友達以上恋人以上

 私は臨也と結婚した。

 いや、結婚していた。





 臨也の事務所に行きお互いテーブルを挟み向き合ってお茶を飲んでいると、臨也が思い出したように言ったのだ。


 「そういえば、婚姻届提出しておいたから。君と俺の名前で」


 あんまりなその報告に、私は口に含んでいたお茶を吹き出した。


 …気管にお茶が入って痛い。


 「げほっ、はあ?ごほっ、今日はエイプリールフール?」

 「エイプリールフールは、数ヶ月も前だね」

 「冗談は止してよ。」

 「本当だよ。ほら」


 そう言うと臨也は私に書類を見せてきた。
 そこにはきちんと私と臨也の婚姻が認可されたと書いてあった。
 当然だが、私はそんな事実しらない。


 「偽造結婚!?」

 「正確に言うと婚約書偽造だね。うん、おめでとう遥。やっと君がしたがってた結婚ができたね。」

 「私サインした覚えが無いんだけど!?」

 「俺がその筋の人に偽造を頼んだから、大丈夫、バレないよ」


 そういう問題なのか?
 いや、普通に私が役所に言えばバレるでしょ。

 …そしたら臨也も犯罪者になるのか。

 公になってないだけで十分犯罪者だろうけど。


 「その筋の人って婚姻届偽造するのに筋なんてあるの?」

 「結構いるよ。大体はこの国の国籍が欲しい人がやるんだけど。ははは、日本って大人気だね!」

 「え、ナニソレ怖い。」
 

 思わず鳥肌が立った。
 いや、話が逸れたけど今はそれどころじゃない。


 「すぐに役所に行かないと」

 「まだ夜で役所はやってないから、ゆっくりしていきなよ。」

 「こんな時に貴方とゆっくりできる訳が無いでしょ!」

 「だからって急いでも意味が無いじゃん。」


 確かにまだ外は暗い。
 今から役所に行っても誰もいない。

 確かに臨也の言うように急ぐ必要なんて無いが。

 急がなくても明日私が行けば、婚姻は無かったことにできるだろうか。

 ・・・・・できるのか?さすがに婚約届けを勝手に出されるなんて事態に陥るとは思わなかったので、分からない。

 とにかく私は落ち着くためにソファへ座りなおした。
 あまりの衝撃に心臓が激しく鼓動をしていて痛い。


 「……本当、どうして臨也はそこまでするの?」

 「そこまでって?」

 「私の事恋愛としては好きではないんでしょ?それなのに結婚しようとするなんて、理解できない。」

 「別に結婚に好きか嫌いかなんて必要ないだろう?」

 「なら、貴方と私の考え方は大局だね。私は恋愛結婚をしたい。」

 
 私は臨也を睨んで言った。

 臨也とは恋愛に関する価値観が違いすぎる。
 私は小さい頃から愛し合って結婚をして普通の家庭を築きたかったのだ。それが夢だった。

 だから普通とは程遠い臨也なんて論外である。

 臨也は息を吐いた。
 

 「そう。じゃあもし、俺が君のこと好きだから結婚したくてこうしたって、言ったら君はどう思う?」

 「うそ臭過ぎる。」

 「あははは、即答!まあ当たっているけどね。…そうだよ、それは真っ赤な嘘だよ。俺は君に恋愛感情を抱いたことは無い。キスしたいとも思わないし、性的魅力も感じない。それは周りのどの女に対しても同じだけどね。やろうとすればできるけど、進んでしたいとは思わない。だから、分からないよ。添い遂げたいと思えるくらいに人を好きになることがどういうことか」

 「…つまらない人生だね」

 「君からしたらそう思うんだ?俺はそれはそれで楽しいと思うけどね。恋愛に目が眩むこともないから、惑わされずに人間で遊ぶことができる」


 臨也がそう語るが、私には分からなかった。
 人を好きになれない事はどういうものなんだろう。


 分からないものは、少し怖い。


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