不明な関係性 前

※原作より昔の話
※カタクリの首巻きの下を知らない人はネタバレになるので注意



 ビッグマム海賊団のカタクリは本当に昔から気にくわない男だ。

 五年前からいつも私の海賊団の活動範囲に軽く抵触する度にことある事につっかかってくる。ああ忌々しい。

 私はとある数千規模の海賊団の女船長である。
 だが海賊とはいえ主にあらゆる大陸からの品を商品としてグレーな商売をして幅広く稼いでいる海賊の中でもある程度はまともな海賊であった。

 ある程度なのでもちろん気にくわない者は海へ沈めるし、破滅へ追い込むことにも躊躇はしない。
 だから私の首には億を超える金額がついている。


 「船長〜、またビッグマムのとこのカタクリ坊ちゃまがきましたよ。今船を付けて看板で待っています」

 「はあ!?」


 ハルちゃん怖いですう〜と船の中を歩いていた私に報告をしながら突っ込んできた私の部下であるツインテールの少女を軽く避けて、私は爪を噛んだ。


 「どういうこと。今はビッグマムの島に手出しはしていないはずだけど」

 「前に船長がムカつくって海賊の船を潰したじゃないですか。その区域が最近ビッグマムの傘下に入ったばかりでの、縄張りで好き勝手に騒いだ落とし前みたいですよ」

 「なにそれ!?」


 確かに私は最近うざい海賊を沈めた。だって近場の島で好き勝手に子供や女性を傷つけていたのだ。ムカついた。沈んで当然だろう。

 いや、そこじゃない。

 なんで島の近くで海軍を倒しただけでつっかかってくるのか。暇なのかあいつ。一応幹部でしょ。


 「まあ、いいわ。なら私が出る。あなたたちは引っ込んでなさい」


 この船でカタクリを相手にできるのは私だけだろう。

 だから仕方がなく、彼女へ命令すると彼女は顔をポヤリと赤く染めた後、「ああ、船長。愛しています」と言ってきたので無視をした。


 船の看板へ出ると体格の良い男が船の上で腕を組み立っていた。
 ビッグマム海賊団の次男カタクリだ。


 「何か用?さっさと帰れ」


 私はその男へ冷たく言うと、カタクリは口元が首巻きで隠しながらも答えた。


 「今日こそお前を倒しにきた」

 「はあ、馬鹿じゃないの?私暇ではないんだけど」


 本当になんなのだ。いつもいつも執拗に来て。



 「あんた、何でこんなにしつこく来るわけ?今回みたいに適当に因縁つけられて本当に迷惑なんだけど」


 こうやって理由をこじつけて私のところに来たことなんて数え切れない。
 その度に隙を見て逃げてきたけど、いちいち本当に面倒くさい。

 すると、カタクリは沈黙の後に答えた。


 「おれはおれの顔を見た奴を生かしておくつもりはない」

 「あんたの顔?」


 私は首を傾げる。

 確かに私は彼と初対面のときに首巻きを取り口元を見たけど。

 それで思わず彼の口を指さし爆笑したけど。

 今まで追いかけてきたのはそれが原因か。

 そしてそのことをまだ根に持っていたのか。しつこいな。


 「良いじゃない。別に見られて減るものでもないでしょ。ぷふっ、とても可愛らしかったわよ」


 まさか彼の口が裂けていて犬のような牙があるとは思わなかった。
 男前なのに可愛らしいお口だ。
 ふふっ。


 「笑うな」


 思い出して思わず笑ってしまった私に覇気を纏い槍を繰り出してくるカタクリを避ける。


 「笑うなって無理でしょう。良いじゃない素敵なお顔だったわよ。隠すなんてもったいない」


 何をそこまで拘っているのかは知らないけど。別に実際隠すまでのものではないと思う。
 笑ったのはただ印象が異なったのと、私は犬が好きだから犬っぽいなと思った温かな笑みだ。実際船に大きな犬を買ってるし。すごくふわふわで可愛い子だ。

 こほん。思考がズレたが。
 だいたい私としては隠す彼が意味不明だ。


 「笑うな、黙れ」

 「黙れって。はあ貴方に命令とかされたくないわ!」


 カタクリの槍に私は取り出した棒で応戦する。
 私の戦闘は棒術がメインだ。刃物がないから致命傷は与えられないけど、その分丈夫で向きに関わらずすぐに対応できる。

 とにかく戦闘をすることよりも私は逃げることをいつも優先している。戦いにそこまで興味ないし。
 さっさと逃げたいけど、カタクリは相当な実力者だ。

 だからカタクリが来るのは嫌だ。会わないように注意してるのに本当に面倒くさい。

 何度も打ち合うけど隙なんてない。
 けれど打ち合っているうちにふと一つの案に気が付いた。


 「ああ……」


 私が思わず呟きそうになった言葉を言う前にカタクリの蹴りが私へと向かってきたので棒で防ぎ後退する。


 「お前を傘下になど加わらせるものか」

 「本当、見聞色って嫌だわ」


 私はさっき彼から隠れるために『どこかビッグマム以外のとこの傘下に入りたい』って言いかけたのを先に予知したのだろう。
 鍛えすぎた見聞色を持つって何よ。最後まで言わせなさいよ。


 「あっ。もしかして貴方、顔を見られたくないから見聞色鍛えすぎちゃったの?ふふっ」


 イライラとしたけれど、そう想像すると可愛い。誰か来る度にビクビクしていたのか。それで鍛えすぎたのか。
 それに青筋を浮かべながらカタクリは攻撃してくる。

 会話している間も攻撃は止まない。いや、会話といってもカタクリはほとんど無言で容赦なく攻撃してくるけど。
 私としては会話に乗ってきてもらってさっさと隙をついて逃げたい。


 「うるせえ。さっさとおれの槍に貫かれろ」

 「いやよ。けど、あなたって可愛いわね」

 「馬鹿にするな!」

 「馬鹿にはしてないわ。私、格好いいよりも可愛い方が好きだから」


 「だから私はあなたの口元が見えている方が好きよ」と思うことをそのまま言う前に、カタクリの攻撃が一瞬止まった。

 その隙を突き、私は棒を振りかぶりカタクリを彼の乗ってきた船へと飛ばした。


 「逃げるわよ!」


 私は船内にいる船員へそう叫ぶと同時に、船は高速で走り出し、カタクリの乗った船から全速力で逃げ出した。
 商品の性能ならうちの方が優れている。海賊であり商人である私を舐めるなよ!


 とにかく、今日もなんとか逃げることができた。


 けど、本当。敵同士でなければ好みな人なのに。

 最後に言った……いや言ってないな、悟られた私の言葉に首巻きに隠れて分かりにくかったけど確かに染まっていた顔を思い出して

 私は口元が緩みながらも私を呼ぶ声のする船内へと戻った。

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