぐ分かる。

「なあ、あんた、スコールも知ってんのか?」

続いて口を開いた男は、黒い長髪を後ろで束ね、白いブラウスに茶色のチノパン。とても、戦士とは思えぬ風貌だ。

「あんた、スコールの親父さんかい?似てないねえ」
「そうか?俺はラグナだ、よろしく!」

随分性格が軽そうだが、不思議と嫌いになれないのは彼の魅力だろうか。

「で、残りのお二人さんは?」
「月の民、クルーヤだ。ここにセシルとセオドールが?」
「セシルは分かるが…兄貴はゴルベーザだろう」
「それは偽りの名だ。妻が付けた立派な名がある」
「そうか…で、最後のあんたは」
「ドルガンだ。ところで、子供達の力になると言っても、彼らはどこに?あなたも息子さんと一緒ではないのか?」
「いや…俺はアイツの敵の立場だ」
「…なら、私達の敵か?」

ドルガンが剣を構え、一瞬緊張が走ったが、ジェクトは無防備な状態を変えなかった。

「確かに敵の立場だが、あんたらのお子さんに危害を加える気はねえよ。出来れば、息子と同じ側に召喚されたかった」

語尾の方は、正直な気持ちのせいか少し歯切れが悪かった。
それを聞いて、ドルガンは剣を鞘に収めた。

「そうだったか…しかし、やはり子供を思う心は皆一緒」
「ああ、そうだ!やっぱ子供は大事だよなー」

大事な、子供。
ここにいる全員に共通した、大切な存在。
誰もが、子供達に確かな愛情を持っている。
だが、自分はその愛を上手く伝えられなかった。
溝を生んだ。少なからず、傷付けた。

女神は、子供達の為に俺達を召喚したらしい。
しかし、俺に何ができる?

ジェクトはしゃがみこんだ。そのことにクルーヤが気付いた。

「どうした?気分でも悪いのか?」
「…ねぇよ」
「?」
「俺じゃ…アイツの力になれねぇよ。第一、嫌われてるしな」

さっきまでの覇気を感じさせないその男の様子に、他の全員が驚いた。

落ち込むジェクトに、クルーヤは落ち着いた声色で話した。

「そなたは、息子さんを大事に思う気持ちがちゃんとある。それでも、子供が傷付いてしまう時がある。私の息子達のように…」
「私も、幻獣の力に苦しむティナを見るのはつらい。だが、いつかその力を越える強い心を、あの子は手に入れられると信じている」

マディンの瞳は、未来への希望で輝いているようだった。

「俺も、スコールにつらい思いさせちまって…。でも、そんなのを押し退けれるくらい強くなった姿を見たら、こっちまで力もらえるんだ」

そう言って空へ視線を向けたラグナのその表情に、どこか力強さを感じた。

「離れ離れでも、嫌いだと言われても、親子の絆は確かだ。あなたもそれを信じなさい」

ドルガンに肩を叩かれた。激励の意を込めて。

それぞれ違う、子供への愛がある。
どれが、何が、正しいかなんて決められない。

じゃあまずは、自分なりに伝えてみよう。
最初は拒絶されても。
例え嫌いと言われても。

…ん?もしかして、あの女神さんは俺の為に?

その瞬間、まばゆい光に包まれた。
あまりの眩しさに一度閉じたまぶたを開くと、そこには、5人の若き戦士達の姿があった。

「父さん…!」
「お…親父?」
「お父さん!」
「あんた…」

それぞれが、再会に驚きと喜びを隠せない中、その二人のいる空間だけは明らかに空気が重い。

「何でアンタがここにいるんだよ!帰れ!」
「お前んとこに帰ってきてやったんだがな?」
「うるさい!」

拒絶されても、嫌われても、今はこれが父と子の絆の形。


back

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -