悪役少女 前

※夢主は人を殺します
※組織の一員夢主
※安室夢

 私は九年前、五歳だったころに路上で死にそうだったところを組織のボスであるあの人に拾ってもらった。
 だから私はあの人のためにどんなことだってするのだ。


 「ボスを裏切るなんて信じられない。そんなバカは地獄に落ちたらいいのに」

 使われていないビルの屋上。
 もうすでに事切れた存在に何を言っても無駄だろうけど、私は硝煙を上げる拳銃を握りながらイライラと言った。
 この死体はボスを裏切ったため私が殺したものだ。
 彼が裏切らなければ私はこんな面倒なことをしなくて済んだのに。と死体を睨み付ける。
 すると背後から声をかけられた。

 「相変わらず容赦がねえな、カシス」

 「ジンが人のこと言えたこと?それにボスを裏切ったなら死ななければだめでしょう。当たり前のことじゃない」

 「そりゃそうだな」

 カシスとは私のことだ。もちろん本名ではない。
 背後で私の様子を見ていた銀髪の長髪に至極当たり前のことを言うと彼は機嫌が良さげに笑った。

 私は拾われて九年間表では普通の中校生として裏では組織の幹部としてボスのために仕えていた。
 もちろんきちんと学校に行っている私はこれが世間一般の見解からしたら悪いことだとは知っている。けれど、悪い事だとしても私はやめるつもりはなかった。
 だってボスのいるこの世界だけが私の世界なのだから。
 ボスが拾ってくれた世界は家族がたくさんいる幸せな世界だ。そんな家族を裏切ることは許せない。
 ボスを裏切るものは存在してはいけないのだ。



 「はじめまして」

 ある日、そう私に挨拶をしてバーボンと名乗った男は童顔な浅黒い私より10以上上の年上の男だった。
 彼は私を見て、あなたがこんなに若い人だとは思いませんでした。と張り付けたような笑顔で言った。

 私はそんな彼に黙って右手を差し出した。彼は少しだけ警戒する素振りを見せながらも私の手を握った。

 「あなたを組織の一員として認めるけど。裏切ったら殺すからね」

 私は睨み付けながらそう言うと、バーボンは苦笑して「ならあなたに殺されることはありませんね」と言った。

 そんなすぐ後にバーボンと二人でチームを組むことになった。こっそりと裏切るようなら殺せとジンは言った。言われなくてもそのつもりだ。
 裏切らずとも私は彼の腕をよく知らないので期待していなかったし、バーボンの方も私のことをまだ幼いと思っているようだった。
 仕事中彼は私が少しでも危ないだろうと思うと庇うような姿勢になる。非常にそれが邪魔だった。

 「守るものはボスだけにして」

 そう苦言を言えばバーボンは無表情に「僕はそうしているつもりですよ」と答えた。

 彼は頭が良く実力もあるためすぐに上の地位へと上り詰めていった。



 そんな彼ともう何度目か分からないチームを二人で組むことになった。
 今回の任務は下請けのギャングとの薬の取引だった。

 そのはずだったのに現在は廃墟で銃撃戦をしている。
 どうやら薬などはじめから用意していなかったようだ。今回は私たちを殺すことが目的らしい。
 彼らも、ボスを裏切るつもりらしい。

 なら殺すしかない。

 私たちは物陰に隠れながら銃を撃つ。私はもちろん相手を殺すつもりでだ。
 けれど横にいるバーボンはどこか躊躇いがあるように見えた。致命傷を避けて撃とうとしている。
 たまに組織の中にも人を殺すことが苦手な人もいる。だからある程度は仕方がないことだけど。
 私はジンほど厳しくはない。まあ改善しようとしないのなら捨て置く。
 ああ、でもこんなとき一緒にいる相手がジンなら良かった。
 まあジンならもっと小賢しくこのような状況を避けるのだろうけど。

 そんな苛立ちを感じながら横にいるバーボンをちらりと見ると、バーボンの奥の物陰に光が見えた。
 どうやらネズミがはじめから物陰に潜んでいたらしい。

 私は反射的にバーボンを後ろに押し倒した。
 それに驚いた表情で私を見るバーボンにやはり苛つきながら続いて響いた銃声に顔をしかめる。
 完全に避けることはできずに私の肩に銃弾が当たった。
 私は痛みを堪えて私に撃ち込んだ人へ銃を向けて引き金をひいた。

 「カシス」

 「これくらいなんともない」

 肩からは次から次へと血が流れるけれどそう告げて、私はお腹のあたりのシャツを破り腕に巻いた。
 簡単な止血だ。
 けれど、それでも血がおさまらないから本当は裏切りものを殺したいけど逃げるしかない。
 相手の数もだいぶ減ったし。今なら逃げられるだろう。

 「バーボンあなたこれを投げてくれる?」

 持ってきていた閃光弾をバーボンに見せる。それにバーボンはすぐに察したように頷いた。
 今回持ってこなかったけどこんなことなら手榴弾にすれば良かった。まあ廃墟が崩れて私たちまで生埋めになったら困るから良いけど。

 バーボンは私から閃光弾を受けとるとギャングたちへと投げて、すぐに私の手を引きながらその場を後にした。



 「傷は痛みますか?」

 「痛くないわけないでしょ。バカじゃないの」

 私たちは近くにあった小さな隠れ家へと戻るとバーボンはそこにあった救急用具で私の手当てをしてくれた。
 ギャングたちのことは組織に伝えたのですぐに報復をすることだろう。本来なら私たちを殺して誰の犯行か分からなくするつもりだったろうけど残念。
 私も参加したいけどこの怪我では無理だ。

 「…なぜ怪我をしてまで僕を庇うようなことをしたんですか」

 「そんなの怪我をするつもりなんてなかったからよ。ちゃんと避けきるつもりだったのに貴方がさっさと私に押し倒されないから悪いんじゃない」

 「いきなり押し倒されてもついていけるわけないでしょう」

 「鈍いわね」

 私が熱くなりながらもイライラとバーボンを責めるとバーボンは眉をひそめた。

 「とにかくちゃんと医者に診てもらいましょう。化膿しては困りますし、痕になるかもしれません」

 「ふん、この怪我なら医者に行ったって残らない訳ないでしょ」

 「ならなおのこと早く行って少しでも残らないように「別に痕になるくらい知らないわよ」」

 血を流しすぎたせいだろう。バーボンと口論しながらもだんだんと眠気が襲くるのを堪えるが我慢できそうにない。。

 「どうせ私は永くは生きないし、死ぬはずだった命は、ずっと私はボスに恩を返し続けるつもりだから」

 「死ぬはずだったって、それはどういうことですか」

 「うるさいわね、それ以上話すつもりはないわ。バーボン、私は眠いから少し寝る」

 「っ!?今寝ては駄目です」

 「私は、あなたを助けてあげたんだから、さっさと私を病院につれて行って借りを返しなさいよ。……もしも、私が目を覚まさなければ、私の分もボスを、裏切らないで」

 「カシス!」

 「裏切りは、きらいよ」

 眠りに落ちながらも、迎えに来ると言って来てくれることの無かった母を思い出す。
 もう裏切られたくない、だからうらぎりたくない。

 だから裏切らないで。

 私は必死に私の名前を呼ぶ彼を信用して、眠りについた。

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