君にはぐらかされる

※軽いカニバニズム発言注意




 臨也は私が来る時はやけに食べ物を用意してくれるようになった。
 前回は有名なパティシエールのケーキだったし、前々回は高級寿司だった。

 今回は一個で一万するようなメロンやらなにやらのフルーツ盛り合わせだ。

 なので臨也の事務所兼自宅のキッチンで私はそのフルーツ達を切らされている。


 こんなに食べ物を用意するなんていきなりどうしたのだろう。
 お歳暮の時期でもないので誰かから貰った訳では無いだろうが。
 
 おいしいものが食べられるのは嬉しいが、油断すると太ってしまうので次の日の食事を減らさなければならない。


 「もしかしてヘンゼルとグレーテルか。」


 臨也は良い具合に私を太らせて食べるつもりかもしれない。 ……いや冗談だが。


 「ヘンゼルとグレーテルがどうしたの?」

 「ぶわっ!?」


 考え事をしながら瑞々しい桃を切っていると後ろから臨也が話しかけてきて、私は思わず桃を落としそうになった。


 「ちょっと、包丁を持ってるときに突然話しかけないで下さいませんか。ウザい」

 「あははは、ごめんごめんご!」
 

 …本当にウザいなこの人。
 驚いて思わず敬語になってしまった。 


 「それで、その童話がどうしたの?」


 そんな私に笑うと臨也は隣で紅茶を用意しながら聞いてきた。
 

 「いや。最近、お茶請けに食べ物が用意される事が多いなと思って」

 「ああ、俺が君を太らせて食べようとしているとでも思ったの?」

 「一瞬思っただけだよ。」


 私は桃を色とりどりのフルーツが乗せられた皿に盛り付けるとテーブルへ持っていく。

 そんな私に臨也もついてきた。
 手には二つのカップを持っていたので、どうやら私の分も入れてくれたらしい。

 お互い定位置に座ると、臨也は口を開いた。


 「俺にカニバニズムの趣味は無いなあ。」

 「そうだろうね。」

 「あれ、結構あっさり認めるね。」

 「確かに臨也は頭とか行動とか頭とかおかしいけど、カニバニズムは無さそうだから。なんとなく。」

 
 というか正直、頭は行動力のある残念な中学二年生のままなだけで臨也自身は別に狂っていないと思ったが。それを言うのはまるで知ったかぶりのようなのでやめた。

 小学生から彼を知ってはいるが、付き合いが深かった訳でもない。
 そんな彼を理解しているなどありえないと遥は思っている。


 「まあ、ありえないよ。俺が愛する人間を食べるなんて。中には好き過ぎて自分の一部にしたいから食べるって言う人いるけど、彼らは相手を愛していたんじゃなくて、自分を、自分のそんな思考を愛していたんじゃないかって思うよ。だからこそ相手を自分の一部にしたかった。もし本当に相手が好きならむしろ自分を相手に差し出すんじゃないかな?」

 「へえ。臨也は好きな人には食べて貰いたいんだ。」

 「さあ、どうだろう?」


 私は話しながら爪楊枝を桃に突き刺し食べてみた。
 そこらのスーパーの桃とは比べ物にならないくらい甘くて果汁が口の中で溢れた。


 「俺はそういう人に出会ったことが無いからね。その時にならなくちゃ分からないかな。仮に想像で補ってみても、結局はそれは仮でしかないし。」

 「臨也がだれか1人の事を好きになるなんて、まったく想像できない。私としては誰かと付き合ってくれればうれしいけど。」

 「ヒドイなあ。」


 そう言い、たいしてヒドイとは思っていないような口調で臨也は肩をすくめる。
 

 「そういう君はどうなの?」

 「どうって?」

 「相手に自分を食べて欲しいか、それとも自分が食べたいか。」

 「私はカニバニズムじゃないし、相手もノーマル希望だから」


 まず、その話自体が論外。と言うと臨也はにっこりと「まあ、そういうと思っていたけどね。」と答えた。


 「分かっていたなら聞かなければ良いのに。」

 「予想はしても、それが合っているとは限らないだろ。君の事は読み辛いし。」

 「普通だと思うけど。」

 「普通だと思う君に驚きだよ。」


 君も結構、普通とズレていると思うよ。

 と言い臨也は笑った。


 臨也は私が普通じゃないと言うのが好きだと思う。


 私は微妙な気持ちになりながら皿の中のメロンを爪楊枝に刺し、口に入れた。


 

 (そういえば、食べ物が用意されている理由を聞くのを忘れてた)






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原作と異なる箇所がありますが臨也は嘘をついています。

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