王子様とお芋様

シリウスの髪を切った後。
まさか私の言葉で髪切ったの? なんて聞けないのであの出来事はそのままふわふわと終わった。

まさか、ね。

別に短髪が好きだという女の子は私だけではないし、何度かシリウスに短いの似合うねと言っている女の子を見かけたし。そもそもイメージチェンジだと言っていたし。

うん、自意識過剰だ。
シリウスみたいな王子様が私みたいなお芋を気にしてくれるなんてないない。

そんな訳で頭から振り払うように忘れることにして、私はいつものように過ごしていた。
今も次の魔法薬学の授業に行くために廊下を歩いていると、後ろから肩を掴まれた。
振り返ってみると同じスリザリンの同学年の男子生徒だった。

「おいルイ、次の薬草学の授業抜き打ちテストがあるらしいぞ。前の授業だったレイブンクローの奴が言ってた」
「えっ、そうなの? 」

それは大変だ備えておかないとと思いながら、ふと彼の髪に目が行った。
あれ? 少し髪が短くなってる?

「あれ? 髪切ったの」
「ん? ああ邪魔だから軽くな」
「そうなんだ。似合ってるね」
「だろ? 」

私の言葉に彼は照れ臭そうに笑うと「じゃあ先行ってるわ。遅れんなよ」と廊下を走って去って行った。


足早いなあさすがクィディッチをやってるだけあると彼の背中を眺めていると、またもや後ろからガシッと肩を掴まれた。
誰だろうと先程のものより重いそれに振り向くと、そこには幼なじみのシリウスがいた。思って見なかった顔に少しだけ驚いた。
シリウスは整った顔が眉を寄せてムスっとした顔をしている。

「あれ? シリウス」

どうしたのだろうと思って名前を呼ぶと、シリウスは私を睨み付けた。
それに私は知らない間に怒られることを何かしてしまったのかと不安になるとシリウスは口を開いた。

「あいつより、俺の方が髪が短いの似合うだろ!」
「え?」

私は思わず目が点になった。
なんの話だろう。
けどシリウスの真剣な様子に私も真剣な顔に戻して答えた。

「うん、シリウスの方が似合うと思うよ」
「あいつよりも格好いいか」
「うん、格好いいよ」
「よしっ! 」

私の解答にシリウスは満足したらしく嬉しそうに満面の笑みになったので、私も嬉しくて笑顔になった。

「シリウスは短くても長くても王子様みたいで格好いいと思うよ」

確認する必要なんてないのにと思いながらそう本心を言うと、シリウスは目を見開いて一気に顔を赤く染めた。

「あっ、当たり前だろ! お前だって、その、かっ、かわ」

シリウスが何かを伝えようとしているが、後半の言葉になっておらず私は首を傾げた。

「シリウス?」
「べっ別にルイなんて可愛くなんてないんだからな! 勘違いするなよ」

私がシリウスの名前を呼ぶとシリウスはそう早口で言い切ると、回れ右をして走り去った。
先程の抜き打ちテストを教えてくれた彼よりも足が速い。一瞬でいなくなった。

結局何があったんだろう。
可愛くないと言われてそこまで傷つきはしていない。
そうだろうなと思うから。

でも。

「可愛くなりたいなあ」

これくらい思っても良いだろう。

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