スチュワートとバレンタイン

 スチュワートはクリスマスダンスパーティーに参加をしてからはそれはもうモテるようになった。
 それまでは空気中の窒素のように存在のあいまいなものとして他寮生からは接されていたが。現在は通りすがりにあいさつをされたり、中には告白をしてくる人まで現れた。

 別に恋に興味のないスチュワートからしたら嬉しいことでもなく軽く受け流していたが、さすがにバレンタインには精神的にも物理的にも頭を抱えたくなった。

 イギリスのバレンタインは好いている人へカードを送る。
 なので毎年バレンタインの朝食の時間大広間では多くのカードを携えたフクロウが空を舞っている。

 去年までのスチュワートは親切にした後輩からたまに1、2通送られるくらいで、大したことはなく過ごしていたのだが。今年は違った。

 スチュワートがスリザリンの席に着くなり天井で待機していた二十羽ほどのフクロウが一斉にスチュワートへ押し寄せてくるとスチュワート目掛けて手紙を落としたのだ。
 中には何か恨みでもあるのかスチュワートの頭へ落とすフクロウもおり、それが丁度角に当たったので表情には出さなかったが痛かった。

 そんなスチュワートの様子に先に広間に来て目の前に座っているミリアはチラリとスチュワートを見る。
 しかし手を貸す必要はないと判断したらしくミリアは手元で食べ物をねだる一羽のフクロウへと視線を移すとチキンを小さく切り与えていた。

 ミリアの手元には3枚のカードがあった。
 ミリアは毎年2、3枚のカードを送られている。
 イギリスでは匿名で相手にカードを送ることも多く、おそらくミリアのカードは今年も匿名であろうとスチュワートは予想した。

 どうして匿名かと予想できたかというとそれはスチュワートとミリアが二年生の時に遡る。
 その年、はじめてミリアへ記名でバレンタインのカードが送られてきたのだが。ミリアは迷うことなくすぐにペンを取り出すと宛名である自分の名前を消して、相手の名前を書くと運んできて疲れ切っていた老フクロウへカードを渡し送り返していた。
 老フクロウはすぐに飼い主であるウィーズリーの双子へとそのカードを届けたのだが、ミリアのその行動はそれで有名になったのだ。

 なのでミリアへ本当に告白する場合はその手段を選ぶ人はない。
 ふられるのに加え、そんな風に反応されたのでは相当なマゾでない限り心が折れるだろう。


 スチュワートは自分へと送られたカードを片付けながら、セドリックを見た。
 セドリックはスチュワートより多くのカードを机の上にまとめ、友人と楽しそうに会話しながらもミリアへたまに視線を送っている。

 スチュワートは今ミリアが撫でているフクロウがセドリックのフクロウであることを知っている。
 ミリアは気がついてはいないようだが、三年生の時からセドリックが飼い始めたこのフクロウが毎年ミリアへ匿名のカードを送ってきていることをスチュワートは知っている。

 スチュワートはセドリックから目の前にいるフクロウへと再び視線を移し、スチュワートが見ていることにも気づかない様子で甘えてミリアの指を甘噛みするフクロウに息を吐いた。




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