手当て

 組織に入った時に幼い私に仕事を教えてくれたのはジンだった。
 だから私にとってジンは師であり上司であり、父であり母である。

 「って言ったらジンに撃たれただけよ」

 「どう考えてもジンなら撃つでしょう。何を言っているんですか貴方は」

 アジトの一室で、私の頬に差した傷の手当てをしてくれているバーボンに傷の経緯を話せばバーボンは呆れた様子で私を見た。
 それに少しむっとする。

 「別に本当のことを言っただけでしかも褒めたのになんで怒るのよ」

 「本当に分からないんですか」

 「分かってたら撃たれるようなことなんかしない」

 それなりに使える駒である私でなければ殺されていただろう。今回だって褒めた途端に躊躇なく撃ってきた。
 そんな冷酷な男の前で苛立たせる冗談なんて好きで言うわけがない。私をなんだと思っているのだろうか。

 「……つまり誉められて照れたってこと?」

 「貴方よく今まで生きてこれましたね」

 「そんなのボスのおかげよ」

 「……ええ、そうでしょうね」

 私がそう当たり前のことを言い切るよう言うとバーボンはなんとも言えない様子で頷き息を吐いた。

 「はあ。次からは男の人を母呼ばわりしない方がいいですよ」

 「それって嫌なの?」

 「快いものではありませんね」

 「そうなの」

 バーボンが言うことが正しいのならどうやらお母さん呼ばわりしたことがジンの琴線に触れていたらしい。

 「変なの。それだけ親しみを持っているって意味じゃないの?」

 「男っていうものは少しくらいは警戒してほしいものなんですよ」

 「ふーん。バーボンもそうなの?」

 私の質問にバーボンは綺麗な胡散臭い笑顔を作った。

 「僕はどちらでも構いませんが。警戒しておかなければ後悔するのは貴方ですよ」

 「後悔ね。まあ言われなくてもちゃんと警戒くらいするわ。貴方が後ろから撃ってこないとも限らないし」

 「……本当に僕たちのような仕事をしてきて貴方はよく今まで無事に生きて来られましたね」

 バーボンは私の頬にガーゼを貼り終るとガーゼの上から頬を撫でた。バーボンの綺麗な瞳が私を見ている。
 私はそれに手当てが終わったのだと悟った。

 「私からしたら貴方の方が不思議よ。こんな傷くらいで手当てなんてして。ジンを見習ってもう少し薄情になった方がいいんじゃない?」

 「僕を心配してくれる貴方より僕は薄情ですから大丈夫ですよ」

 「別に心配なんてしていない。ただ使える駒が無駄に減るのは嫌なだけよ」

 誰が心配なんてしているか。
 使えなくなったら私は捨てることだってできる。

 私は苛立ちまじりに立ち上がり部屋から出ようと扉まで近寄り、ドアノブを持ってからまだその場にいるバーボンへ振り向いた。

 「傷の手当てありがとう」

 それだけ伝えて私はその場を後にした。

 バーボン腹が立つことはあるけど嫌いではない。
 ずっと仲間でいられたら良いのにと切に願う。

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