贖罪
その機会は二日後にあった。
あらかじめ俺たちはミリアの授業を調べて時間が合うときにミリアの様子をこっそりと伺っていた。
すると変身術の前にミリアはバックスと一緒に廊下を二人きりで歩いていた。
目立つことが嫌いらしいミリアに配慮して、なるべく周りに人が少ない時に実行しようとフレッドと話していたが。ちょうど今は早い時間のためか周りに人がいない。
俺は横にいるフレッドと視線を合わせて、ミリアの前へと躍り出た。
「ミリア。話があるんだけどいいかい?」
はじめにフレッドがミリアへと話しかけた。
ミリアは俺たちに気がつくと少しだけ目を開いてフレッドの言っていた通りに立ち止まった。すぐに嫌そうに眉間に皺を寄せたけど、横にバックスがいて前に俺たちがいるから逃げられないらしい。
昔ならそれでも後ろへ動き逃げていただろうけど、今はプライドが許さないのかそんなことはしないようだ。
返事もなく黙って俺たちを睨みつける。分かっていたこととはいえ、こんなに嫌われているのは悲しい。
「ごめん。本当に俺たちはミリアに嫌がらせをしにきたわけじゃないんだ。俺たち、君に言いたいことがあって」
緊張しすぎて声が出ないのと違いフレッドは何も言わないミリアへと話しかける。
彼女はフレッドを何も言わずにじっと見つめた。
そんな様子の俺たちにミリアの横にいたバックスは一人、ミリアをおいて俺たちの横を通り先に変身術の教室へ行こうとしたのか足を動かした。
けれど、そんなバックスに気がついたミリアはバックスの服の裾をまるで逃がさないというように握ったので。
バックスはまるで何もなかったかのようにすっと無表情のまま横に戻った。
ミリアに頼られるバックスを見て少しだけバックスが恨めしく思ったが、なんとか少しだけしか表情に出さなかった。
「…それで、話とは何ですか?早くしてくださいますか。私、次の授業へ行かなければならないの」
逃げることを諦めたのかミリアは無視を止めると、イライラと俺たちの話を聞く姿勢をとった。
成功だ。
フレッドは俺の背中を叩いた。俺から話せということだ。
叩かれたことを合図に俺は心臓をバクバクと痛いくらいに鳴らしながらミリアをしっかりと見つめ口を開く。
「ミリア。昔、フレッドと一緒に君に酷いことをして本当にごめん。それを謝りに来たんだ」
「あれは本当に悪いことをしたと思う。君は何もしていないのに俺とジョージは一方的に君に嫌がることをした。俺もごめん」
俺たちは二人で頭を下げてミリアへと謝った。
許して貰おうとは思っていない。したことがしたことだから。
それでもミリアからの返事が怖くて、俺はこれでもかと頭を下げた。
「……別に私はあのことに関して貴方たちに怒ったり、恨んでいたりなんてしていませんので謝る必要はありません」
しばらくの沈黙の後、ミリアからかかった声に俺たちが顔を上げると、ミリアが俺たちを見ていた。
俺たちが子供の時に欲しかった綺麗な瞳が、今は俺たちを見上げている。
「けど、俺たちは謝りたいんだ。いや、謝るのなんて君にとってはただの迷惑で自己満足だろうけど。それでも謝りたい」
「したかったら仕返しに、俺たちを殴ってくれても構わないよ」
俺の言葉に続いたフレッドの言葉に俺も頷く。
彼女になら殴られたって、仕返しに変な呪文をかけられたって構わなかった。
俺とフレッドがそう言えば、ミリアは目を細めて俺たち二人を交互に見て口を開いた。
「勘違いをしないでくださいますか?怒っていないと言っているでしょう?大体、子供のすることなんて私はいちいち気にしていません」
「………」
「………」
「ミリアって俺たちと同い年だよな」
「そうですが。何か?」
俺が尋ねるとミリアは俺から聞かれた意味が分かっていないように答えた。
ミリアは気がついていない様子だけど、不可思議な空気が流れたのはいたしかたないだろう。
子供のしたことって…。ミリアから見たらそこまで俺たちは子供に見えていたのかと思うとショックだった。
確かに彼女に比べたら俺たちは子供っぽいかもしれないけれど。同級生で、しかも好きな子から子供扱いなんて。
「じゃあ怒っていなかったのなら。今まで俺とジョージを無視していたのはグリフィンドールだから?」
「それも大きな理由ですが。普通に私はあなた方が苦手です」
「普通に苦手…」
「ジョージ。これは俺もショックだ」
「話はそれだけですか?なら早く通して欲しいのですが。本当に邪魔です」
俺がミリアに苦手だと言われたことに再びショックを受けていると、ミリアは道を通すように氷点下の眼差しで眉を寄せながら言った。
あまりにも拒絶する彼女の言葉で俺は凍らされたように体が硬直した。少し泣きたくなった。
「ああ、うん。ごめん、ミリア。俺は君に何でもいいから償いをしたいから、なにか困ったことがあればいつでも詫びにできることなら何でもするから言ってくれ。あと、前ダンスパーティに誘った時もごめん」
「おい、ジョージ。俺を省くなよ。俺も君が必要な時は呼んでくれよ。俺も償いにいつでも助けてやるからさ」
俺は必死にフレッドは少し軽い調子でミリアに言えば「別にいりません」とバッサリと斬り捨てて、ミリアは道をあけた俺たちの横を終始無表情だったバックスともに去っていった。
ミリアの言葉はショックなことが多かったけど。
こんなにきちんとミリアと話すことができたのは初めてだった。
内容はどうあれミリアときちんと話したことで今まで悶々と考えていたことが軽くなった気がして俺がフレッドへと礼を言うと、フレッドは俺の肩に腕を回し二人でミリアの姿が見えなくなるまで廊下に立っていた。
たとえ、恋が叶わなくてもと思っていたけど。
これはそんなに軽い気持ちではなかった。
諦めることができるのならそもそもスリザリンなんて好きにならない。
こんなに言われた今でさえ思わずにはいられない。
だから俺はミリアに好かれるようにもっと、大人になりたい。
悪戯専門店を開きたい、大人でなければ使えない魔法を使いたい。そのために大人になりたいと思ったことはあったけど。心が大人になりたいとしっかりと思ったのは初めてだ。
考えれば今まで、俺はいたずらをするにあたって子供であろうと考えていた気がする。大人になんてなる必要はないと思っていた。
けど。それだけじゃない。それだけではダメだ。
子供だからバグマンにさえ、いいように利用されたのだ。
子供だから彼女の瞳は俺を写すことがない。
俺たちは今年度で魔法界では成人となる。大人になるのだ。
俺は少し今までよりも自分の世界が開けた気がした。
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