分かっているつもりで分かっていなかった
目をさますと視界は真っ白だった。
どうやらここは病院らしい。
口には呼吸器、上には点滴が吊されている。
頭がぼんやりしているので、何も考えられずにいると横から私の名前を呼ばれた。
それに目の動きだけで横を見ると、そこには相変わらず真っ黒な服装をした臨也がいた。
まさか臨也がいるとは思わなかったので驚いた。
「しぶといな、遥は。まさか生きているなんて。」
臨也はきちんと笑えていない下手な笑顔で、私の頬に手を当てた。
「君が車に轢かれたと知った時は、びっくりしたよ。それで病院に来たら生死をさ迷っているし。手術が終わっても君はずっと眠り続けて目を覚まさないし」
「本当に何なんだよ、君は。なんでそう俺をムカつかさせる事をするの」
臨也の言葉は私の頭に入ってくるが、返事をしようにも頭がうまく働かない。
ずっと寝ていたとはどれくらい寝ていたのだろうか。
聞きたい事はたくさんあったが、体のあちこちが痛くて声を出すのが難しい。
臨也はそんな私をじろじろと見てから再び口を開いた。
「君が俺から離れる事は許さないよ。俺は君が望む愛し方を知らないけど、君が車にはねられて死にそうだって聞いた時、俺は胸が張り裂けそうだった」
私は臨也の言葉に心臓まで痛むのを感じた。
……悲しんでくれたのか。
臨也を見ると彼は辛そうに顔を歪めると自分の心臓近くの着ている黒いシャツを握りしめたので、くしゃりとシャツにシワが寄った。
「俺が誰かについてそんな事を思うのはこれがはじめてだよ。ねぇ、これって恋ではないのかな?」
臨也は笑みを消して、眉を寄せて今にも泣きそうな縋るような顔で私に尋ねる。
だけど、私に分かる訳がない。
私は臨也の心の内なんて分からないのだから。
「遥、好きだよ。愛してる。どこにも行くな」
けれど、必死にそう言ってくれる臨也に私は嬉しいと思った。
最後に、私が気を失う時に思い浮かべたのは臨也だった。
最後に、他の誰でもなくあの憎たらしく思っていた顔をみたくなった。
…私は臨也の事が好きなのか。
私も。
もしかしたら臨也のように恋について分かっていなかったのかもしれない。
だから、臨也が私に対する思いが分からないというのも少し分かった気がする。
私も臨也も長く一緒に居すぎた。
最後になって、私は彼に会えないのは寂しいと気がついた。
「わたしも…いざやのこと……すきだよ。」
動かない口をなんとか動かしてそう言葉にすると。
臨也は驚いた表情をした後、眉を下げて静かに本当に嬉しそうに笑った。
私はその臨也の表情を見て、心から安堵した。
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