ハロウィン企画(6'd)

 今日はハロウィンです。

 ホグワーツでは大広間で毎年恒例のハロウィンパーティーが行われていますが、もちろん私は参加をしていません。
 そういったイベント事は率先してするつもりはありません。
 私は毎年ハロウィンの日は寮で過ごします。
 とはいえスリザリンの寮でも大広間ほどではないにしてもハロウィンの仮装をした方々が騒がしくしていらっしゃいますが、それくらいなら構いませんし。


 けれど六年生の今年は、私はハロウィンパーティーの開催されている時間帯に廊下を歩いていました。
 それはなぜかと言いますと、魔法薬学の教室に忘れ物をとりに行ったからです。

 “秘密の部屋”の年でしたらバジリスクと対面したくありませんので諦めて次の日にしましたが。
 今年はそう危険ではないのでまあ大きな問題はないと思い取りに行くことにしたのですが。

 それは間違いでしたようです。

 前方に現れたドラキュラの仮装をしたセドリックが私に気がついたようで、今まさに笑顔で手を振って駆け寄ってきます。


 私はそれを見て反射的に回れ右をして反対方向へと駆け出したくなりました。
 みっともないのでしませんが。

 ハロウィンパーティーでは全員ではありませんが、大多数の人が仮装をしています。
 原作にはそのような描写があったことは思い出せませんが、やはりハロウィンは仮装ありきなのでしょうね。
 英国のハロウィンの仮装は本格的なものやふざけたものが多いですが。セドリックは血のりなどを使っておらず、普通にタキシードを着て口から牙も覗くオーソドックスで見目が良いドラキュラでした。


 「こんばんはミリア。君もハロウィンパーティーに参加するのかい?」

 「いいえ」
 

 駆け寄ってきたセドリックがそう質問をしてきましたので答えましたが。
 そんな見目の良いセドリックですので、誰もいない廊下でしたらまだしれず。
 ただでさえパーティーがあり人通りの多い場所でわざわざ話しかけてくるのはやめて欲しいです。

 私は否定の言葉だけ言い去ろうとしましたが、セドリックは目の前でうまく壁になっているので行けませんでした。
 …最近、なんだかセドリックの強引さ、というのでしょうか。本人にはその意識は無いのでしょうが、邪魔さ加減が上がった気がします。


 「ミリアは参加しないのかい?君の仮装を見たかったな」

 「そうですか。私は死んでも仮装などしたくはありません」

 
 自分でも自分が仮装をしているところなんて想像できません。
 …今、まさに魔女の仮装をしているといえばしていますが。これはこの世界の義務ですので数に含みません。


 「そんなに嫌なの?君ならどんなものでも似合うと思うのに」


 そうセドリックは私の否定に残念そうにおっしゃいますが。
 彼の事ですから誰にでもこんな甘々しい台詞を言っているのでしょう。一々本気にとってはいけません。


 「セドリック、貴方はこれから大広間へ向かうのでしょう?早く行かれたら如何ですか?」

 「うん。けどせっかくハロウィンの日にミリアと会えたから君と話がしたくて。そうだ、ミリア。trick or treat!」

 「…………」


 本当に部屋から出なければ良かったです。

 セドリックはドラキュラらしからぬ爽やかな笑顔でそうおっしゃいますので、私は仕方なくポケットから小さなチョコレートをいくつかある内のふた包み取り出して、セドリックへと差し出しました。

 するとセドリックはすぐに驚いた様子で、けれどきちんとチョコレートを受け取りました。


 「えっ、ミリア、くれるの?」

 「貴方が要求したのでしょう。いりませんか?」

 「いや、嬉しいよ!ただ、君がお菓子をくれるとは思わなかったから驚いて。ありがとう、ミリア。宝物にするよ!」

 「普通に食べてください」


 セドリックの溢れんばかりの、本当に嬉しそうな笑顔に少し引きました。本当に愛想のいい人です。
 まあ、そのおかげで隙ができ、立ち去ることができましたが。


 お菓子を持っていて良かったです。

 チョコレートを下さったスチュワートには感謝をしないとですね。

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